第1722話:フィフィの本の推薦文
――――――――――二七〇日目。
フイィィーンシュパパパッ。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「やあ、精霊使い君、いらっしゃい」
代わり映えがしないとゆーか変わらない安心感とゆーか。
いつものサボリ土魔法使い近衛兵だ。
「リリーを迎えに来たんだ。今日は皇妃様んとこに泊まりだから早いかと思って」
「うん、先ほど近衛兵詰め所にみえたよ」
「眠そうにしてない?」
「してる」
アハハ、今日のお昼はお肉パーティーに付き合わせるつもりだ。
でも午後はゆっくり昼寝するといいよ。
「ところで陛下が先帝陛下呼びなのに、いつまでも皇妃様って呼ぶのはおかしいよね? 何て言えばいいのかな?」
「上皇妃殿下だな」
「上皇妃様か。なるほど、一つ賢くなった」
灰色の脳細胞を活性化するあたし。
「新聞記者もスタンバイしているんだ」
「え? 何で?」
今日は何もネタがないぞ?
リリーのお迎えだけだし。
「昨日の皇帝選壮行会があったろう?」
「あのくだらないつまらないしょーもない会ね」
「並べたなあ。新聞記者も同様の感想を持ったようで、君とリリー様の登場まで見なくて途中で帰ってしまったんだそうな。そのため記事が中途半端になってしまったらしくて」
「ははあ? でもだからって、今慌ててもしょうがないじゃん。面倒みきれないぞ?」
「リリー様にインタビューしてるんだ」
「そーだったかー」
ちょっとでも失点を回復しようってことかな。
近衛兵詰め所へ。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「「「ユーラシアさん!」」」
何だ何だ?
新聞記者トリオが随分と非難がましい目で見てくるじゃないか。
「ひどいじゃないですか!」
「何がよ?」
「昨日の壮行会ですよ! 一昨日施政館でユーラシアさんが乗り気じゃなかったですから、我々も軽視してたんです!」
「そうしたらユーラシアさんとリリー様が空から登場して士気を高める、一番いい場面を見損なってしまって……」
「デスクにこっぴどく叱られたんですう……」
「知らんがな」
だからどうした。
いいとこ見られなかったことまであたしのせいにすんな。
リリーが言う。
「初めから昨日のような段取りを考えていたのか?」
「いや、一昨日ドーラに帰ってきてから、どう考えてもアデラちゃんがピンチだなと思って、リリーに協力頼みに行ったんだよ」
「うむ、アデラ先生の危機を救えてよかった」
必死にメモしたって大した記事にならんとゆーのに。
「大ネタを拾うまで帰ってくるなと言われたんです」
「ユーラシアさんに張りついていたら何とかなるかと……」
「なるかそんなもん。今日はリリー連れて帰るだけだわ」
「「「ええ……」」」
絶望の表情の新聞記者トリオ。
雨に濡れた子ウサギみたいで哀れだな。
新聞とはいい関係を続けたいので何とかしてやりたいけど、今日は何もないわ。
リリーが思い出したように言う。
「おお、そうだ。ルキウス兄様がこれをユーラシアにと」
「昨日の御褒美かな?」
違った。
フィフィの本の推薦文だ。
パウリーネさんの分もある。
「記者さん達ラッキー。これあげるから記事にするといいよ」
「これは?」
「この前渡したフィフィの本あるでしょ? あれの推薦文。プリンスルキウスと、その奥さんのパウリーネさんが書いたやつ」
「あっ、あの時の!」
記者トリオはあたしがプリンスに頼んだ時いたから知ってるんだっけ。
「フィフィはプリンスの元婚約者だから、話題性あるじゃん?」
「「「そうですね」」」
「しかもプリンスの奥さんであるパウリーネさんも書いてくれてるじゃん?」
「「「はい」」」
「プリンスが皇帝にでもなろうもんなら、この本は一躍今上陛下御推薦になっちゃうわけだよ。いくらでも煽りようはあるでしょ」
「「「はい!」」」
「よし、頑張れ」
「「「ええっ!」」」
何で『ええっ!』なのだ。
御丁寧に記事ネタを提供してやってるだろーが。
「こ、この本が本当に大ヒットするならば、先んじて目をつけたスクープなのは間違いないですが……」
「保証がないです」
「大ヒットの保証なんかあるか。成り行きに任せようとすんな。ヒットは作るもんだ」
「ヒットは作るもの?」
わからんのかなあ?
「記者さん達はフィフィの本読んだでしょ? どう思った?」
「面白かったです。私はもう一度読みたいですね」
「軽い読み具合の本ですね。今までにないタイプの」
「難解で読めなくなってしまうことは絶対にないと思います」
「誰も読めない本がヒットするはずがないじゃん? フィフィの本は誰でも読める、しかも面白い。つまりヒットの要件を満たしてるってことだよ。ならば?」
「「「は?」」」
は? じゃねーよ。
もうちょっと頭使え。
「この本を読む人は新聞の購買層と被るってことだよ。つまり新聞で推せば推すほど売れちゃう本なの。大ヒットするかどうかは記者さん達次第」
「「「な、なるほど?」」」
「成功すれば見返りは大きいぞ? フィフィとの独占インタビューだってセッティングするし、次回作の期待もある。本を普及させたいヴィクトリアさんの覚えも良くなる」
「「「ふむふむ」」」
「逆だってあるでしょ? あたしもヴィクトリアさんも、これからどんどん廉価本が出る世の中を志向しているのだ。そういえば新聞は新しい本をよく紹介しているね。購読してみようかっていうパターン」
「「「……」」」
「まず帝国本土には一五〇〇部入るんだ。全部売れちゃえば飢餓感を煽れるから勝ちだな。売り切れたぞーって記事も書けるでしょ?」
「「「はい」」」
「買う側だって初めは基準がないから、イシュトバーンさんの描いた表紙とプリンスの推薦文しか判断材料がないんだ。これを補強してやるのが記者さん達の役割だぞ?」
「「「はい!」」」
「よし、頑張れ」
まったく手がかかるなあ。
でもまあ何とかなるだろ。
「もう一つ。ヴィクトリアさんとリリーの母ちゃんの対立だけど、雪解け気配だよ」
「本当ですか?」
「うむ。近々姉様と母様の茶会があると思う」
「楽しみにしてなよ。ある程度結果出たら話してあげるから」
よし、そんなとこか。
「プリンスの推薦文来たから、『ケーニッヒバウム』に売り込んでくる。リリーも付き合ってよ」
「うむ、わかったぞ」
「「「お供します!」」」
「お供するぬ!」
アハハと笑いながら『ケーニッヒバウム』にしゅっぱーつ。




