第1753話:蛇足じゃなくてプラスアルファ
「おお、人が多いな。トサ様驚きだぜ」
「だよねえ。イベントがあるともっともっと人が集まってくるんだよ」
トサ様を連れて帝都を歩く。
ヴィルはいつものように肩車で御機嫌だ。
あたしも帝都の人の多さには驚いたもんだ。
せいぜいタルガくらいしか知らない辺境開拓民のトサ様も、あたしと同じ感覚だろう。
「主席執政官と次席執政官は、次期皇帝を巡るライバルなんだろ?」
「いきなり突っ込んできたな。うん。他にも皇帝選の立候補者はいるけど、まあどっちかが新皇帝になる」
「もっとドロドロしてるもんかと思ったぜ」
ドロドロしてる時期もあったんだろうけどな。
選挙で正々堂々と白黒つけることが決まったから、むしろ市民に為政者としての姿勢を見せることが重要になった。
足の引っ張り合いなんかやってると、皇帝位に就いたあとの権威に関わっちゃうから。
先帝陛下はそこまで計算してたのかなあ?
うっかり元公爵が賢人って言うだけある。
「閣下とプリンスルキウスは二人とも優秀な政治家だからさ。角突き合うと国力を落とす、外国につけ入る隙を与えちゃうってことがわかってるんだよね」
「ほーう、大したもんだな」
「どっちが皇帝になっても、大きな問題はないと思うんだ」
新皇帝談義はともかく。
「トサ様は帝都初めてなんでしょ?」
「もちろんだぜ」
「買い物でもしてく? どっか行きたいとこある?」
「買い物はいいや。さっきから店先見てるが、物価が高えしな。さほど欲しいものもねえ」
「トサ様が欲しいものって何?」
「武器だな」
「あー」
帝国では一般人の武器所持は原則的に禁止だ。
その辺で売ってるわけない。
「行きたいところはあるんだ。あんたの名前の教会に行きてえ」
「えーと、汎神教ユーラシア教会?」
「おう。メルエルにはデカい聖堂があるんだろ?」
「トサ様があたしの信徒だとは知らなかったよ」
「あんたの信徒じゃねえよ! 大体あんた何でそんな大それた名前なんだよ?」
あたしこそ知りたいわ。
多分父ちゃんが犯人なんだろうけど、でも父ちゃん海の男だしな?
どーして地母神の名前なんか娘につけたんだろ?
いつか聞いてみよ。
「じゃ、ユーラシア教会行こうか」
「行くんだぬ!」
れっつらごお。
◇
「ここだよ」
ユーラシア教会の聖堂に到着。
トサ様嬉しそう。
敬虔なるあたしの信徒に恵みを施してやりたいな。
「おお、やっぱり大きいな。ん、何だ? 市か?」
「ではなくて、商業活動だよ」
「商業活動?」
まあわからんかもしれんけど。
「普通宗教ってのは、形になってない目にも見えない信仰ってものを売りつけて、お布施っていう対価を受け取ってるわけじゃん?」
「言い方がひでえな、おい!」
「ユーラシア教会ではグッズを販売してるんだよね」
「俗っぽくねえか?」
「見解の違いがあるかもしれないけど、確実に利があるから良心的だとあたしは思ってるんだよね」
だって信仰お布施の関係は詐欺っぽいもん。
詐欺っぽいより俗っぽい方がよくない?
「ユーラシアさん!」
濃い青と白の修道女服に身を包んだ、緑の瞳の少女が飛びついてきた。
ついでにヴィルもぎゅー。
「お? 誰だ?」
「ユーラシア教会のシスター・キャロラインだよ。聖女って呼ばれてる」
「せ、聖女……」
「当教会の信徒の方でしたか? 初めまして」
トサ様ドギマギしてるな?
キャロは美人だし、固有能力『灯火』のカリスマ効果も後押しするからな。
「トサ様どうする? 有料だけど握手してもらう?」
「ああ、お願いするぜ」
「ありがとうございます。トサ様と仰るのですね? 女神ユーラシア様の御威光でトサ様に幸せがありますように」
「あたしも祈ってやろう。あたしの威光でトサ様に幸せがありますように」
「蛇足だよ!」
「プラスアルファだぬ!」
大笑い。
「今日は帝都に来れてよかったぜ。こんな綺麗な聖女さんがいるとはな」
「あら、トサ様は遠くにお住まいでしたか?」
「テテュス内海に面してる植民地タルガの人だよ。今後辺境開拓地区の改革が、おそらく新皇帝の政策の目玉の一つになるんだ。その改革に関して重要な役割を担う人」
「さようでしたか。御成功を願っております」
「ど、どうも」
トサ様デレデレやんけ。
「随分と販売品数が多くなったね。ポスター以外にも木板に印刷ってのもあるんだ?」
「紙よりも安くできるものですから」
「なるほど、言われてみれば」
「お守りや魔除けの札もこちらにありますよ」
「あれ? えらくちゃんとしてるな。魔物除けとして効果あるじゃん」
「わかりますか? 信徒に宮廷魔道士の方がおりまして、ケイオスワード文様を描いてもらったのです」
「へー」
宮廷魔道士に渡りをつけるとはやるじゃないか。
ウィンウィンだなあ。
「トサ様、キャロは主に午前中に聖女として癒しの魔法を施しているんだよ」
「すごいじゃねえか」
「いえ、私にできることをやっているだけですから」
「そっちは料金徴収しないの?」
「困ってるところにつけ込むのは違う気がするのです」
ユーラシア教会のやってることは商売として真っ当じゃないか。
これなら心配はない。
「何かやってみたいことない?」
「汎神教の神話やユーラシア様の教えを記した本を出したいですね。一応問い合わせたんですけれども、やはりお高くなってしまうらしくて」
「ここでも本か。ある程度の厚みになると、一〇〇〇ゴールド超えちゃうでしょ?」
「一冊当たりの原価が一〇〇〇ゴールドくらいだと伺いました」
「実によくわかる。帝国は本高いんだよなー」
「ドーラは安いんですか?」
「紙屋とか印刷業を育てようって意図もあってさ。廉価本を流行らせようって試みをしてるんだよね。例えば最近『フィフィのドーラ西域紀行珍道中』って本を出したんだ。ドーラでは一二〇ゴールド」
「あっ! 昨日本屋で見かけて買いました! 三〇〇ゴールドでしたよ」
「海渡ると高くなっちゃうんだよなー。で、どうだった? 面白かった?」
「とても面白かったです。ああいったライトな本は新鮮ですね」
「気に入ったら周りの人にも勧めてよ。多くの人が本を読むようになると、必ず安くなるからね」
「わかりました!」
トサ様ポスターとお守り買ってるやん。毎度あり。
「さて、帰ろうか。キャロ、じゃーねー」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し、一旦帰宅する。




