第1746話:顔繋ぎはこんなもん
「あたしにも疑問なことがあるよ。何で双子皇子が一緒について来てるのかな?」
好奇心旺盛なルーネが来るのはわかるんだが。
「ユーラシア君のお供をしているとためになるから」
「勉強させてもらえと言われているのだ」
「こっ恥ずかしいわ」
「こっ恥ずかしいぬ!」
アハハ、エンターテインメントを期待されてるわけじゃなかったか。
どうやらザイフリート侯爵家キルヒホフ伯爵家チョップ男爵家の意向のようだ。
確かにあたしにくっついてりゃいろんな人に会えるかもな。
「ところで双子皇子は商人さんについてどう考えてるかな?」
「……正直あまりいい印象はないな」
「ああ、卑屈というか調子がいいというか」
「理解はできるけれども、気に入らないところは見なくていいからね」
「「えっ?」」
「商人さんに期待したいのは商品知識とか情報とか、あるいはやっぱり持ってる人脈とかなんだよ。向こうは商売だから、こっちの顔色窺ってくるのはしょうがないの。マイナスポイントじゃなくて、自分の得になりそーなとこだけ見ようねってこと」
人間の好き嫌いはあるだろうけど、好きなところだけ見てた方が得だよ。
あたしだって顔は可愛いと思うけど、おっぱいはあんまり自信ないしな。
完璧な人間なんていないわ。
さて『ケーニッヒバウム』魔宝玉コーナーにとうちゃーく。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「いらっしゃいませ、ルーネロッテ様もよくお越しに」
「ルーネに目が行って見えてないかもしれないけど、双子皇子もいるからね」
「これは大変失礼したしました」
深々と頭を下げるピット君。
あ、双子皇子はピット君のこと知らんらしい。
「店主フーゴーさんの孫のピット君だよ。まあまあできるやつだけど、ルーネに惚れてるから連れてくると大体言うこと聞いてくれる」
「「ほう?」」
「そんなことないですってば!」
「いいや、そんなことある。ま、ピット君とルーネの恋愛事情は置いとこうじゃないか」
ハハッ、ピット君の顔が赤い。
からかい甲斐があるなあ。
「右分け皇子がキルヒホフ伯爵家を、左分け皇子がチョップ男爵家を継ぐんだ。メルヒオール辺境侯の協力で聖モール山越えの街道を交易路として通すことになった」
「新聞で見ました。本当なんですね?」
「本当。今後本土北西地区は発展していくから、商人として注目しててよ」
「わかりました」
顔繋ぎはこんなもんでいいだろ。
「今日はユーラシアさんどうされたんですか?」
「トウモロコシが欲しくて」
「トウモロコシ? ……面白い事情が絡んでますか?」
「ピット君鋭いね」
ギレスベルガー家とドーラのエルフで家畜ブタの復活がどうのこうの。
だからトウモロコシがどうたらこうたら。
「……とゆーわけ。移民たくさん来てるドーラ自体も穀物不足気味でさ。多めに買ってきてくれって言われた。トウモロコシある?」
「売るほどありますよ」
「お店なんだから売るほどあるのは当たり前だろ」
「当たり前だぬ!」
アハハ。
ピット君が請け負ってくれたからには、蒔いてちゃんと芽が出ることを期待できるやつだな。
たくさん買ってこ。
「トウモロコシについてはわかりました。家畜ブタの復活、ですか?」
「興味ある? フェーベ女子爵とコンタクト取っとくといいよ」
「……貿易商ベンノさんの時もそうでした。ユーラシアさんがこうやって人に会わせようとする時は、何らかの意図がありますよね?」
ベンノさんとフーゴーさんを結びつけようとしてたのは、ドーラの産物をスムーズに『ケーニッヒバウム』で販売するのに必要だったからだ。
ギレスベルガー家の事情については、さほど『ケーニッヒバウム』に利があるわけじゃないが……。
「ルーネがいる時のピット君は冴えてるな。ギレスベルガー家の爵位継承について、何か聞いてない?」
「噂ですが、本来跡を継ぐはずだった嫡男が子爵の胤でなかったと。それで急遽当主の妹が継いだと聞きましたが」
「正確には長男じゃなくて継室の産んだ次男が継ごうとしてたってこと。フェーベ女子爵は次男が『兄の血を継がぬ疑いがある』って言ってた」
「きな臭いですね」
「でしょ? フェーベさんいい人でブタの飼育にも前向きなんだ。だからあたしはフェーべさんを推すことにした」
「ははあ、現当主は立場が弱いだろうということですか」
「多分。実は前子爵の長男は元宮廷魔道士で、現在はドーラに移住しているんだ」
「えっ? ならば嫡男ではないですか。何故?」
おかしなこともあるもんだよ。
「その人は弟が爵位継ぐのが規定路線って言ってたぞ? 貴族としての厳格な教育も受けずに、宮廷魔道士にされたみたい。だから嫡男って言っていいのかわかんない」
「……つまり長男の母は早くに亡くなって、継母の力が相当強い? 揉めますね。次男が前子爵の血を継がないということに関する証拠がどの程度かにもよりますが」
「その長男が、フェーベ叔母は信用できるから力になってやってくれって言ってるの」
「長男さんは子爵位に未練がない?」
「ない。今の生活が気に入ってるからって。フェーべさんは長男が帰ってくるなら子爵位を譲ってもいいって言ってたけどね。前の子爵とよく似てるんだって」
考えるような表情のピット君。
「……ギレスベルガー家の爵位継承問題に首を突っ込むのは何故です? ユーラシアさんに得がないように思えますが」
「確かに誰が子爵になろうが知ったこっちゃないんだけどさ。取り引きは信用できる人としたいじゃん。フェーベさんとブタ飼育に関して交わした約束を、あとになって反故にされたらえらい迷惑だ」
「だから『ケーニッヒバウム』にも協力しろと?」
「いや、商人さんに協力までは頼めないな。ただフェーベさんが『ケーニッヒバウム』に伝手があるなら、それを重要視する人もいるだろうなってこと」
ギレスベルガー家内部はおそらく揺れている。
親族や家臣、テルミッツの有力者の中には、誰につくか決めかねている人もいるだろう。
フェーベさんの人脈がものを言う場面もあるのではないかってことだ。
「まあフェーベ様はお得意様でもありますし、ブタにも興味あります」
「だよね。適当によろしく」
これでいい。
さて、トウモロコシ買って、やんごとなき……やんごとなくもなさそうな人達送って帰ろ。




