第910話:魔物肉に尻込み
「こんにちはー。美少女精霊使い再び参上!」
「よく来てくださった」
詰め所へ来たら、近衛兵長さんはじめ皆が歓迎してくれる。
あれ、思ったより皆固有能力に関心があるみたいだな?
何で関心がある人が多いのにお手頃な鑑定士がいないのか。
割と謎だ。
「鑑定士のビルカだよ」
「よろしくお願いします」
「おーいい子だな」
和気あいあい。
「で、こっちがお土産のお肉」
「おお、肉はありがたいな……えっ? どうなってんだ、そのカバン」
どう見てもナップザックより大きいお肉が複数出てきてビビる兵士達。
「これねえ、口より小さいものなら無限に入るの」
「ほう、『アイテムボックス』の類ですな?」
リモネスさんも来た。
「あ、おっちゃんいらっしゃい。ここの詰め所、オーブンがあるじゃん? お肉焼くしかないなーと思って持ってきたんだ。お昼に食べる? 今食べる?」
「「「「今!」」」」
「おお、皆パワフルだね」
アハハと笑いながら適当な大きさに切り分け、金串刺して炙り焼きと。
「でっきあっがりー!」
「何の肉なんだい?」
「コブタマンっていう魔物のお肉だよ」
「ま、魔物の肉?」
「……食ったことないな」
「帝国は魔物が少ないから、魔物肉を食べる機会がないのか」
「すごく美味しいんですよ」
今更尻込みする兵士達に、ビルカが心外そうに声をかける。
ビルカはイシュトバーンさん家で食べたことあるもんな。
どうやら帝国は地方でかなり魔物に対する意識の差があるみたいだ。
テンケン山岳地帯の聖火教徒達は、コッカーが美味いって教えてくれた。
帝都の近衛兵なんかシティボーイだから、魔物を食べるなんて想定外なんだな?
フルコンブ塩を振る。
「何だよー。じゃああたし食べちゃう」
「あっ、私にも!」
熱いのに注意してかぷり。
うーん美味い!
「おい、う、美味そうだな」
「すげえ美味いって。ドーラ人ウソ吐かない」
恐る恐る手を伸ばす兵士達。
「あっ、美味い!」
「メチャクチャ美味いじゃねえか!」
「美味い美味い!」
「語彙がすさまじく貧弱になってるよ」
ハハッ、取り合いになってるじゃねーか。
新鮮なコブタ肉はどう調理しても美味いと相場が決まっているのだ。
「まだまだあるから、持ってきた分は全部置いてくよ。今勤務中の人にも食べさせてあげてね」
「ドーラの魔物って、こんなに美味いのか?」
「美味いやつも不味いやつもいるよ。総じて肉食獣は不味いって聞いたな。これはかなり美味い方の魔物で、しかも炙り焼きで塩振って食べるとゆー、至高の調理法が確立してるの」
正確にはコブタマンはドーラの魔物じゃないんだが。
リモネスさんが聞いてくる。
「この塩は何ですかな?」
「海の女王が焼き肉食べる時だけに使用してる非売品の塩だよ。この黒い粒々が旨味成分をたくさん含んだ、海底特産のフルコンブっていう海藻なんだ。普通の塩で食べてもおいしいけど、今日はせっかくだから、皇帝陛下でも食べたことないような特級の美味さを味わってもらおうと思ったの」
近衛兵長さんが唸る。
「なるほど素晴らしい。特級品だ。こんな肉は食べたことがない」
「魚人とは敵対しているのではないのですな?」
リモネスさんが聞いてくる。
まあ、皆に聞かせるためなのだろうが。
「ちょっとドーラのノーマル人と海の一族の関係は複雑なの。海の女王も完全にドーラ近海を統治してるわけじゃないんだ」
皆興味津々やないけ。
やっぱ近衛兵っていう職業上、争いとか戦いとかには関心があるんだろうか?
それとも魚人はあまり帝国に馴染みがないからかな?
「女王にとっての敵対勢力もいるから、パトロール隊を出しててさ。ドーラでは首都のレイノス以外から船出すとそのパトロール隊に沈められるけど、海の王国とは敵ではないよ。交易もしてる。さっきの塩とか変わったお酒とかあるから、いずれ貿易が活発になると帝国本土にも入ると思う」
「ほう?」
「酒はいいな」
「海藻を原料としたお酒だよ。女王の姿は、来月くらいにこっちでも発売される画集で見られるから、興味あったら買ってね」
「「「「画集?」」」」
お客さん候補に撒き餌撒き餌と。
「画集だと字を読める読めない関係なしに楽しめるでしょ? 本は高いけど、大量に売ったら安くできるんじゃないかって実験兼ねてるんだ。ドーラでの販売価格は六〇ゴールド」
「「「「六〇ゴールド?」」」」
「異常に安い!」
「うーん、でも海を渡るとどのくらいのお値段になるのか、ちょっとその辺の事情はわかんない」
「売り出す画集のモデルが海の女王ってことなのか?」
「女王もモデルの一人ってゆー意味だよ。あとはドーラ一の美人とかエルフの女族長とか? モデルは全部で二〇人ね。ドーラに遊びに来てるリリー皇女もモデルだよ」
これくらいの情報提供は構わんだろ。
驚く兵士達。
「リリー様はドーラにいるのか?」
「独立前の去年の秋からいるよ。居心地がいいらしくて、しばらく滞在するみたいだけど」
これでいい。
リリーがドーラにいることがナチュラルに知られるのがベスト。
モデルになるくらい認知されてるものと思ってください。
リリーが将来帝国に帰ることになっても、これなら支障あるまい。
「……そういえば年末の武道大会、リリー様出場してなかったな」
「体調を崩されたという噂があったが」
「田舎で静養されているものと思ってた」
「元気も元気、冒険者やってるよ」
「「「「冒険者?」」」」
意外そうですね?
帝国本土の人にとってリリーは、冒険者のイメージがないんだろうか?
あたしと初めて会った時、武闘着だったけど。
「何かリリーは修行みたいなの好きみたいだよ? 初めて会った時、何しにドーラ来たのって聞いたら、武者修行って言ってたわ。ほとんど毎日魔物退治してると思う。今はもう、近衛兵長さんと大して変わんないレベルだよ」
「ほう。リリー様はストイックなのだなあ」
ハハッ、毎日昼まで寝てるほどストイックだってばよ。
「ごちそうさまっ!」
「ああ、最高の肉だった」
「でしょ? 次来る時も持ってくるからね」
「楽しみだなあ」
お肉はいいなあ。
誰もが楽しみにしてくれるよ。
世界平和の秘訣のような気がする。
「さて、今日のメインイベントいこうか。皆さんの固有能力の有無と、その種類を調べるよー。ビルカお願い」
「はい!」




