第1747話:スケール感がえぐい
「サイナスさん、こんばんはー」
『ああ、こんばんは』
夕食後に毎晩恒例のヴィル通信だ。
「トウモロコシ買ってきた。明日の朝持ってくね」
『ああ、ありがとう。助かるよ』
「エルフの里と聖火教礼拝堂んとこの移民集落と塔の村にはもう届けたんだけどさ」
『どうしてこっちへ持ってきてくれないんだ』
「わざとではないとゆーのに。ヴィクトリア第一皇女と上皇妃様の会う日が決まってさ。リリーに連絡しようと思って手間取った」
『ヴィルで連絡つければいいじゃないか』
「塔の村は悪魔ウシ子のナワバリなんだよね。ヴィルがダンジョンの中入ると、ウシ子が気を悪くするかもしれないじゃん?」
『君そういうとこ気を回すよな。帝国のお偉いさんにはタメ口のようだけど』
「気配りの美少女精霊使いだとゆーのに」
タメ口くらいで文句言う小物には用がないとゆーのに。
あーんどあたしは揉め事を起こしたいわけじゃないのだ。
トラブルメーカーじゃないから。
「ヴィクトリアさんと上皇妃様が会う時にクリームシチュー持ってってさ。意見聞こうかなと思ってる」
『あれはあれでおいしいだろう?』
「美味いね。でも工夫の余地がいくらでもありそうなんだよ。ヴィクトリアさんはハーブに詳しいから、いいアイデアがあるかも知れない」
まあ意見を寄越せぜひ寄越せってわけじゃない。
話のネタとして提供してやるつもりだ。
ヴィクトリアさんも上皇妃様も、ピリピリ緊張はするんじゃないかな。
初回は積極的に話題を作っていかないと、気まずいことあるかもしれんし。
『『アトラスの冒険者』の、おかしなクエストもらったんだって?』
「あ、クララ達に聞いた? たわわ姫降臨!」
『サッパリわからない。君の夢に時々現れる女神だとか』
「そうそう。実在していたとはビックリ」
『結構な大ネタじゃないか。どうして今まで一言も口にしなかったんだ?』
「夢の話を大真面目にしてたら、あたしの言ってることの信頼性が揺らぐだろーが」
もっともあたし自身も、半分くらいしか本気にしてなかったということもある。
たわわ姫が実在してようがしてなかろうが、特に影響はないのだ。
『どういう存在だ?』
「薄着の美人さんでおっぱいが大きい。でもちょっと重力に負け気味」
『そうでなくて』
「実はイシュトバーンさんだけにはたわわ姫の存在を話してあったんだ。イシュトバーンさんが好きそうだから、主におっぱい方面が」
『そうでなくて』
どうだったろ?
たわわ姫の役割とかポジション?
了解。
「こっちの世界を管轄する神様だよ。人類が発展すると嬉しいんだけど、直接手出しするのは禁じられてるみたい」
『いかにも神様っぽい縛りだな』
「だよねえ。ところが『アトラスの冒険者』本部の世界は、別の神様の管轄なんだ。たわわ姫の管轄であるこっちの世界に干渉する『アトラスの冒険者』を、実はよく思っていないとゆー関係」
『ふむ? では『アトラスの冒険者』を十二分に満喫しているユーラシアとは、利益が相反する?』
「でもないんだ。『アトラスの冒険者』を気に入らないと思ってるけど、調整者としてこっちの世界の安定に寄与してると考えてはいるの」
『必要悪だと?』
「悪とまで考えてるかはわかんないな。ただ聖女たるあたしの大活躍で、帝国VSドーラ戦とソロモコを発端とした対魔王戦争がなくなったじゃん? 運命が人類の衰退へ向かうルートはほぼ消失したんだそーな」
『どえらくスケールの大きい話だなあ』
「まーあたしの関わってることだから」
これは本音だぞ?
「で、いよいよ『アトラスの冒険者』いらないじゃんって話になって」
『つまりたわわ姫の都合で『アトラスの冒険者』はなくなるのか?』
「いや、『アトラスの冒険者』は異世界の事業だから、廃止にたわわ姫は直接関係してないと思うんだよね。神様は世界に直接手出しできないってのが本当なら。でも向こうの世界を管轄する神様に文句言って、ルール違反にならない程度に廃止へ誘導したってことはあるのかもしれない」
その辺のことはよくわからん。
無視できないのは、どっちにしても『アトラスの冒険者』は廃止されるということだけだ。
「とゆーわけで、『アトラスの冒険者』に対する考えこそ違うけど、こっちの世界を繁栄させるということに関してあたしとたわわ姫の利害は共通してるんだ」
『つまり言うことを聞かせることができると』
「そゆこと」
『スケール感がえぐい』
「うーん、世界に干渉できないんじゃ、無力とも言えるんだよね。ただ『アトラスの冒険者』以外にもう一つ、向こうの世界とこっちの世界の繋がりがあるじゃん?」
『エルか。塔の村の精霊使い』
サイナスさん正解。
「向こうの世界の神様、こっちにエルがいること把握してるんだよ。嫌みったらしくクレームつけられたって、たわわ姫がブーブー言ってた」
『ははあ、わかってきたぞ? その不満を煽って協力体制を築いたんだな?』
「うん。エルはデス爺が引っ張ってきたんじゃん? たわわ姫に責任ないわ、でも文明の進んでる向こうの世界の住人がこっちにいると発展しやすいから、帰したくないな。たわわ姫も賛成でしょ? 共闘しようぜってことにした」
『何から何までえぐい。何が何でもえぐい』
あたしにしてみりゃごく普通だとゆーのに。
「で、向こうの世界がどう動くか、たわわ姫が教えてくれることになった」
『情報源が増えたことは、単純に喜ぶべきと言えるな』
「もっとも神様の視点はマクロだから、どこまで役に立つかはわかんないけど」
少し話題を変えるサイナスさん。
『クララ達が持ってきてくれた聖風樹の枝は、スキルスクロール紙になり得るか確認すればいいんだな?』
「挿し木して根付くかも実験して欲しいな。たわわ姫の家の周りにたくさん生えてるんだよね。新『アトラスの冒険者』の転移先の一つにしとく手はある。でも神様の住処に転移先があるのもまずい気がするじゃん?」
ドーラに聖風樹の森があった方が、なんぼか都合がいい。
ぶっちゃけたわわ姫に会えたことより、聖風樹の入手先をゲットしたことの方が今日は嬉しい。
「サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、御苦労だったね。おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
明日は何しよう?




