第1769話:イモが転がるだけで笑っちゃう
フイィィーンシュパパパッ。
リリーと黒服を連れて塔の村に戻ってきた。
リリーはデス爺製の転移の玉を持ってるから、自分で帰ってこられるだろうって?
そりゃそうなんだが、余韻を楽しみたい時だってあるじゃん。
「今日はすまなんだな。皇宮も風通しが良くなると思う」
「いいんだぞ? ヴィクトリアさんと上皇妃様の仲がいい方が、あたしの都合もいいんだから」
スムーズな人間関係とスムーズな意思疎通とゆーのは、物事をうまくいかせるための前提条件みたいなもんだ。
あたしのメッチャ重要視している部分。
それこそ皇宮や社交界の居心地がいいんだったら、リリーがドーラにいる意味は薄くなる気がする。
冒険者活動もいいけど、リリーは皇女という身分から結局逃れられないだろうしなあ。
帝国に帰る選択肢もあるんだが?
「リリーはこれからどうすんの?」
「夕食までまだ時間があるからな。ダンジョンに潜ってくる」
「うん、行ってらー」
「行くんだぬ!」
手を振ってリリー黒服と別れる。
……あたしが言った『これから』は、もう少し長いスパンで自分の人生をどう考えてるかを聞きたかったのだが。
まあリリーもイモが転がるだけで笑っちゃうお年頃だから、まだまだダンジョンに魅せられるんだろう。
自分でも何言ってるんだかわからねえ。
「さて、エルがどこかにいないかなっと」
そろそろ帰ってくる時間のはずなんだが。
「あそこにいるぬよ?」
「ラッキーだな。おーい、エル!」
「ユーラシア!」
駆け寄ってくるエルのパーティー。
「最近リリーと絡むことが多くて、ボクと遊んでくれないじゃないか」
「何なんだ、この寂しんぼめ」
「エル様はとても寂しがり屋なのです、夜な夜な枕を涙で濡らしているのです」
「ウソだっ!」
「よく干しておくんだよ」
「おくんだぬ!」
大笑い。
「枕は干しておくとして、ボクに何か用だったか?」
「干すんかい。いや、しばらく音沙汰なかったんだけどさ。どーもエルの母ちゃんはまだこっちの世界に拘ってるっぽい。とゆーか、エルがこっちにいるの感付いてるんじゃないかっていうふしがある」
緊張が走る。
赤眼天使エンジェルがもう一度視察に来るということ。
そしてたわわ姫からの情報を合わせての推測だが。
「エルはこっちの世界にいたいんでしょ?」
「無論だ」
「おそらく向こうの世界のアクションは、エルを取り返そうとするっていう方向性だと思う。対抗するには……」
「レベルか」
こっくり。
その通り。
何故ならレベルは大体何でも解決するから。
「エンジェルさんがエルを捕まえようとしてるとして、どんな手段を使ってくるとかヤバい魔道具があるとかわかる?」
「いや、わからないな」
「だよねえ。じゃあマジでレベル上げとくくらいしか、対策がない」
不安そうなエル。
あっちの世界の文化は進んでるもんな。
しかし赤眼天使はエルの情報を得られていないようだ。
エルが冒険者活動をしていて、かつ上級冒険者レベルになってるなんて想像の外に違いない。
裏をかける。
「向こうの世界では『スキルキャンセラ』というスキルが普及してるそーな」
「知らないな。どういうスキルだ?」
「先制でかかって全ての魔法・バトルスキルの発動を止めてしまうスキルだって。そんなん大人数で連打されたら何もできないけど、対抗手段がないわけでもない。一つの手段がドーラで開発された盾の魔法『ファストシールド』だよ。短時間相手のどんな攻撃もダメージを通らなくする。もちろん『スキルキャンセラ』も通らない」
『スキルキャンセラ』でこっちの大技を防ぎつつ、一方的に大技を仕掛けてくるという作戦は、『ファストシールド』があれば凌げそう。
ただ凌げるだけで守勢から抜けられないけどな。
チャグが難しそうな顔をする。
「ふむ、しかし魔法やバトルスキルは通用しないと思った方がいいでござるな」
「頼りになるのは自力だぴょん?」
「そうそう、レベルの暴力」
マジックポイントを使用する魔法やバトルスキルの使用を禁止する固有能力『抑圧者』の持ち主がいれば、一回は襲撃を防げるかも。
まーでもいつ来るかわかんないんじゃ難しいな。
おまけに対策されるともうその手段は使えない。
技術の進んでる異世界は取れる方法も多いだろうから、何度も来られるとジリ貧になるなあ。
「あたしは向こうの情報を集めること、なるべく時間稼ぐことに注力するよ」
「わかった。ボクはとにかくレベルを上げることに全力だな?」
「うん、頑張れ。あたしは帰る」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「ユーちゃんとお肉いらっしゃい」
「先回りされたぞ?」
チュートリアルルームにやって来た。
お土産のお肉を渡すと小躍りするバエちゃん。
愉快なカラクリだこと。
「フルステータスパネル使わせてくれない?」
「もちろんいいけど、何で?」
「多分レベルカンストしたと思う。だけど手持ちのギルドカードじゃレベル九九までしか測れないんだよね。一応確認しておきたいの」
「わかったわ」
青く大きなパネルを起動するバエちゃん。
掌を当てる。
「……本当にレベル一五〇なのね」
「よーし、やっぱカンストか」
「あれ、待って? 固有能力七つ?」
「あ、そうそう。また増えちゃった」
「増えちゃったって……『自然抵抗』『精霊使い』『発気術』『閃き』『ゴールデンラッキー』『限突一五〇』『強奪』……『強奪』?」
「『強奪』は他人に知られるとウケが悪いんだって。内緒にしといてくれる?」
「う、うん」
他人の固有能力を奪い取れる力だ。
セウェルス第三皇子と妙な対決になっちゃったが、今後も使う機会があるかな?
赤眼天使エンジェルさんから『ダウト』の固有能力を取り上げちゃえば、怖がってこっちの世界に干渉しなくなるかもしれないが……。
「……そんなのはあたしのやり方じゃないしな」
「何が?」
「いや、こっちの話。あたしはあたしらしくあるのが魅力の根源ってこと」
バエちゃんこそお肉に見とれてあんま聞いてないじゃん。
「えーと、盾の魔法はここで買えるんだっけ?」
「売ってるわよ」
「四本買っていこうかな。いや、ストック分含めて六本ちょうだい」
「毎度あり」
エルにあげよ。
「じゃねー、また来るよ」
「またね」
転移の玉を起動し帰宅する。




