第1715話:世の中不道徳が面白い
フイィィーンシュパパパッ。
塔の村にやって来た。
「ハゲてるぬよ?」
「ヴィルの言い方はメッチャ素直だな。今日も見事に光り輝いているね。でもデス爺に用はないんだよな」
今日は帝都でアデラちゃんの尻拭いをせねばならん。
リリーはどこだ?
食堂へ。
「あれ、リリー?」
「我だぞ。見違えたか」
「うん」
「似合ってるぬ!」
リリーと黒服を発見。
リリーってこんなに髪長かったんだな。
いつもは動きやすいようにまとめている髪を下ろしている。
服装も武闘少女みたいなのではなく、普通の町娘風だ。
「そもそもリリーが午前中に眠そうじゃなく、バッチリ起きてるってこと自体が驚きの対象だったわ。髪がどうこうなんてのは枝葉に過ぎなかったわ」
「今日はサプライズで登場するのであろ?」
「変装のつもりだったのか。あたしそこまで考えてなかったな」
確かにリリーは帝都で大人気だから、突然現れると揉みくちゃになる可能性もあるかな?
もっとも帝国人は皇族に対して低姿勢だから、大丈夫だろうけれども。
「ぬしには必要ないであろ? 一見男子のように見えるからな」
「おっぱいか? おっぱいのせいなのか?」
「歩幅が広いからぬよ?」
ヴィルに慰められたぞ?
バアルなら遠慮なくおっぱいがないせいであるって言いそう。
あるわ!
「じゃ、行こうか」
転移の玉を駆動して一旦帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「やあ、精霊使い君いらっしゃい。あ、リリー様もお越しでしたか」
「うむ。お役目御苦労である」
皇宮にやって来た。
いつものサボリ土魔法近衛兵に言う。
「今日、皇帝選の候補者全員が登場して挨拶するとゆー、間の抜けた会があるの知ってる?」
「間の抜けた会って。正午から中央広場で行われる壮行会だろう?」
「そうそれ。やっぱ中央広場か」
あそこ広いから、人が集まりやすいもんな。
「新たなる皇帝を選出する選挙戦の開始を記念し、先帝の意思を尊重した正しさ潔さを宣言すると聞いた」
「まーお題目は立派なんだけど、実につまらんじゃん?」
「は?」
「予がここにいる連中を蹴落として皇帝になるのだー。何言ってんだお前はイモでも食ってろ、みたいな舌戦を見る人は期待してるから」
「ぶふっ、イモ……」
あれ、イモはルーネだけじゃなくリリーにもツボみたい。
皇女の感覚はわからんな?
「正々堂々と選挙戦やりますってのは道徳的だよ? でも世の中不道徳サイドが面白いと相場が決まっているのだ」
「つまり精霊使い君は、壮行会は盛り上がらないんじゃないかってことが言いたいのかい?」
「盛り上がらないんじゃないかじゃなくて、絶対盛り上がらないんだよ。見物人の期待を悪い方に裏切ってるんだもん」
「わからなくはないが……」
「そーゆーテンションの下げ方してくれると、皇帝選自体が低く見られちゃうかもしれないじゃん? 仕切りのアデラちゃんの手腕も疑問視されちゃうし。いいことないから、あたしとリリーが突然乱入して花くらい添えてやろうかと思って」
「ああ、世話焼きなのか」
世話焼きだわ。
過保護かもしれんけど、アデラちゃんが犠牲になるとあっては見捨てられんわ。
「ところで何か変わったことあった?」
「マルクス様ガイウス様から使いが来ていたぞ」
「あ、昨日の謝礼に関してだな? 何くれるつもりだろ?」
「いつでもいいから、近い内に話をしたいとの仰せなんだが」
「あたしは今日の午後でもいいけど」
「いや、人を集めるってことだったんだ」
「人を集める?」
何だろ?
面倒ごとかな?
楽しみが増えたと思えばいいか。
「……じゃあ明後日の午前中に皇宮に来るよ」
「了解、そう連絡しておこう」
リリーが不思議そうに聞いてくる。
「マルクス兄上ガイウス兄上と親しくなったのか?」
「いや、昨日初めて会ったの。でもあの二人存在感がなくて、名前が覚えられないんだよね。双子皇子って呼んでる」
とゆーか実際に会ったらあまりにもモブだったから、名前が頭から抜けちゃった。
何のかんので近衛兵詰め所にとうちゃーく。
「ユーラシアさん!」
ルーネとヴィルが飛びついてくる日常風景。
あ、ウルピウス殿下もいる。
「リリーも来たのか?」
「ユーラシアに誘われたのだ。このままだと皇帝選壮行会が失敗するから、少し盛り上げてやろうということで」
「ふむう、やはりユーラシアの見解でも失敗するのか」
「ウ殿下も思うでしょ?」
「今朝の新聞を読んだのだ。候補者同士に因縁がなく、新皇帝への体制に恙なく移行するための措置であろう?」
「遺恨を残さないぞってゆー意図だね」
「新聞報道だけでいいではないか。表面だけ笑い顔を見せてるイベントなど、興醒めで税金のムダだ。新聞での発信で市民の口コミを期待しつつ、情報を小出しにして皇帝選への期待感を高めるべきだ」
「あたしも同意見だね。ところがお父ちゃん閣下とプリンスルキウスは、市民に茶番を実際に見せることが重要と考えたみたいで」
ウ殿下はわかってるなあ。
新聞の使い方を勉強してるのかもしれない。
「さて、行こうかな」
「うむ、腕が鳴るではないか!」
「え? そんなに気合い入れなくてもいいんだぞ?」
「予も連れていってくれ。ユーラシアのお手並み拝見といこう」
「ルーネはどうする?」
「今からヴィクトリア伯母様にお食事にお呼ばれしているのです」
残念そうなルーネ。
いや、今日はあんま面白いイベントじゃないから、ガッカリすることないぞ?
あたしだって関わりたくないくらいだ。
仕方なく行くだけ。
「あとでヴィクトリアさんとリリーを会わせたいんだ」
「「「「えっ?」」」」
リリー黒服ウ殿下ルーネが総ビックリ。
「この前ヴィクトリアさんに会った感触からすると、かなり態度が軟化してるんだよね。ルーネ、どう思う?」
「……カレンシー皇妃様を直接ヴィクトリア伯母様に会わせるよりは、リリー叔母様の方が先だと思います」
「だよね。リリーどうする?」
「……ユーラシアは会うべきだと考えているんだな?」
「会うべきだね。ただあたしせっかちだからさ。まだちょっとタイミング早いかもしれないんだ」
まあでも早けりゃヴィクトリアさんの方から断ってくるだろ。
「会ってみよう」
「では私がヴィクトリア伯母様に伺っておきます」
「頼むね」
さあ、出発だ。




