第1732話:大勢で施政館へ
「ユーラシア殿はお可愛らしいだけでなく、大した見識で」
「いやまあ、大したことあるよ」
「お可愛らしいぬ!」
昼食後にメルヒオールさん、ウルピウス殿下、チョップ男爵家ルイトポルトさんとそのお供の人、ヴィルとともに施政館へ行く。
三つの目的がある。
皇帝選の投票。
聖モール山越えの街道の整備を含む、本土北西地区の再開発計画についての提言。
チョップ男爵家の跡継ぎを双子皇子のどっちだったっけな? とすることを認めてもらうことだ。
「ルイトポルトさんみたいに、あたしと面識なかった人は手放しで褒めてくれるんだけどなあ。慣れると段々扱いがぞんざいになるの。あたしは褒められれば褒められるほど頑張る子なのに」
「ユーラシアに頑張って欲しくないのだ。身体を労わってくれ」
「キュンキュンするわーってウッソだあ」
アハハ、掛け合いとゆーのは楽しいもんだ。
あれ?
「「「ユーラシアさん!」」」
「新聞記者君達ではないか。取材か?」
「はい。メルヒオール様、ウルピウス様、よろしくお願いいたします」
「そちらの紳士は?」
「ルイトポルト男爵だよ。チョップ男爵家の」
「「「初めまして!」」」
「ああ、よろしく」
新聞記者トリオも随分馴れ馴れしくなったもんだ。
でもルイトポルトさんの顔は知らなかったみたい。
あんまり帝都には来ない人なのかもしれないな。
何と言ってもチョップ男爵家領は遠隔地、本土の端っこだから。
「今日はどういう御予定ですか?」
「施政館へ行くんだよ。皇帝選の投票と、それからえーと左分け皇子がチョップ男爵家を継いでもいいかっていう、許可をもらいに」
「左分け皇子……ガイウス様ですね? ああ、先帝陛下の側室ザビーネ様の御実家を」
「そうそう。チョップ男爵領からゼムリヤまでの、今ほとんど使われてない街道を利用してさ。帝国本土北西地区を活性化させようっていう計画の一環だよ」
「えっ? ちょっと待ってくださいよ!」
ハハッ、今頃焦ってメモ取ろうとしたって遅いわ。
油断してるからだ。
考えてみると、帝国も発展の余地が十分にあるもんだなあ。
「チョップ男爵領からゼムリヤまで……確か山脈で区切られているところですね?」
「うん。聖モール山ね。山越えの道があることはあるんだけど、魔物が多いから全然利用されてないそーな」
「だからメルヒオール様も御同行されてるというわけですか」
「聖モール山越え街道を交易路として使おうというのは、ユーラシアのアイデアだ。俺も若い頃には考えたが……協力者を得られなかったな」
「何でだろ? 山越え街道を使えると皆が得なのにねえ」
「帝国には帝国の事情があるのだ……。おまけに魔物対策がな。俺も昔は魔物に対する自信がなかった。ユーラシアも冒険者でなかったら、魔物のいる道を使おうという考えに至らなかったのではないか?」
「かもしれないな」
交易には拘ったろうけど、むしろ海路を使うことを考えたかも。
「本土北西地区を活性化というのは?」
「いや、単純に双子皇子の縁で結ばれてるザイフリート侯爵領キルヒホフ伯爵領チョップ男爵領の産物を、ゼムリヤで売ったりガリアに輸出したりしようねってことだよ。もちろん逆方向の物流もあるけど」
「北西地区は過去の内乱に巻き込まれなかった歴史があるだろう? その農業生産力は帝国全体の復興の助けにはなったが、悪く言えば発展から取り残されたエリアだ」
「ふーん。じゃあ古き良き時代の街並みとか残ってない? 観光資源として使えそう」
「ユーラシアは貪欲だな」
皆笑うけど、ドーラには古い時代の遺構みたいなのはないから羨ましいぞ?
いや、亜人関係のものはあるか。
今後帝国は山賊も減るだろうから、陸路での旅も増えるはず。
何だ、やりよういくらでもあるじゃん。
「ユーラシアさんは熱心ですねえ」
「帝国本土のことはあまり関係ないじゃないですか」
「関係ないことはないんだぞ? お得意さんがお金持ちだと、ドーラのものもたくさん売れるからね。あたしのメリットなのだ」
ドーラのスーパーヒロインとしては、帝国が混乱せず安定していることこそが嬉しい。
今日は双子皇子関係のつまらんイベントかと思ったら、帝国北西部の再開発という面白いことに関われそうな気配になった。
あたしにできることなら協力しようじゃないか。
「ところで我々も施政館にお供してよろしかったでしょうか?」
「いいんじゃないかな。北西地区再開発構想については記事にしてよ」
先を見越して出資してくれる商人とかもいるかもしれないし。
さて、施政館にとうちゃーく。
「こんにちはー。美少女精霊使いとその他たくさんがやってまいりましたよ。皇帝選の投票と爵位継承についての相談が目的でーす」
「はい、執政官室へどうぞ」
ルイトポルトさん驚いてら。
「えっ? 随分と簡単に?」
「ユーラシア様がおいでの時はすぐに通せとのお達しなのです」
「おお? 何かあたしえらそーだな」
「御主人はムダなことをしないだぬ。すぐに通した方が得だぬ」
「そーだったかー」
ヴィルの見立てが的確だな。
よしよし、いい子。
多分主席執政官閣下もすぐ通した方が時間の節約になるくらいに考えているんだろう。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「やあ、いらっしゃい。大勢だね?」
執政官室の中には主席執政官閣下とプリンスルキウスがいた。
プリンスが次席執政官に就任するのは来月になってからのはずだが、いつも施政館にいる気がする。
次席執政官は閣下との連携が必要な仕事だからかな。
うがった見方をするならば、プリンスに帝都を出歩かれると固有能力『威厳』の効果で市民票を持っていかれるから、閣下が仕事を振っているのかもしれない。
「皇帝選の投票を行っていると聞いたのでな」
「メルヒオール殿。いつこちらへ?」
「ついさっきだよ。ヴィルに連れてきてもらったの」
「ルイトポルト殿も投票ですか?」
「皇帝選の投票ももちろんなのですが、男爵位の継承についてお願いしたい儀がございまして」
「うん、何だろう?」
閣下とプリンスの表情が強張り、眉毛の角度が急になる。
いや、男爵を返上しようって話じゃないから身構えなくてもいいよ。
やっぱ地方領主が減るのは国力に関係するから、警戒するんだろうなあ。
中央政府も考えることが多くて大変だ。




