第913話:情報屋カラザ
雑談してる内に結構打ち解けてきた。
スリ未遂男は結構帝都の事情に通じてるやつだった。
楽しいな。
「ほお? あんたらは海の向こうから来たのか。移住者かい?」
「いや、旅行者なんだ」
何やら納得したような顔になるスリ未遂男。
誤解してるんじゃないかな?
声を落として言ってくる。
「要するにあんたら海外のVIPで、お忍びで帝都観光してるんだな?」
「は?」
全然見当違いってわけでもないけど、どうしてそーゆー結論になった?
思考回路の方に興味があるな。
「オレの目は誤魔化せねえ。そちら、賢者リモネスだろう?」
「いかにも」
リモネスさんが鷹揚に頷く。
「賢者リモネスみてえな大物がついて来ていて、只者のわけがねえじゃねえか。帝国の貴族なら帝都メルエル初めてってこたあないし、リモネスと言えば貴族や大商人との接触を嫌うことが知られている。残るは海外……おそらくはドーラだな」
「おお、すごいすごい! 当たってる!」
得意そうなスリ未遂男が続ける。
「最近法律の改正でドーラとの行き来が容易になったからな」
「なるほどー。そーゆー方向からドーラが出てきたのか。やるなあ」
「まあ簡単な推理だ。あんたらはドーラの王族か何かなんだな?」
「いや、ドーラには王様いないの。あたしは冒険者なんだ」
「冒険者?」
意味を計りかねている未遂男。
まあ別に秘密じゃないし、話したっていいだろ。
こいつは目端の利くやつだから、味方にしておくことに決めた。
かくかくしかじか。
「……つまり『アトラスの冒険者』ってのは、ある程度自由にあちこち行けると?」
「うん」
「……ウソ臭い話だが、ドーラから遊びに来たってのと矛盾はしねえな。しかし賢者殿とつるんでる理由にはならねえぞ?」
「皇宮のクエストだったんだよ」
まあリモネスさんと知り合ったのは別の場所だけど。
「いきなり皇宮に乗り込んだってことか? 取っ捕まるのがオチだろ」
「どこからどう見ても怪しいあんたなら捕まるかもしれないけど、あたしはどこからどう見ても怪しくないから大丈夫」
「ええ?」
首捻ったって事実なんだぞ。
「で、リモネスのおっちゃんや、近衛兵の皆と仲良くなってさ」
「マジかよ……」
「マジなんだよ。ウソだと思うならリモネスのおっちゃんに聞いてみ?」
鷹揚に頷くリモネスのおっちゃんに納得するスリ未遂男。
リモネスさんは信用があるなあ。
「ところであたしばっかり話してるじゃないか。二の月の水の冷たさを体感したくなかったら、そろそろあんたも面白いこと話せ」
「まだそのネタ引っ張るのかよ! どういう話を面白がるんだか知らねえが、賢者殿がいるならこんなのはどうだい? 三日前、港町タムポートに軍艦二艦がいたんだ。軍艦自体は珍しくはねえが、明らかに通常時より物資の積載量が多いんだな」
「へー、なるほど。帝国って何艦の軍艦を所持してるの?」
「全部で一五艦だ」
無論小さい艦や輸送艦みたいのはたくさんあるんだろうが、独立で作戦行動が可能なほどデカい軍艦が一五艦ということだろう。
メンテナンス中の艦もあるだろうし、本土防衛用に留守を守る艦も必要なはず。
してみるとドーラに来た八艦って最大限に近いな。
「二艦だと偵察?」
「どこかを攻めるって新聞報道もなかったから多分な。しかし積んでる武器や兵器は最新鋭だ。小さい国なら征服できる」
ふーん、リモネスさんも真剣に聞いてるぞ?
ただの偵察じゃなくて、結構重要な意味があると見た。
藍珠を一つ取り出し、未遂男に渡す。
「あんた、名前は? ちなみにあたしは美少女精霊使いユーラシアね」
「精霊使い? い、いや、これもらっていいのか?」
「いいよ。名前は?」
「情報屋のカラザってもんだ。ドーラが魔宝玉の産地ってのは本当なんだな」
「魔宝玉はある種の魔物のドロップなんだ。ドーラは魔物が多いんだよね」
「ほう? くわばらくわばら」
帝国人はド田舎とかじゃない限り、魔物とは縁遠いみたいだからな。
「今後カラザと話したい時はどうしたらいいかな?」
「裏町で情報屋のカラザの名を出してくれればいいが……正直治安のいい場所じゃないぜ?」
「あんたはその裏町で顔なんでしょ? あたしに下手に絡むと寒中水泳するハメになるぞーって言っといてよ」
アハハと笑い合う。
「気に入ったぜ。……少し確度は劣るんだが、あんたと賢者殿に伝えておきたい話があるんだ。聞いてくれるかい?」
「もちろん聞く」
ビルカごめんよ。
つまらないかもしれないね。
「裏町の変人の一人の呪術師が、皇宮に呼ばれたんだ」
「変人?」
「変人であることは重要じゃねえんだ」
アハハ、重要なのは呪術師が皇宮に呼ばれたことだとはわかってるけれども。
「呪術師が皇宮へ? 何で?」
「理由までは聞いてねえ。割のいい仕事が入ったと言ってたが」
呪術師が?
皇宮で?
割のいい仕事?
嫌な予感しかしない。
「その変人さんって、呪術の技能はどの程度なの?」
「条件を満たすだけのアイテムがあれば、人一人呪い殺せると豪語してたな」
「マジかよ」
リモネスさんが真剣な表情で腕を組み、ビルカは驚き口を押えている。
「で、もう皇宮に行ったんだ?」
「おそらく。最近裏町では姿を見ねえんだ」
呪殺の依頼か?
今は皇宮に留め置かれてる?
自分の技に自信があるから、腕を誇示する意味合いもあって話に応じたんだろう。
が……。
「バカなんじゃね?」
「精霊使いもそう思うか?」
「思うに決まってるだろ。失敗したら首ちょんぱ、成功したって口封じに首ちょんぱでしょ」
「言い方何とかならねえのかよ!」
「声大きいってばよ。落ち着け」
ふっと息を吐くカラザ。
「……もっと穏当な理由で呼ばれたとは考えられねえかな?」
「裏町ってのは、穏当な理由で皇宮に呼ばれる人が集まるところなん?」
「……だよな」
肩を落とすカラザ。
「でも皇宮に行ったと決まったわけじゃないんでしょ? ほっつき歩いてるだけかもしれないし」
「まあな」
「ふらっと帰ってきたら、説教してやんなよ」
「ああ、わかった」
接触できないんじゃ、当面手の打ちようがない。
「悪かった、つまらん話だったか?」
「割と面白かったよ」
「裏町は露店も多くて楽しめるぜ。一風変わった商売をしてるやつもいる。あんたにはお勧めだ」
「変わった商売?」
「行ってからのお楽しみだ」




