第1758話:難しい勝利条件
「まず前当主カスパーさんに聞きまーす! フェーベさんへの子爵位継承は正当であったと考えますか?」
「もちろんだ。俺の決めたことであるしな」
「丸いおばちゃんはどうしてディートマルちゃんが子爵じゃないのっ! きーっって思ってるみたいだけど、その辺に御意見はありますか?」
「ない」
雰囲気がピリついてきた。
よしよし、ヴィルこっちおいで。
カスパーさんはフェーベさんへの継承を承認することのみに議論を限定し、ディートマルさんの血統問題に触れる気はないようだ。
まあ当然だろうな。
切り込め!
「ディートマルさんに聞きまーす! ディートマルさんはカスパーさんの血を継いでないから後継者から外されたんじゃないかって説があるけど、自分ではどう思う?」
「デタラメですわっ!」
おばちゃんが金切り声あげるけど、ディートマルさんは落ち着いたもんだ。
「ハハッ、噂があることは知っている。私の不徳のなすところかもしれんが、自分の努力ではどうにもならんことだ。考えるだけムダだろう」
「ディートマルさんはやるなあ」
よくできた男だ。
立派な体格以外はブタおばちゃんの息子と思えん。
カスパーさんも自分の息子でないことに気付いていながら、ディートマルさんの器量が惜しくて、ギリギリまで引っ張っちゃったのかもしれないな。
フェーベさんが庇う気持ちもわかる。
フェーベさんが帝都で社交を、ディートマルさんが領政をという体制が、ギレスベルガー家にとってベストだと思えるからだ。
しかし勝利条件が難しくなったぞ?
フェーベさんをトップだと認めさせつつ、ブタのおばちゃんを排除し、ディートマルさんを無実にしなきゃなんないわけか。
むーん?
「おばちゃんに聞きまーす! もしディートマルさんがカスパーさんの血を引かないのに子爵になっちゃうと、おばちゃんともども極刑になっちゃうんだけど、知ってた?」
「それこそデタラメですわっ!」
「デタラメじゃないんだぞ? ここで専門家を召喚しまーす。ヴィル、閣下と連絡取ってくれる?」
「了解だぬ!」
新しい転移の玉とビーコンを交換し、消え失せるヴィル。
エメリッヒさんが聞いてくる。
「閣下って誰だ?」
「施政館の主席執政官ドミティウス皇子殿下だよ」
「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」
驚愕の中、赤プレートに反応がある。
『御主人! ドミティウスだぬ!』
『ユーラシア君かい?』
「そうそう、世界を照らす麗しの美少女ことあたし」
『ハハッ、また愉快なことに首突っ込んでそうだね』
「今商売上の提携の話で、ギレスベルガー家領テルミッツに来てるんだ。ギレスベルガー家って一ヶ月くらい前に代替わりしてるじゃん?」
『ああ、お家騒動かい?』
「騒動にはなってないけどちょっと揉めてる。聞き分けのない人に言い聞かせてやりたいから、デニスさん貸してくれない?」
『封爵省の重要な役割ではあるな。いいだろう』
「やたっ! ヴィル、デニスさん連れてきてね」
『わかったぬ!』
あれ、皆さんから声が出ませんね。
質問タイムですよ?
あ、もう来ちゃったわ。
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
飛びついてきたヴィルをぎゅっとしてやる。
ヴィルとともにやって来た封爵大臣デニスさんが感心しているようだ。
「デニスさん、急に呼んじゃってごめんね」
「いえいえ、転移とはこういうものでしたか。いい経験になりましたよ」
事務的な雰囲気を漂わせた濃い青髪の男が笑う。
「デニス封爵大臣」
「これはカスパー様、フェーベ様。今日は何用でしたでしょうか?」
いきなりの封爵大臣登場におばちゃんビビってるな。
「専門家の意見が聞きたいんだ。仮に母親の不貞で爵位を持つ父親の血を継がない子が、父親と封爵省を騙して爵位を継いだらどうなる?」
「母親とその子には三つの選択肢があります」
「へー。三つもあるんだ」
あれ、どうしたの?
皆の顔が引きつってるけど?
「銃殺か火炙りか縛り首です」
「帝国の定番の言い回しなのか。面白いな。ドーラではレッドドラゴンのエサがいいかアイスドラゴンのエサがいいか、選ばせてやるって言うんだよ」
アハハ、あれ、ヴィルが引っついてきたわ。
肩車してやろうね。
おばちゃん再びの金切り声。
「で、デタラメですわっ!」
「デタラメではないとゆーのに。プロの意見だとゆーのに。カスパーさんフェーベさんディートマルさんは知ってたでしょ?」
「ああ」「はい」「知っていた」
どうも貴族としての教育の内容に含まれることのようだ。
私塾とか家庭教師とかで教わるのかな?
法律も覚えなきゃいけないとなると、帝国の貴族も大変だ。
「なっ、何故そんなに罪が重いんですのっ! おかしいですわっ!」
「おかしくはないです。帝制と貴族制に対する背信であり、瞞着であり、挑戦であり、冒涜であるからです。むしろ唾棄すべき行いなのに市中引き回しと晒し首がない分、軽い刑罰だと言いたい」
言い切った。
さすがは帝制貴族制の礎を守る封爵省のトップだなあ。
冷徹な視線の中に皮肉の色を混ぜて、デニスさんがブタのおばちゃんに言う。
「かように重い刑罰を課しますゆえ、高貴な女性の貞淑は保たれるのですな」
「言いがかりですわっ! 噂や思い込みで処罰されてはたまりませんわっ!」
「おや? 貴家でそのような事例がございますか?」
しらばっくれて。
あんたはどうせ把握してるだろ。
「ありませんわっ! あくまでも一般論として、証拠もないのに処断するのは栄えある帝国の法らしくないということですわっ!」
「証拠なら出せる」
エメリッヒさんの声に息を呑む一同。
「魔道で親子関係のあるなしを鑑定する手法がある」
「その通りです。魔道研究所に依頼を出せば三〇分ほどで結果が出ますよ。いかがいたしますか?」
「いかがいたしますとはどういうことですの?」
「未遂であっても処罰の対象ということです」
空気が冷える。
やっぱ実際に爵位を継がなくても、長年継承者扱いされていたことが罪になるということみたいだ。
そりゃ厳し過ぎないかい?
顔を朱に染めるおばちゃん。
「むむむ、皆の者! かくなる上はやっておしまいなさい!」
またかよ。
繰り返しのテンプレもなくはないけど、もう飽きたぞ。
さっきここ来る途中で襲ってきたチンピラも、おばちゃんの手の者だったんだろうなあ。




