第1757話:ブタ界では美人なのかもしれないけど
「おうおうおう、あんたら随分と舐めたマネしてくれるじゃねえか」
領主屋敷に行く途中、五人のチンピラ? ゴロツキ? に絡まれた。
まーさっき派手に情報探って回ってたから、それに対するリアクションなんだろう。
「ここテルミッツを誰のシマだと思っていやがるんだ?」
「クイズかな? 当代の子爵様でしょ?」
「ディートマル様のものだ!」
「おお? 黒幕の名前を叫んでくれちゃうとは。親切にありがとう!」
ディートマルの名前が出て一瞬表情を強張らせたフェーベさんだが、すぐ笑ってくれた。
めでたしめでたし。
「どう落とし前つけるつもりなんだよ、ああ!」
「あんた達こそ、ここにおわすお方をどなたと心得るのよ? 子爵フェーベ様にあらせられるよ」
「あらせられるんだぬ!」
「だからどうした」
「つまりあんた達は、帝国政府の封爵省が認めた領主様に刃向かおうとしているわけだ。指名手配される覚悟はできてるのかと問いたい」
「「「「「えっ?」」」」」
不安そうになるチンピラ達。
実にちょろいなあ。
「今ならあたし達に叩きのめされるだけで勘弁してやろうじゃないか」
「何おう!」
「どうする? エメリッヒさんやってみる?」
エメリッヒさんもレベル二〇は超えてるしな。
この程度のチンピラには楽勝だろうけど。
「あんたの仕事をオレに押しつけるんじゃねえよ」
「あらいけず」
「ふざけんな! やっちまえ!」
「アホか、あんたらは」
「アホだぬ!」
あたしのレベルを見て理解できんようなやつに、何ができるとゆーのだ。
べしべしっと小突いとく。
「あいうぃーん!」
「お、お見事です」
「ここ置いといていいかな?」
「いいんじゃねえか? カゼひいたら自業自得だぜ」
「カゼの心配はしてなかったな。往来の邪魔かと思ったんだよ」
積み上げときゃいいか。
エメリッヒさんが言う。
「明確にディートマルが敵じゃねえか」
「みたいだねえ」
元々対立構造だったけどな。
わかりやすいとゆーか何とゆーか。
「捻りがなさ過ぎてつまらん。『精霊使いユーラシアのサーガ』を彩るエピソードとしては、もうちょっとスパイスを利かせてもらいたい」
「そこはあんたの魅力で何とかしろよ」
「ええ? 皆があたしの美少女パワーに寄りかかろうとするんだから」
笑いながら領主屋敷へ。
◇
「こんにちはー。ドーラの美少女精霊使いユーラシアと女子爵フェーベさん、前子爵の長男エメリッヒさんがやって来ましたよ」
「フェーベ様とエメリッヒ様? 少々お待ちを!」
すっ飛んでく門番。
「領主屋敷にはカスパーさんディートマルさんそのお母ちゃん全員が住んでるのかな?」
「はい、そうです」
「いっぺんに会えると時間の節約になるけどな」
あ、もう門番戻ってきた。
「どうぞ、お入りください」
よし、予定通り。
案内されて中に通される。
広い応接間だ。
フェーベさんの屋敷より調度が重厚な感じ。
警備員の数多くない?
真ん中の男性が快活に話しかけてくる。
「叔母上、兄上、ようこそ。そして君が高名なユーラシア君か」
「うん。こっちが悪魔のヴィルだよ。よろしく」
がっしりした体格でくすんだオレンジの髪を撫でつけた、目力の強い男と握手。
これがディートマルさんか。
予想と全然違うのが出てきたぞ?
こすっからいことやってくるとは思えん、できる男だ。
「エメリッヒ、久しぶりだな」
「父さんも達者じゃねえか」
五〇代くらいの痩身の男性。
前子爵のカスパーさんだな。
確かにエメリッヒさんと雰囲気がそっくりだ。
「宮廷魔道士を辞めたそうじゃないか」
「ああ、オレには合わなくてな。今はドーラで世話になってる」
「エメリッヒさんはブタ復活のプロジェクトに加わってもらってるんだ」
「「「「「「「「ブタ?」」」」」」」」
ちょっと情報を差し込んでやった。
おお、一人を除いて皆が反応するじゃないか。
ブタを復活させる試みがギレスベルガー家の悲願と聞いてはいたが、思ったより熱心なようだ。
「ドーラでは既に、アールファングじゃない別種のイノシシの魔物の試験的な多頭飼育が始まってるんだ」
「で、ブタ飼育に関して相互に協力しよう、っていう提携をフェーベさんと結んだの」
「提携の一環として、ギレスベルガー家の持っているブタ飼育の資料を、ドーラ側に貸与したいのです。提出していただけませんか?」
「なりません」
冷え切った声に、場がややしらけた空気になる。
先ほどのブタ復活プロジェクトに唯一反応を示さなかった、伝え聞く古のブタのように丸々太った……。
エメリッヒさんとコソコソ話す。
「ねえ、あれがディートマルさんのお母ちゃん? グレーテルさんだっけ?」
「そのようだな」
「グラマラスな美人って言ってたじゃないか。エメリッヒさんの審美眼疑っていい? そりゃブタ界では美人なのかもしれないけど、あたしは人間界の話をしてたな」
「時の流れは残酷だぜ」
「全部聞こえてますわよ!」
「全部聞こえてるぬ!」
おいこらヴィル。
面白いけど時と場合を考えなさい。
笑っちゃいけない後ろの警備員の肩がヒクヒク上下してるやん。
えっ、あたしのせいだって?
細けえことはいーんだよ。
「どうしてですか! テルミッツの浮沈のかかった事業なのですよ?」
「ふん。大げさな。子爵位を盗み取った女が何を言う!」
「あー丸いおばちゃんは黙っててくれる? 話が進まない」
「丸いおば……何を言うのですか、この小娘がっ!」
「典型的なテンプレでノスタルジックな気分に浸れるなあ。いや、おばちゃんを除け者にしたいわけじゃなくてさ。権限がないじゃん?」
「け、権限?」
目が泳ぐおばちゃん。
プルプルしてる頬肉に視線を持っていかれるなあ。
皆さんの注目の的ですぞ。
いや、あたしが注目されてるみたいだな?
「おばちゃんはテルミッツの領主じゃなければ、この屋敷の主人でもないでしょ? あたし達は権限のある人と話がしたいんだよね」
「私はディートマルの母ですのよっ!」
「知ってる。だからしゃしゃり出てくんなって言ってる」
「し、失礼な! そこの子爵を僭称している女こそ場違いでしょうが!」
「封爵省がちゃんと認めてる子爵様を僭称とか。まーいーや。子爵位継承の問題から片付けよう。帝国政府の施政館参与兼臨時連絡員ユーラシア・ライムが立会人になるよ」
もっともらしい権威を掲げてバトルスタート!




