第914話:人間お手玉
帝都メルエルの裏町を情報屋カラザに案内してもらっている。
表通りのいかにも高級な店が並んでるところにも感心したけど、裏町もすげえ賑わってるじゃん。
治安のいい場所じゃないとは言っても、お貴族様にとってはでしょ?
カトマスと変わらんくらいだわ。
「とても綺麗で可愛いです!」
露店でビルカの声が弾む。
へー、結構な細工物だなあ。
材料は高いものじゃないんだろうけど、なかなか素敵じゃないか。
セレシアさんの店が帝都に進出したら、外注出してもいいんじゃね?
あ、リモネスさんはお茶買ってるな。
「精霊使いは何か買っていかねえのか?」
「あたしはどういうものを売ってて、どういう需要があるのかを見てる方が楽しいかなー」
「ハハッ、変わってるな」
「この店は?」
いろんな形のがあるけど、全部トウガラシ?
そんな店がやっていけるん?
「こんにちはー」
「はい、いらっしゃい」
「ここはトウガラシの専門店なの?」
「ええ。トウガラシの品揃えじゃどこにも負けないよ」
店主のお姉さん、自信満々じゃん。
裏町の方が面白い店あるなあ。
カラザが説明してくれる。
「裏町は安く店を出せるんだ。表通りの気取った店より、生活に即している店や専門的な店が多いんだぜ。観光で来てる人にウケるかはわからんが」
「いや、面白いよ。お姉さんはいろんなトウガラシを仕入れてるんだ?」
「そうよ。トウガラシ作ってる各地の農家と仲良くなってね」
「なるほどー」
人口が多いと、こーゆーニッチな商売が成り立つんだな。
勉強になるなあ。
「どれか買っていくかい?」
「あたしドーラ人なんだけど、向こうに植えて面白そうなのはどれかな?」
「ドーラ? ドーラには変わったトウガラシあるかい?」
「聞いたことないな。トウガラシあることはあるけど、人口少ないし腹に溜まるものじゃないから、真剣に栽培してる人はいないと思う」
「そうかい、残念だねえ……」
あたしも残念だわ。
調味料や香辛料が豊富なことって、食文化の発展に繋がるからな。
「これ、帝都では一番人気のトウガラシだよ。辛みも旨みも強いんだ。中の種を蒔けば生えるからどうだい?」
「ありがとう。買ってくよ」
「毎度!」
いいものが手に入ったなー。
味にアクセントをつけられるものの需要は、今後ドーラでも求められるかもしれない。
とゆーかハーブや香辛料の類の植物は、ドーラで積極的に栽培して広めないとな。
コショウみたいに輸出できるかもしれないし。
急に後ろから声をかけられる。
「おう、カラザ。ハクいスケ連れてるじゃねえか」
「ハクいスケのところ聞き取りづらかったな。もう一度言ってくれる?」
「いい度胸だな。ん?」
何人かを引き連れた、かなりいい身体したチンピラだ。
明るい黄色に近い茶色の髪の毛が全方向に逆立っている。
目立つなあ、どうやってるんだろ?
あれ、段々顔色悪くなってきたけど?
「お、おいカラザ。そこの女何者だよ?」
「客人だ。失礼があっちゃならねえぞ」
「ば、化け物……」
「おいこら、ちょっと待て。どーしてハクいスケから化け物にランクダウンした! 理由によっては寒中水泳させるぞ?」
「いや、すまねえ!」
リモネスのおっちゃんは何が面白いのよ?
ニヤニヤすんな。
ビルカが言う。
「ユーラシアさん。この方『サーチャー』の固有能力持ちです」
「おー、『サーチャー』か」
なるほど、あたしのレベルを見て驚いたのか。
「チャカの兄いがビビるほどのスケですかい?」
「おうおう、てめえはどこのどいつだ!」
「やめろ! 刺激するな!」
チャカと呼ばれたイガ頭が制止するが、あたしは心が広いから『化け物』とか言わない限り怒ったりしないぞ?
むしろイベントやエンターテインメントの類は大好き。
トラブルが大好物なんだろうって?
まあ否定はしないけど。
「あたしはドーラの冒険者だよ。レベル上限が一〇〇を超える固有能力が発現してるの」
「レベル一〇〇以上だ? フカすのも大概にしとけ」
イガ頭が蒼白になる中、その取り巻き達が笑う。
しょうがないなー。
「一人手下を借りるよ」
「え?」
お姫様抱っこから思い切り放り上げる。
「ひえええええええ!」
カラザと同じ悲鳴だ。
芸がないな。
「な、何のトリックだ!」
「あんたも高い高いされたいの? 早く言いなよ」
二人目を取っ捕まえて人間お手玉!
「あっ、人間って丸くないからお手玉難しい!」
「ひえええええええ!」
「ひやああああああ!」
「こらっ、叫ぶな! 気が散る!」
リモネスさんには楽しんでもらってる、カラザは呆気に取られてる、ビルカはオロオロしてる。
うーん、あたしに余裕がないのがエンターテインメントとして不完全と見た。
練習が必要だな。
何とか無傷で二人を降ろす。
いやーよかった。
めでたしめでたし。
「おい、精霊使い。何だよ今のは?」
「人間お手玉だってば。大分コツを掴んだから、次はもっとうまくできると思う」
イガ頭が言葉を選びながら聞いてくる。
ビビんなくていいって。
「姐さんのレベルは、冗談じゃないんですね?」
「冗談じゃないんだよ。ただあたしも正確な自分のレベルわかんないんだよね。今いくつなのかな? 教えてくれる?」
「一一四です」
「一一四かー」
リモネスさんが聞いてくる。
「ユーラシア殿は不満そうですな。一一四では足りませんかな?」
「不満とゆーわけじゃないんだけど、ブラックデモンズドラゴンとかカオナシはレベル一二〇なんだって。あたし自分より低いレベルの魔物は一撃で倒せるスキル持ってるんだ。もうちょっとだなーと思って」
「ブラックデモンズドラゴンって、伝説の『黒い災厄』?」
「大げさなもんじゃないよ。普通のドラゴンより一〇倍くらい強いだけ」
「姐さんはそいつを倒したことがあるんで?」
「あるよ。『逆鱗』っていうレア素材を四、五枚取れるから効率がいいんだよね」
「こ、効率?」
何だよ。
効率は別に難しい単語じゃないでしょ?
「帝都の裏町は活気があっていいところだとゆーことはわかったよ。あたしまたこっちに遊びに来ると思うから、その時はよろしくね」
「ええ、皆には重々言い聞かせておきますんで!」
イガ頭がカラザに聞く。
「姐さんをどこに連れていくつもりなんだ?」
「ビッケのところさ」
「ビッケ?」
「そりゃあ面白い!」
面白いらしいぞ?
楽しみだなあ。




