第1721話:お肉とブタの話
「サイナスさん、こんばんはー」
『ああ、こんばんは』
毎晩恒例のヴィル通信だ。
「今お肉を腹一杯食べてきたんだ。明日の焼き肉パーティーが楽しみ」
『ユーラシアは天下泰平だなあ』
「ありがたいことだねえ。お肉への感謝は忘れないよ」
天下泰平お肉三昧。
これが平和で幸福か。
『リリー皇女を連れて帝都へ行ったんだったな? 皇帝選の候補者お披露目イベントをショッキングなものにするために』
「どうでもいいイベン……お肉の印象が強かったから忘れかけてたわ。いや、ショッキングにはならなかったけれども」
『イベントがメインなんじゃないのかい?』
「最初から面白いイベントにならないことはわかってたし。でもリリーの活躍で思ったよりは盛り上がったな。いや、イベント以外にいくつか面白いことが派生したんだよ」
『フラグを立ててきたんだな?』
とゆーわけじゃないんだが。
どうもサイナスさんはあたしのことを、笑いの神様の手下みたいに考えてるらしい。
あたしは笑いの神様に愛されてるだけだとゆーのに。
「つまんない方からいくよ。今日のイベントの首尾ね。予定通りしらけたイベントだった。そこへ救いの神あたしとリリーが空から登場。奇麗に締めて、何とか形になりました」
『予定通りだね』
「でもあたしの出番がなかったわ。リリーの個人技が魅せました。人気者の涙はズルい」
何だかんだでリリーは存在感ある。
「候補者同士は敵にならないよってことを、双子皇子のお嫁さんの実家の方に説明に行くことになったんだ」
『何だそれ? 何故君が?』
「昨日から『何だそれ?』ってのが多いね。気に入った?」
サイナスさんが何を気に入ろうが、あたしの知ったこっちゃないが。
『つまり双子皇子は皇族ということ以外、配偶者の身内に評価されていない。信頼性がないから君が説明する?』
「何でわかるのよ? サイナスさんメッチャ鋭いな。大正解です」
『相変わらずユーラシアは人がいいな』
「いやまあ、あたしの人格や品性は頂点を極めているけれども」
褒めてもらうのは気分がいいな。
でもあたしが聖女だから手を貸すわけではなくてだね。
「まだ双子皇子から謝礼をもらってないし。お嫁さんの実家も貴族だから知り合いになっといて損はないし」
『ははあ、メリットがあると見ているのか』
「メリットになるかは会ってみなきゃわからんよ? だって旦那がモブ皇子なんだもん」
皇帝候補者達の敵になることを心配して双子皇子を追及したくらいだ。
双子皇子のお嫁さんの実家の方々は、まともな感覚を持っているとは思う。
「次行きまーす。先妃様系の皇子皇女とカレンシー皇妃様系の皇子皇女って折り合いが悪いんだけど、和解しそうな雰囲気です」
『君が間に入ってってことか? 大手柄じゃないか』
「ぶっちゃけあたしは両方と付き合いがあるから、先妃様系とカレンシー皇妃様系の皇族が仲悪いとあたしの都合がよろしくないというか」
『自分の都合を優先させるためだけに、あえてアンタッチャブルなものに触れにいく精神力がえぐい』
褒めるとこまでで終わっときゃいいのに、何故余計なセンテンスを継ぎ足すのか。
蛇足って言葉知ってる?
「結果が良ければ皆ハッピーじゃん?」
『まあそうだが』
「さっきのくだらんイベントのあとに、リリーとヴィクトリア第一皇女を会わせたんだ。最初強張った感じだったけど段々打ち解けてさ。主にあたしの手柄だけど」
『強要しなくてもわかってるよ』
「今日リリー皇宮泊まりなんだ。ヴィクトリアさんのことについて、皇妃様と話してくると思う」
『皇帝陛下が亡くなったのに、呼び方は皇妃様でいいのか?』
「……あれっ? 何て呼べばいいのかな?」
先妃様じゃ混同しちゃうしな?
明日聞いてこよ。
「最後、ブタの話です」
『ん? ブタについて帝国で進展があるのかい?』
「エメリッヒさんの実家、ギレスベルガー子爵家の現当主と知り合いになりました。フェーベさんって人」
『女性が爵位持ち当主なのか? 珍しくないか?』
「珍しいと思うね」
皇帝家では女性の継承権は男性のあとになる。
多分爵位の継承も似たようなもんだろうし。
『エメリッヒ氏が先代の長男なんだろう? エメリッヒ氏が当主でよさそうなものだが』
「聞くも涙、語るも涙の物語があって」
『そういうのいいから、簡単に説明してくれよ』
あらいけず。
「エメリッヒさんは前の当主の長男なのはその通り。ただ継室の産んだ弟が跡取りになるのが規定路線って言ってたんだ。ところが今日フェーベさんに聞いたところによると、エメリッヒさんの弟がギレスベルガー家の血を継いでないかもしれないんだそーな。で、エメリッヒさんからみると叔母に当たるフェーベさんが子爵になったみたい」
『ええ? 大変じゃないか』
「まー他所ん家の事情に首突っ込むのもアレだから何も言わないけれども」
『君下世話なことに首突っ込むの大好きだろう?』
「好きだけど空気は読むわ」
首突っ込める雰囲気じゃなかったわ。
弟も継母も知らん人だから興味湧かないし。
「この辺の事情、エメリッヒさん知らないと思うんだ。いや、あたしも今日聞いたことだけしか知らんのだけど、さらっとエメリッヒさんに話しといてよ」
『わかった。それでブタについては?』
「技術提携しようぜってことになった。具体的にはギレスベルガー家にある、ブタ飼育の資料を見せてちょうだい。ドーラがブタ家畜化に成功したら、帝国では真っ先にギレスベルガー家で導入できるようにするっていう条件だね」
『面白くなってきたじゃないか』
「なってきたねえ。あたしも早めにエメリッヒさん連れてエルフの里行って、ワイルドボアの飼育がどうなってるか確認したい」
『女子爵とエメリッヒ氏を会わせないのかい?』
「会わせるよ。でもフェーベさんはもう四、五日で領地に戻るんだそうな。その後になるかな」
細かいことを手探りでやってると家畜化までえらい時間かかりそう。
でもノウハウがあればかなり短縮できるんじゃないかな。
どれくらい累代飼育すれば邪気って抜けるもんなんだろ?
「サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、御苦労だったね。おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
明日は焼き肉パーティー。
その前にリリーを迎えに行かねば。




