第1756話:親子鑑定
「こんにちはー。美少女精霊使いユーラシアがエメリッヒさんを連れてきましたよ」
「話は伺っております。おお、確かにカスパー様によく似ておられる」
ギレスベルガー子爵家の現当主フェーベさんのお屋敷にやって来た。
門番さんのにこやかなこと。
どれくらい似てるんだろ?
カスパー前子爵にも会ってみたいな。
「どうぞお通りくだされ。主がお待ちです」
屋敷の中へ。
話が行ったのか、すぐフェーベさんが出てくる。
「ユーラシアさんいらっしゃい。まあ、本当にエメリッヒなのね? よく無事で……」
「叔母さん、すまない」
「どうぞ、お入りになって」
フェーベさんの趣味だろうか。
華やかな応接室に通される。
「フェーベ叔母はオレが宮廷魔道士になってからも、ちょくちょく会いに来てくれたんだ」
「突然宮廷魔道士を辞めてどこへ行ったかわからないと聞かされた時は、何かの陰謀に巻き込まれたのかと……」
「ホームレスに憧れちゃってたみたいだぞ?」
「憧れたわけじゃねえよ!」
アハハと笑い合う。
あ、ヴィルがフェーベさんのとこ行った。
「ドーラはエメリッヒさんが来てくれて助かってるんだ。いろんな事業が進んでいくよ」
「オレも高価な素材を研究に使えてありがてえぜ。好きなことやれるしな」
ウィンウィンだ。
持ってくることのできる素材なら調達するから言ってね。
それはともかくブタの話。
「エルフの行っている、家畜化を前提とした魔物の試験飼育の場を見てきた。そこではワイルドボアという、黒っぽいイノシシの魔物を一二頭飼ってた」
「ワイルドボア、ですか」
「古のブタの先祖アールファングもいずれ飼育したいんだけど、ドーラにいないみたいなの。三代も累代飼育すれば魔物除けを嫌がらなくなるらしいから、まずワイルドボアをそこまで飼い馴らすのが当面の目標かな」
しばらく飼ってりゃ細かいこともわかってくるだろ。
どうにもうまくいかなきゃ、資料が残ってて成功実績のあるアールファングに切り替えてもいい。
「やはりアールファングのことも御存じで」
「おそらくドーラはギレスベルガー家の助力がなくても、遅かれ早かれ黒ブタを世に出してくる。叔母さん、ここは乗っといた方が得だぜ」
「えっ? 乗る乗らないの段階じゃないんだけど?」
この前約束したじゃないか。
しかしフェーベさん困った顔。
「……本家にブタ飼育資料の提出を断られてしまいまして」
「えっ?」
「ちっ、ディートマルか?」
「はい」
資料は領主屋敷の方にあるんだな?
当たり前っちゃ当たり前だが。
「領内の産業振興の邪魔してどうするんだ、あのバカが」
「いえ、ブタ復活に関する提携のことは話していないんです」
「うん、それが賢明だね」
ドーラとのブタ飼育の提携は、フェーベさんの有力な切り札になり得る。
邪魔されるんでも横取りされるんでも面白くないだろう。
あたしも性根のわからん人と組むのは嫌だしな。
「そもそもどうしてフェーベ叔母が子爵を継ぐなんてことになったんだ?」
「ディートマルが成長するにつれ、兄と似ていないことが明らかになってきたのです」
「んー? 根拠それだけなん?」
「ええ。しかし私はエメリッヒが兄とよく似ていることを知っていましたから、違和感が強くて。年初に兄が長引くカゼをひいたんです。それで自分がしっかりしている内に、後継者を定めたということなのだと思います」
「父もディートマルを自分の子だと思ってないわけか?」
「おそらくは」
ははーん。
親子関係がないことを疑わせる状況証拠は、前領主カスパーさんにもフェーベさんにもたっぷりあるということらしい。
「いやーでも根拠が似ていないだけじゃ、エメリッヒさんの弟さんもそのお母ちゃんも納得しないことない?」
「ユーラシアさんの言う通りなんです。言いがかりだと言い張って、私が子爵を継いだことを認めないようで……」
「国も前子爵カスパーさんも認めてるんでしょ? つまんないお家騒動してるとよろしくないな。お取り潰しされちゃうかもしれない」
「親子鑑定はしていないんだな?」
「「えっ?」」
親子鑑定?
何それ?
「固有能力とその素因は遺伝することが知られているんだ。魔道的に調べることによって、父子に血の繋がりがあるかないかを調べることができる」
「マジか。帝国の技術はすげえ!」
「魔道研究所で生み出された技術だ。詳細を大っぴらにする必要もねえから、親子鑑定技術に関する情報は公開されてないのかもな。必ず親子かってのの断定は困難だが、否定は簡単らしいぜ?」
「じゃ、親子鑑定使って凹ましゃいいな」
「オレも賛成だぜ。もうフェーベ叔母が当主なんだ。いつまでもディートマルが継ぐ目を残しといたんじゃ、治まるものも治まらねえ。テルミッツの民のためにならねえよ」
正論だ。
しかしフェーベさんは躊躇してるな?
「……兄の血を継がないと決定してしまえば、ディートマルが罪に問われます。私にとってあの子は、たとえ血の繋がりがなくとも甥同然なのです」
「「……」」
子爵位を継ぐ継がないに関係なく罰せられるとなると、えらく厳密な法律だな。
フェーベさんはディートマルさんを庇いたいという迷いがあるのか。
しかもフェーベさん、ディートマルさんに血縁関係がないことを、これっぽっちも疑ってないようだ。
でもどうしてブタ復活を邪魔するディートマルさんを庇うんだろうな?
「エメリッヒ。あなたが子爵として立つなら何も揉めることはないのですが」
「よせよ。柄じゃねえ」
「いやー、揉めちゃうと思うよ?」
エメリッヒさんの言う通り、ディートマルさんが継ぐ目を残しておく限り、向こうの陣営は諦めないだろう。
「おい、どうする?」
「ブタの話が進まないのはどえらい迷惑だな。理想形はフェーベさんがこのまま子爵で、ディートマルさんにお咎めなしで子爵を継ぐ目をなくせばいい」
「不可能じゃねえか?」
「そーでもないよ」
要するに、罰則はなくしてやるから子爵継ぐ考えは捨てろという感じに持っていけばよろしい。
あたしの得意なゴリ押しの出番だ。
「領主屋敷行こうか」
「門前払いされてしまうのでは?」
「いや、エメリッヒさんがいるから大丈夫だぞ?」
御嫡男様を引っ張り出してきたと慌てさせれば、話くらいは絶対に聞いてくれる。
領主屋敷へゴー。




