第1760話:エーレンベルク伯爵家当主のランプレヒトさん
「ほう、カスパー元子爵の……」
テルミッツの領主屋敷で昼食をいただいたあと、デニスさんエメリッヒさんとともに施政館へやって来た。
封爵大臣デニスさんのおかげで、ギレスベルガー家の内輪揉めは大事になる前に鎮火した。
大事になる方が好みだろうって?
そんなことないわ。
あたしは最大の利益を得られる決着が好きだわ。
ブタ復活相互協力プロジェクトがポシャらなくてよかった。
エメリッヒさんとデニス封爵大臣が言う。
「オレの母親は産褥で亡くなったという話だ」
「継室のグレーテルという平民上がりの女が全ての問題でした。封爵省でもある程度は事態を把握していたのですが、問題が表面化しなかったので介入する権限がなく。今回は騒動となる前に未遂で終わらせることができたので良かったです」
悪い顔で付け加えるデニスさん。
「あのグレーテルという無思慮な女に、鉄槌を食らわせることができなかったことだけが無念ですが」
「デニスさん怖っ!」
「あんたの丸いおばちゃんブタのおばちゃん呼びが、一番ダメージ与えてたからな?」
「丸いブタだぬ!」
アハハと笑い合う。
主席執政官閣下が言う。
「今後ギレスベルガー子爵家は問題ないんだな?」
「危険度は低下しました」
「デニスさんが釘刺してたから大丈夫だと思う」
さすがにブタのおばちゃんが次何かやらかしそーになったら、カスパーさんとディートマルさんが止めるだろ。
お家の存続に関わるもんな。
ドーラ流しドラゴンのエサの刑が好みなら協力するよ。
「現子爵のフェーベさんって結婚してるんだっけ? 次の子爵はどうなるんだろ?」
「フェーベ叔母は早くに夫を亡くしているが……」
「他家に嫁いでいる姉がおります。そちらが子だくさんですから、養子をもらうことを考えているかと思いますよ」
つまりエメリッヒさんから見ると従兄弟が多いということらしい。
じゃあ大丈夫そうだな。
「デニスさんって貴族の事情をよく知ってるなあ」
「職務ですから」
マジで帝国には有能な役人が多い。
ドーラにはオルムスさんしかいないじゃん。
何とかならんものか。
「失礼します」
「あ、プリンス。こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「ユーラシア君か。そちらはエメリッヒ殿、でしたか?」
プリンスルキウスとエメリッヒさんはレイノス港で一度会ってるんだったな。
「何故施政館へ?」
「ギレスベルガー子爵家の内紛を、ユーラシアさんが抑えてくださいまして」
「こっちの商売に差し支えるんだよ。結果的にそーなっただけ」
「ああ、デニス殿の管轄の関係ですか」
デニスさんの管轄ね。
この際だから疑問な点は聞いとくか。
「何でフィフィはプリンスの元婚約者だったの? 父ババドーン元男爵がエーレンベルク筆頭伯爵家の出で、釣り合いが取れてないこともないからってのは聞いたけど」
世が世ならプリンスは、ババドーン男爵の跡を継いでガータンの領主ということもあり得たわけだ。
昔のことはいざ知らず、今のプリンスルキウスは高レベルの『威厳』が効きまくる。
男爵程度の領主ではもったいない。
そもそもお相手がフィフィではなあ。
苦笑するデニスさん。
「ババドーン様のプッシュが強かったのだろうと。またフィフィリア嬢は一人娘ですから、男爵を継ぐ未来も見据えていたんだろうと推察していました。ルキウス様、どうなんですか?」
「まったくその通りだ」
「人生急カーブだねえ」
「曲げたのはユーラシア君だからな? 君とババドーン殿との関わりを教えてくれ。よく知らない部分なんだ」
「元男爵本人と関わりがあるのか?」
あれ、皆興味津々ですね?
「えーと、ドーラ独立戦争でのあたしの役割は、飛空艇を壊してテンケン山岳地帯で暴れてろってことだった。ここまではいいかな?」
「初耳です」
デニスさんとエメリッヒさんはまあ。
飛空艇に関しては秘密になってることが多いみたいだし。
「ババドーンのおっちゃんは山に役人として、歩兵を連れて二度派遣されてきたんだ。飛空艇を墜落させ破壊した容疑で逮捕する言いやがったから、そんなことできるわけないだろ常識で考えろ。誤認逮捕したら経歴に傷がつくぞバカ扱いされるぞって言ったら、何もせずに帰っちゃってさ。あとで攻めてきたマックス中佐を捕まえて様子聞いたら、物理的にクビになるみたいな話を聞いたの。悪いことしちゃったなーって思ってた」
「ババドーンは素行が悪く要領のいいやつでな。いつか天罰が当たるだろうとは言われていたんだ。帝国の貴族として相応しくなかった。何よりエーレンベルク伯爵家当主のランプレヒト殿の怒りが凄まじく、厳しい処分になったんだ」
「ランプレヒトさんってどういう人?」
「気になるかい? かなり長い間騎士団長を務めていたんだ。迫力があって気性のサッパリした、いかにもな武人だよ」
「そーゆー人だとババドーンのおっちゃんと合わないかもなあ」
「恥晒しの家名に泥を塗ったの、散々な言いようだったな」
「ふーん。ランプレヒトさんに会ってみたいな」
意外そうな主席執政官閣下とプリンスルキウス。
何でかな?
「ランプレヒト殿はヤマタノオロチ退治の勇士ユーラシア君に興味あるかもしれないが……」
「うん、ユーラシア君が会いたがる理由は何だろうな?」
どうやら商売には関係してきそうにない人らしい。
「ババドーンのおっちゃんは色々やらかして自業自得なんだろうけど、フィフィは悪いことしたわけじゃないじゃん? もしランプレヒトさんがフィフィのことを誤解してるんだったら、名誉を回復してやろうかと思って」
誇りあるエーレンベルクの家名にこれ以上傷をつけるわけにいかないからドーラに来たと、フィフィは言っていた。
自分の身を顧みず家を思うのは、誇りある貴族の行いなのではないか?
「世話焼きだね。ユーラシア君のいいところなのかもしれないが」
「フィフィの本を推してくれると売れ行きが違ってくるかもしれないし」
「商売の事情が絡むなあ」
「絡むんだぬ!」
アハハと笑い合う。
「ランプレヒト殿は皇帝選の投票のために帝都に上ったと連絡があった。近日中に来て、しばらくは帝都にいるつもりじゃないかな」
「ありがとう。近い内に行ってみるよ」
用件はお終いかな。
「じゃ、帰るね」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。




