第1731話:ゴリ押せば大丈夫
「魔物除けの設置にも金が必要ですな……」
「おゼゼがないならメルヒオールさんに泣きつけ。本土北西地区諸侯連名で、山越え街道を輸送路に使いたいから魔物除けを設置してもらえませんか。ある時払いだと助かりますって」
「ず、ずうずうしくありませんかな?」
「ずうずうしいかもしれんけど、べつにいいじゃん。ゼムリヤは裕福だから交渉の仕方次第でやってくれると思うぞ? 聞いてみようか?」
「「「えっ?」」」
「ヴィル、メルヒオールさんと連絡取ってくれる? 新しい転移の玉とビーコン交換ね」
「わかったぬ! 行ってくるぬ」
掻き消えるヴィル。
双子皇子の奥さん達が相当驚いたようだ。
「消えた?」
「ヴィルのことは知らなかったかな? ワープの上手な悪魔だよ。メルヒオールさんをよく知ってるから、簡単に連絡取れるんだ」
どうした、双子皇子が随分と大人しいじゃないか。
気配を消す術でも使ってるのかと思うくらいだ。
あたしばっかり働いてるのは不公平だぞ。
昼御飯たくさん奢らせたる。
おっと、赤プレートに反応があった。
『ユーラシアか?』
「そうそう、美しい美少女のあたし。先帝陛下が亡くなったあとのこと、どれくらいじっちゃんとこに情報入ってる?」
『まだ何も』
「ゼムリヤは遠いもんな。先帝陛下の遺言に基づいて、次期皇帝を決める選挙をやることになったんだ」
『ほう?』
「立候補者は宮内大臣レプティス殿下、主席執政官ドミティウス殿下、プリンスルキウス、あと双子の……名前が出てこないや」
「マルクスだ!」
「ガイウスだ!」
「マルクス殿下とガイウス殿下。合計五人だよ」
『フロリアヌスは出馬せなんだか』
やはり孫であるフロリアヌス殿下のことは気にかかるか。
皇位継承権二位の皇子だしな。
「しなかった。選挙権があるのが、皇位継承権を持つ皇族と爵位持ちの貴族、騎士、帝都市民だよ。例えば皇族や辺境侯爵は一人で一〇〇〇票持つけど、市民は一票しか持たないっていう違いはあるけど」
『ほう、大層面白いな』
「じっちゃん、今時間あるならこっち来る? ウルピウス殿下もいるんだ」
『うむ、行こう』
「ヴィル、ビーコンこっちに置いたから、じっちゃんこっちに連れてきて」
『了解だぬ!』
現れるメルヒオールさんとヴィル。
ウ殿下以外は口あんぐり。
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
ヴィルをぎゅっとしてやる。
意外そうなメルヒオールさん。
「バルトロメウス殿、インゴルフ殿、ルイトポルト殿か。どうしたパーティーだ?」
「双子皇子夫妻は員数外なのな」
「爺上、説明しよう」
ウ殿下の過不足ない説明に苦笑するメルヒオールさん。
「またユーラシアはおかしなことに首を突っ込んでいるな」
「で、じっちゃんはどう思う? 山越えの街道は輸送路として使える?」
「十分可能だ」
断言。
聖モール山をよく知ってるメルヒオールさんがこう言うなら間違いないんだろ。
興奮気味の侯爵伯爵男爵。
「だけど魔物の多い街道を使えるようにするだけのノウハウやおゼゼがないんだよ。じっちゃんの力を借りたいの」
「条件がある」
「「「聞かせて下され!」」」
「資金を融資し技術を提供することに関しては異存がない。我が領ゼムリヤにとっても大いにメリットのあることだからだ。しかし供与する相手の主体は誰になる? 最大の受益者はチョップ男爵家になるだろうが、ルイトポルト殿は跡継ぎも定めておらぬだろう?」
「それは……」
「左分け皇子がチョップ男爵家を継げばいいと思うよ」
「「「「「「「えっ?」」」」」」」
侯爵伯爵男爵それから双子皇子とそのお嫁さんがポカンとすること。
メルヒオールさんとウ殿下がおかしそう。
要するにメルヒオールさんは覚悟を問うているのだ。
チョップ男爵家ルイトポルトさんが跡継ぎを定めないのは、爵位と領地の返上も視野に入れていたからではないか?
経営の難しい田舎領ではあるが、領主としての気概を見せろということだろう。
「ガイウス兄上はどうなのだ?」
「いや、急に言われても……」
「右分け皇子が将来伯爵になるだろうに、自分が男爵なのは気に入らない? でもゼムリヤとの交易がうまくいくなら金持ち領になるし、どっちの立場が上かわかんないぞ?」
「そ、そうか? わかった。伯父上、チョップ男爵家を継がせてくれ!」
「バルトロメウス殿。娘御を取られる格好になるが、ザイフリート侯爵家としてはよろしいか?」
「無論です。ルイトポルト殿に異存がなければ、我がザイフリート侯爵家とチョップ男爵家で街道整備の資金は調達いたしたいと思います」
「いや、キルヒホフ家も協力させてください! 家宝を売ってでも資金は作ります!」
よーし、いい流れ。
ん? ルイトポルトさんどーした?
「待ってください。娘婿というわけでもないのに、簡単に爵位の継承が認められるとは思えないのですが」
「ゴリ押せば大丈夫だと思うよ? 辺境侯爵もウルピウス殿下が継ぐこと内定してるの。同じケースでしょ?」
「うむ、俺も問題なく通ると思う。ガイウス殿下ならば身元がハッキリしているからな」
おそらく爵位の簒奪を防ぐためだろう。
面倒くさい法律があるんだろうけど、今回のチョップ男爵家の爵位継承は、帝国本土北西地区の発展のためという大義名分がある。
税収アップを期待できるのに反対するほど、帝国は間抜けじゃないしな。
チョップ男爵家領は、先帝陛下が重要と見て側妃を望んだほどの地でもある。
ルイトポルトさんと左分け皇子が説明すりゃ通るだろ。
バルトロメウスさんが呟く。
「大内乱以降沈滞する本土北西地区の再開発は、カル帝国の長年の課題であったはずだ。それがこうも簡単に……」
「たまたまわかりやすい解答が転がってたからだぞ?」
「チラッと小耳に挟んだことですが、ユーラシア殿はウルピウス様とのロマンスが?」
「ユーラシアがなかなか了承してくれぬのだ」
「うむ、俺もウルピウスとユーラシアがゼムリヤを治めてくれるなら、安心して隠居できるのだが」
「何なんだあんた達は。外堀を埋めようとすんな」
「埋めようとするぬよ?」
ヴィルをぎゅっとしてやる。
あたしはドーラファーストでありたいのだ。
インゴルフさんが手を叩く。
「さあさあ、いい時間です。昼食を用意させましょう」
「やたっ! いただきまーす!」




