第1782話:ちょうどいいお供ができた
――――――――――二七八日目。
「もうハマボウフウはダメだな」
うちの子達と海岸に来ている。
『地図の石版』が流れ着く浜辺であり、極大魔法による津波を起こした地でもある。
考えてみれば去年の九の月の一日に、『地図の石版』を拾ったことで全てが始まった。
もし拾わなかったら、今でもクララと二人の生活だったかもしれないのか。
つまり目敏く石板を見つけたあたし偉い。
「春には結構おいしかったでやすぜ」
「今のシーズンはツルナやオカヒジキがデリシャスね」
「あんた達も食べられる野草をよく覚えたなあ。偉い偉い」
結構おいしい野草は多いのだ。
ここの海岸はあたし達以外誰も来ないので、取り放題である。
「シーアスパラガスが増えてきましたね。今日少し食べてみましょうか?」
「「「賛成!」」」
ゼムリヤでもらったシーアスパラガス。
潮溜まりで増える変わった野菜だ。
本来は寒い地方の植物らしいので、生育するにはちょっとドーラは厳しいかもしれない。
夏を越せるだろうか?
「まだノーマル人居住域じゃないけど、ドーラも寒い地方はあるからさ。一応生かしておきたいんだよね。将来活躍しないとも限らない」
「姉御は収集癖がありやすねえ」
「そーなのかな?」
役に立つ植物は集めたくなるかも。
おいしい植物は特にだ。
「よし、たっぷり摘めた。素材も拾った。帰ろうか」
「フィッシュをイートしたいね」
「シーアスパラガスは肉と炒めた方が合うと思いますけど」
「じゃあお昼は魚で夜は肉アスパラかな」
「姉御は昼帰って来るんで?」
「いや、どーだろ? サッパリわかんない」
今日の午前中は、フィフィの爺ちゃんランプレヒト伯爵に会いたいと思っている。
とはいってもアポ取ってるわけじゃなし、空振りの可能性も高い。
「ま、会えなきゃすぐ帰ってくるよ。そしたら魔境行こうか」
「「「賛成!」」」
「帰ってこないようだったら昼食べちゃっててね」
方針決まり。
帰途に就く。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「やあ、精霊使い君いらっしゃい」
皇宮にやって来た。
いつものサボリ土魔法使い近衛兵が言う。
「ノルトマン様が近衛兵詰め所にいらしているんだ」
「えっ? ということはニライちゃんと一緒に?」
「そうだ」
「伯爵様が皇宮で何やってるの?」
「御機嫌伺いだそうだぞ? 領地へ帰られていたらしいんだが、皇帝選の投票をするために帝都へ戻ってきたとか」
領地で外せない用があったのかな?
ツムシュテーク伯爵家領は港町タムポートの隣だったか。
近いから簡単に行き来できるんだろうな。
「あれ? 奥さんのラウラカミラさんは帝都にいたよね? ノルトマンさんは一人で領地に帰ってたのかな?」
「いや、ニライカナイ嬢も一緒だったらしいぞ。どっちにしてもすぐ帝都に戻る予定だったのかもな」
商売の都合か何かで、一旦領地に指示を出してきたってことか。
領主様も忙しいもんだ。
「で、どうして伯爵様とニライちゃんが来てるのよ?」
「ニライカナイ嬢が君に会いたいとのことだそうな」
「何だ、御機嫌伺いってあたしの御機嫌か。よきにはからえ」
アハハと笑い合う。
ニライちゃん主導なら、スライムどうこうっていう用件じゃないな。
「つまり遊びに来たのか。でもあたしが来るか来ないかなんてわからんだろうに」
「君が来るのは大体午前中だろう? 来なきゃ諦めもつくんだろ」
「ええ? 何か申し訳ないなあ」
よっぽど暇なんだろうか。
時間の使い方が贅沢で貴族って感じはするけど。
「ところで精霊使い君は何の用なんだい?」
「ランプレヒト伯爵に会ってこようと思って」
フィフィの本が好評な今このタイミングで一度、祖父のランプレヒトさんに会っておきたいという意図がある。
話を聞く限り、ランプレヒトさん自身も興味深い武人みたいだしな?
商売には関係してこないみたいだけど。
「ああ、ランプレヒト様か。面識はないんだろう?」
「ないねえ。でもノルトマンさんも元騎士だから、ランプレヒトさんと濃い付き合いがありそうだよね?」
「ノルトマン様をダシにするつもりなのか」
「使えるものは何でも」
「ひどいなあ」
アハハ、あたしの役に立ってちょうだい。
「ランプレヒト様とノルトマン様はかなり年齢が離れているが、ランプレヒト様が騎士団長を務めていらした期間は長い。交流はあるんじゃないかな」
「やたっ! ノルトマンさんも連れていこ。ランプレヒトさんに会ったことないから、何となく気後れするんだよね」
「気後れって……君が?」
「不思議そうな顔すんな。知らない人に会おうとするのは度胸がいるんだよ」
第一印象ってのはメッチャ大事なのだ。
とゆーか第一印象悪いけどあとで挽回しようなんて面倒なこと、あたしはしたくない。
時間のムダ。
「言ってることはわかるんだが、君度胸は売るほどあるだろう?」
「ないわ! 小さな胸をドキドキさせてるわ!」
「小さい胸だぬ!」
ヴィルは一〇〇%の確率で拾うなあ。
笑いながら詰め所にとうちゃーく。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「ユーラシア!」
ニライちゃんとヴィルが飛びついてきた。
よしよし、あんた達は可愛いのう。
ぎゅっとしてやる。
「ニライちゃんにお土産をあげよう」
「何ぞなもし?」
「本だよ」
フィフィの本を取り出す。
「ニライちゃんはどこまで文字を読み書きできるようになったかな? これはとても面白い本だから、一人でゆっくり読み進めてもいいし、誰かに読んでもらってもいいから、楽しんでね」
「ありがとうぞなもし!」
ノルトマンさんが興味ありげだ。
「例のフィフィリア嬢が書いたという本ですかな?」
「そうそう。今からランプレヒト伯爵のところ行くんだ。孫のフィフィがドーラで頑張ってるぞってことを教えてやりたいんだよね。あたしランプレヒトさんと面識がないから、ノルトマンさん付き合ってよ」
「ハハハ、構いませんぞ。私もしばらく挨拶を欠かしておりましたので、ちょうどよかったです」
さてはランプレヒトさんって結構キツい人だな?
ノルトマンさんったらあたしをクッションにする気らしい。
ま、ついて来てくれるならあたしとしては好都合だから、一向に構わんけれども。
「じゃ、行こうか。近衛兵の皆さんにお土産のお肉だよ。おいしく食べてくださいな」




