第1752話:トサ様に市民権
「ヴィル、主席執政官閣下と連絡取ってくれる?」
「わかったぬ!」
ヴィルが瞬時に掻き消える。
「村長さん、じゃあね。トサ様もう少し付き合ってよ」
「あ、ああ」
新しい転移の玉を起動、一旦ホームへ。
「ここがあんたん家か」
「いいとこでしょ? あ、連絡きた」
『御主人! ドミティウスだぬ!』
『やあ、ユーラシア君か』
「そうそう、麗しの美少女冒険者ユーラシアだよ」
あんた帝国最大の実力者にそんなぞんざいな話し方なのかよっていう、トサ様の視線を感じるが気にしない。
喋りがどうこうなんてのは、話の内容の重要性に比べればどうでもいいことだから。
「今日タルガと辺境開拓行ってたんだ。ちょっと見過ごせないことがわかったから、施政館に行っていいかな?」
『ああ、来てくれ』
「ヴィル、ビーコン置いてね」
『わかったぬ!』
うちの子達を家に残し、新しい転移の玉を起動。
トサ様とともに施政館へ。
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
飛びついてきたヴィルをぎゅっとしてやる。
よしよし、可愛いやつめ。
「やあ、いらっしゃい。そちらは?」
「以前話したタルガの辺境開拓民の実力者トサ様だよ。そちらドミティウス主席執政官閣下とルキウス次席執政官閣下とアデラちゃんね。アデラちゃんの役職名って何だったっけ?」
今日から月が変わるから、プリンスルキウスとアデラちゃんは正式に役に就いてるはずだ。
あ、そーいやあたしもだったわ。
お偉い美少女精霊使い様になってしまう。
「広報担当官だよ」
「まんまだったな。わかりやすいわ」
アハハ。
あれ、トサ様緊張してる?
主席執政官閣下がトサ様に話しかける。
「君がトササマか。娘のルーネロッテが昼食を御馳走になったと聞いた」
「は、はい……」
「あっ、トサ様の『様』は敬称なんだ」
「そうだったのか。ユーラシア君が様付けなんて珍しいな?」
「一人称が『トサ様』なの。面白くて」
あれ、閣下プリンスアデラちゃんが全員すげー頷いてるがな。
あたしのエンタメを追求する姿勢に納得していただけたらしい。
プリンスが言う。
「先ほど聞いた、ちょっと見過ごせないこととは? 辺境開拓民に関することなんだろう?」
「うん。人口七、八〇人くらいの、住民全員が帝国の市民権持ってない辺境開拓民集落行ったんだ」
「一人も市民権登録してない集落? そんなのがあるのか」
トサ様が口を挟む。
積極的に会話に参加してくれるのか。
嬉しいな。
「辺境開拓民の半分は市民権と全く無縁ですぜ。タルガにいるやつらは、比較的市民権を持ってるんだが」
「治安のためにも辺境開拓地区開発推進のためにも、辺境開拓民にしっかりした身分と権利を与えるべきじゃん?」
「無論だな。市民権を持っていない者には、政策の恩恵を及ぼすことが困難だ」
「でしょ? ところが辺境開拓民って、市民権のありがたみをわかってないの。税金搾り取る手段だろくらいに思ってる。これじゃ改革しようとしても、彼らの協力を得られない」
「まさかそんなこととは……」
帝都の為政者には衝撃でしょ?
あたしも驚いたわ。
「で、ユーラシア君の考えた手段は?」
「トサ様自身も市民権持ってないんだ。トサ様に市民権発給して、メリットと税金のシステムをよーく教え聞かせて、辺境開拓民達に伝えてもらえばいい。市民権持ってた方が得だってことがわかれば、辺境開拓地区改革がスムーズに進むよ」
「アデラ。総務省と国土省に連絡して、トサ君の市民権と辺境開拓民登録証をすぐ発行させてくれ」
「はい」
「トサ君、市民権というのはな……」
帝国市民であるメリットを懇々と説明するプリンス。
あたしもよくわかってないから聞いとこ。
なるほど、住民登録の代わりに辺境開拓民登録を行っていれば、税金免除や武器所持などの恩恵が受けられるんだね。
やっぱ帝国だな。
きちんとした制度があるんじゃん。
しかし?
「あれ? じゃあ市民権持ってない辺境開拓民登録してないでは、武器持っちゃダメって理屈じゃん」
「本来はそうだ」
「ええ? トサ様知らなかったぜ?」
「メッチャザルだなー。武器もなしでは魔物を追い払えるわけがない、イコール辺境開拓は進まない」
しかも当事者である辺境開拓民トサ様ですらルールを知らないときたもんだ。
大雑把過ぎるだろ。
これまでの帝国がどんだけ辺境開拓民に無関心だったかがわかる。
辺境開拓民としての生活に耐えられなくなって外に出て行き、市民権がないために山賊化した人大勢いると思うわ。
「市民権ってありがたいものだったのか。トサ様よおく理解したぜ」
「今まではタルガや辺境開拓地区にいる限り、市民権なんてどうでもよかったかもしれないよ? でも今後は政府が辺境開拓に力を入れてくれるんだ。市民権持ってないと優遇措置が受けられなくて損しちゃう」
「普通はどうすれば市民権をもらえるんでえ?」
「タルガの開拓民局を機能拡張し、各集落に人員を派遣することになるだろう。一年以内に組織を整える」
遅いわって言いたいけど、集落の正確な位置確認したり魔物と戦える人員揃えたりすると時間は必要か。
とゆーか市民権のメリットが辺境開拓民に浸透するまでに、一年くらいはかかっちゃいそう。
あ、アデラちゃん戻ってきた。
トサ様が市民権と辺境開拓民登録証を受け取る。
「ではトサ君。よろしく協力頼む」
「お任せくだせえ」
「ユーラシア君、他に気付いたことあるかい?」
「マインっていう、タルガ街道沿いの町に行ってきたよ。問題あるなー」
「というと?」
「現地の人に問題点聞いたら、御飯が不味いって言うんだよ」
笑いごとじゃないんだってばよ。
「マインって、商人がタルガへ行く際に必ず一泊するだろうなって位置にあるの」
「うむ。マインの位置はいい。マインの石炭が、これまでのタルガ交易を支えてきた側面はある」
「なのに御飯不味い見どころなし石炭以外の産物なしじゃ、商人の意欲が減退しちゃう」
「ふむ……」
「労働者の意欲だって同じだぞ? 帝国産の農産物はタルガへ売った方が高いから、マインにはクズみたいな食材しか入んないみたい。考えた方がいいな」
マインは農業も可能だと思うしね。
タルガよりもマインを先に開発すべきと思う。
「じゃ、さいならー」
「バイバイぬ!」
せっかくの帝都だから、トサ様案内してこ。




