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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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1762/2453

第1762話:ラードちゃん(笑)

「サイナスさん、こんばんはー」

『ああ、こんばんは』


 毎晩恒例のヴィル通信だ。


『どうだった?』

「あたしはいつも元気だよ」

『そうでなくて』

「あたしはいつも可憐だよ」

『そうでもなくて』


 どうだったろ?

 あたしを形容する属性がちょっと足りなかったかもしれないな。

 あたしはいつも元気で可憐で清楚で美麗で高貴な聖女だよ。


『エメリッヒ氏の実家とのブタ飼育に関する交渉のことだよ』

「最も気になるあたしのことじゃなくて、あえてブタの方を話題にするサイナスさんもなかなか奥ゆかしいね」

『今日は随分溜めが大きいじゃないか。相当好みのイベントだったんだな?』

「サイナスさんは鋭いなー」


 サイナスさんのエンターテインメントを嗅ぎつける感覚が段々研ぎ澄まされていくな。

 いや、意外なところから面白くなっちゃったんだよ。


「エメリッヒさんの継母が主役だった」

『ふむ? 継母のせいでエメリッヒ氏は実家を追い出され、宮廷魔道士になったんだろう? ホームレスを経由してドーラに流れてくる羽目になった』

「ドーラにとっては大恩人だねえ。エメリッヒさんのような有能な人材を手に入れることができて、ひっじょーにありがたいよ」

『君の感覚は実に自分本位だなあ』


 褒められていると思っておく。

 エメリッヒさんが追い出されたってのは、ハッキリ聞いたことがあるわけじゃないけど大体正解なんだろう。

 嫡男なのに、弟(?)ディートマルさんが跡継ぎ扱いみたいだったようだし。


「会う前から期待してたんだよ。グラマラスな美人だってエメリッヒさんが言うから。悪役系の美人も帝国版『女達』を飾る一人としていいかななんて考えてたら、脂肪の塊が出てきちゃった。ぷっくぷくやぞ」

『ハハッ、名前は?』

「さっきまで覚えてたんだけど忘れちゃったな。ラードさんだったかな?」


 まー思い出そうとするだけムダだ。

 ムダなことは嫌い。


「現在のギレスベルガー家当主のフェーベ女子爵は、領主屋敷に住んでなくてさ。領主屋敷にはエメリッヒさんのお父ちゃんの前子爵カスパーさん、継母のラードさん、弟(?)のディートマルさんが住んでる。で、ブタ飼育の資料は領主屋敷にあるとゆー構図なんだよね」

『トラブルが起きてくださいの構図だな』

「割とあたし好みのやつだね」


 もっともブタの再生プロジェクトがかかってるので、笑いを愛するあたしがあんまり前面に出てきちゃいけない場面なのだ。


『で、フェーベさんがドーラに貸すからブタの資料出してって言ったら、ラードのおばちゃんがダメだ、子爵位を盗み取った女が何を言うって」

『前子爵と弟(?)に抑える義務があるだろうが』

「本来ならね。でもラードちゃんはヒステリックだから、逆らうの嫌だったんじゃないかな?」

『面白いな。どう解決したんだい?』


 サイナスさんノってきましたね。


「封爵大臣のデニスさんって人をヴィルに連れてきてもらってさ。間違って血の繋がりがない人が子爵位継いだら、当人とその母親には三つの選択肢しかないぞって言い聞かせてもらった」

『三つの選択肢とは何だい?』

「銃殺か火炙りか縛り首だって」

『帝国特有の言い回しかな?』

「みたいだね。簡単に処刑に使えるほど、帝国では銃が発達してるんだなーって感心した」

『感心するところがひどい』


 ドーラだと銃の必要な場面では、攻撃魔法か弓矢だろうからね。


「その後かくなる上はやっておしまいなさいって、ラードちゃんが警備員一〇人くらいをけしかけてきたんで、ちぎっては投げちぎっては投げっていうお決まりの展開があって」

『比喩じゃなくて本当に放り投げてたんだろうなあ』

「ラードちゃん、あたしの実力を知らなかったみたいだね」

『思ったほど面白くなかったな。意外性がない』

「エンタメの壁が高いなー」


 デニスさんには喜んでもらえたのに。


『最終的に継母と弟(?)が逮捕か?』

「いや、弟(?)ディートマルさんは、爵位継承権の完全放棄と帝国並びにギレスベルガー家当主への絶対の忠誠を条件でお咎めなし。ラードちゃんは謹慎ってことになるかな」

『えらく処分が甘いじゃないか。弟(?)が前子爵の血を継いでない証拠がないからか?』

「父子関係は魔道的に調べられるんだそーな。帝国すごい」

『父子関係は調べないのか?』


 調べないのだ。


「ラードちゃんは単なる脂肪の塊だけど、弟(?)ディートマルさんはなかなか聡明な人なんだよね。父カスパーさんも叔母フェーベさんも、処分するには惜しいと思ってたみたいで」

『じゃあ弟(?)が継母を抑えりゃよかったじゃないか』

「それはそれで危険じゃん。帝国のこの手の処分がすげえ厳しいってこと、貴族の教育を受けて初めて知ることらしくて。ラードちゃんは平民の出で知らんから、とち狂ってディートマルちゃんはカスパーの子ではないのですわっなんて言い出したら、銃殺か火炙りか縛り首を選ばなきゃいけなくなっちゃう」

『ははあ? 結構状況が綱渡りだな。だから封爵大臣の権威を当てにしたのか』

「うん。確かに勧善懲悪がモットーのあたし好みでない決着の仕方ではあったよ」

『君は敵でも見境なく味方にするのがモットーじゃないのか?』

「見境はあるとゆーのに。使える人材は味方にしたいってだけだわ」


 ラードはいらんわ。


「弟(?)ディートマルさんが後継者として育てられてたのは事実なんだ。継承詐欺問題は未遂でも罰せられるみたいでさ。親子鑑定にかけちゃうと言い逃れできないから、うやむやに」

『で、いつもの説得力で封爵大臣も丸め込んだと』

「正解でーす」

『これはあまりえぐくない気がする』


 一件落着だってばよ。


「肝心のブタ飼育に関する資料についてだよ。かなりの量があってわかりづらいらしいんだ。ある程度整理して渡してくれるって。六日後の予定」

『話が進むとワクワクするなあ』

「楽しみだねえ。向こうのフェーベ女子爵カスパー前子爵弟(?)ディートマルさんが飼育の様子見に来るって」

『ほう、意気込みが伝わるね』


 うむ、こっちもやる気になる。

 やってるのはエルフだけど。


「サイナスさん、おやすみなさい」

『ああ、御苦労だったね。おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『わかったぬ!』


 明日はヴィクトリアさん上皇妃様のごたいめーん!

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