第912話:ここにもスリが
ビルカが小さな声で言う。
「……自分が強くなると、力を試したくなるんでしょうか? レベルは上げない方がいい?」
「戦いたいか戦いたくないかにレベルは関係ないなー。戦いの結果には関係するけど」
「でしょうか?」
「軍人さんは敵をやっつけることが自分の給料に直結するじゃん? だから敵は倒せってゆー発想になる。あたし達は違うじゃん? 今は敵でも将来はお客さんになるかもしれない。帝国なんかまさにそーだよ。大事なお客さんだから、数減らしたら損だ。だから犠牲はなるたけ小さくしてすませとこうねっていう」
「……身も蓋もないですね」
「世の中大体損得で決まるんだってば。付き合っとくと得だって思わせれば、大体仲良くなれるよ」
「真理ですな。それとも心理ですかな?」
どっちでも構わんけれども。
「ところでおっちゃんは、何の用があったかな?」
「ハハッ、わかりますか」
「そりゃまあ」
リモネスさん、結構露骨について来たそうだったし。
「私の固有能力について、ビルカ殿に口止めなさっていてくれたのでしょう?」
「うん」
リモネスさんが複数の固有能力持ちであることは間違いないだろうと思う。
あたしは『サトリ』と『鑑定』だと思っていたのだが、この前会った時に『鑑定』持ちではないことが判明している。
『サトリ』であることは公表してるのに、もう一つの能力については何も言わない。
となれば話題にするべきじゃないのだ。
「ビルカ殿、話していただけますか?」
「は、はい。『サトリ』と『断罪』です。ともに大変にレアな固有能力です」
「『断罪』? どんなやつ?」
信念を通す度合いを自分と相手とで比較し、自分が勝れば相手を竦ませることができるのだという。
なるほど、リモネスさんが信用されるわけだ。
「『断罪』の効果は自分と相手のレベルには関係なく?」
「はい」
「おっちゃん無敵やん」
「というわけでもありませぬぞ。例えば精霊使い殿には通じませぬ」
「そっかー。あたし我が儘だからなー」
アハハと笑い合う。
つまりあたしには通用しないから味方にしといた方が得という、わかりやすい理由で話してくれたらしい。
あたしもリモネスさんみたいな皇帝陛下に繋がってるような有力者で、しかも稀有な固有能力持ってる人を敵にしようなんて思わない。
でもゴリ押し上等の能力って結構いいな。
「近衛兵長さんが町歩き危険みたいなこと言ってたけど、おっちゃん敵がいるの?」
「聖火教徒では最も顔と名が売れておりますのでな」
「聖火教徒だと目をつけられてしまうのですか?」
「帝国では聖火教徒の扱いが悪いみたいなんだよ。ドーラでは一番知られてる宗教だけどなあ」
「ふむ? 汎神教は?」
「あたしと同じ名前の神様がいる宗教としか知らない」
「聞きませんねえ」
考え込むリモネスさん。
ドーラの宗教事情は知らなかったようだ。
帝国の植民地だったこともあって、汎神教優位という思い込みがあったかもしれない。
「この辺から商店街だね」
何を売ってるかな?
楽しみだなー。
◇
「透輝珠二個、六〇〇〇ゴールドで引き取りますがよろしいですか?」
「お願いしまーす」
リモネスさんに買い取り業者を紹介してもらい、透輝珠二個を処分した。
買い取り価格は標準だと言うが?
「ドーラの基準だと、これ一個一五〇〇ゴールドで買い取りなんだよ。こっちだとえらく高値で買ってくれるねえ」
「ハハハ、これからは直接帝都で売ってもらえますかな?」
「いやー、ドーラの業者も儲けさせてやらないといけないから」
ビルカに三〇〇〇ゴールド渡す。
「今日はありがとうね。これお礼だよ」
「いいんですか? こんなに」
「いいのいいの。こっちこそありがたいんだから」
より近衛兵さん達の信用を得られたしな。
信用はなかなか買えないものなのだ。
「さすがに帝都だなー。でっかい建物が多い」
「そうですねえ」
で、やっぱりスリも多かったりする。
「あいててててて!」
「ユーラシアさん、どうしました?」
「盗人ですかな?」
「まだ盗んでない! まだ盗んでない!」
「自分で『まだ』って言ってるの気付いてるか?」
「あっ!」
もー抜けたやつだな。
しかしどこへ行っても、あたしがスリのターゲットになるのはどういうことだ?
超絶美少女は目立つからか?
「参考までに聞きたいんだけど、何であたしを狙ったの?」
「キョロキョロして、どう見たってお上りさんじゃねえか。隙だらけだし」
「隙なんかねーよ!」
まったくどいつもこいつも。
「何か面白い話してくれれば許すけど」
「ハハン、実際に盗んだわけじゃねえ。罪にはならないんだぜ」
「そーなの?」
リモネスさんが顔を顰めながらも頷いている。
帝国の法では無罪か。
ドーラの法でも同じかもな?
「じゃあ、何か面白い話してくれれば、玩具にするの勘弁してあげる」
「は? 玩具?」
キメ顔を見せて思いっきり放り上げる。
「ひえええええええ!」
何度も悲鳴を上げさせてる内に、町往く人が集まって来る。
「何だ? 高い!」
「ほう、大道芸か?」
「姉ちゃん、すげえな! 何してるんだい?」
「これはねえ、あたしにスリを働こうとした不届きなやつだよ。まだ盗んでないから罪にならないとかふざけたことぬかしやがるから、高い高いしてるの。ところで近くに川か池ないかな? ちょっと手を滑らせて放り込みたい気分なんだ」
「か、勘弁してくれ! 凍死しちまう」
じゃー勘弁してやるか。
腰の抜けたスリ未遂男を地面に下ろす。
「「「「「「「「パチパチパチパチ!」」」」」」」」
期せずして起こる拍手。
皆さんありがとう!
あたしも皆さんにエンターテインメントを供給できて満足です。
「あたし達が帝都に初めて来たお上りさんなのは本当なんだよ。帝都の面白いこととか教えてくれない?」
「待ってくれ。足が震えて立てねえ」
しょうがないなー。
スリ未遂男をお姫様抱っこして、その辺の軽食屋へ。
意外そうな未遂男。
「奢ってくれるのかい?」
「うん。でも面白い話じゃなかったら水の冷たさを呪うんだよ?」
「わ、わかった」
すげえ愉快そうなリモネスさんと目を丸くするビルカ。
「じゃ、まずここの店で何がおいしいか教えてよ。もしおいしくなかったら、料理人の腕か帝国の気候かどっちかに文句言ってね」
「本当に勘弁してくれ!」
ジョークだとゆーのに。




