第1714話:サラセニアでとんでもハップン?
――――――――――二六九日目。
「アリスー、おっはよー」
「おはようぬ!」
「あらあら、朝から忙しいのね」
「忙しいのはありがたいことだね。予定がないと不安になってくる」
アハハ、本の世界にやって来た。
マスターの金髪人形アリスがニコニコしている、ように見える。
機嫌がいいのは間違いないな。
「またいつものようにお肉の調達かしら?」
「うん、生命の源であり幸せの泉であり本能の欲するもの、それがお肉!」
決まった。
これなら尊敬するお肉に対して失礼じゃないだろう。
お肉は大体なんでも解決する食材だから。
「明日焼き肉パーティーやろうってことになったんだ。ごっそり狩ってたっぷりお肉の日だよ」
「ユー様、明日はドワーフの転移の玉一〇個ができ上がる日ですよ」
「あっ、そーだっけ? ドワーフのところにもお肉持っていかないとな」
「ダブルミートデーね」
「素晴らしい響きだね。何かが祝福してくれるようだ」
「何かって何でやす?」
「まどろっこしいのは嫌いだから、あたし達自身で祝福しようじゃないか」
「祝福するぬ!」
アハハ、今日も楽しい一日の始まりだ。
「アリス、カル帝国の皇帝陛下が亡くなってから、各国に何か動きある?」
「まださほど皇帝崩御の情報は伝わっていないわ。ただしアンヘルモーセンは掴んでいます。国家認定商人の動きを一旦止めたけど、今は元通りよ」
「ふーん、皇帝選やることを知って、ゴタゴタしないって判断したんだな? アンヘルモーセンの諜報活動は大したもんだなあ。あれ? でも情報の伝わるスピードがおかしくない?」
「ワープできる天使が情報を運んでいるのよ」
「何とビックリ」
アンヘルモーセンは天使を働かせているのか?
いや、天使は傲慢って話だったから、人間に働かされてるってのは考えづらいか。
信仰心を勝ち得るために、天使が情報を提供しているのかもしれない。
とゆーことは……。
「天崇教の宣教師が、サラセニアで布教活動を一生懸命やってるのは本当?」
「本当よ。二年ほど前から徐々に活発化していて、ここ一ヶ月は天崇教の過去に例がないほど懸命な布教活動を、サラセニアの首都ウトゥリクで行っています」
「何でだろ?」
「わかりませんけれども……」
思惑は語らないアリスだが?
しかし一ヶ月前って言ったら、タルガ~サラセニアの直接交易構想が生まれた頃だ。
帝国とガリアが手を結んだんだから、普通に考えりゃアンヘルモーセンはサラセニアから手を引くべきだ。
じゃあアンヘルモーセンの国は関係なく、天崇教が独自に布教活動に力を入れているのか?
「天崇教の考えではないのです」
「どういうこと?」
「アンヘルモーセンが国家として天崇教の布教を命じているのです」
「ふーん、驚きの事実だな」
布教活動は天崇教の独断じゃなくて、アンヘルモーセンの国家戦略だった。
アンヘルモーセンと認定商人と天崇教が三位一体という、タルガ総督サエラックさんの発言にも合うな。
しかし何故サラセニアに拘るんだろ?
理由がわからん。
いや、信仰から親アンヘルモーセン化を狙うのはわからなくもないんだが……。
「……布教活動を国家戦略としてかつてないほど強めてるってのは、どう考えてもおかしいな。宗教なんか嫌がる人も多いだろうし、サラセニアの親分のガリアは反発するの当たり前だし」
事実ガリアの王様怒ってたしな?
大国のガリアを怒らせてまでも、サラセニアでの布教を急がねばならない理由があるみたい。
何だそれ?
「宗教でやすぜ? あっしらに通用しない理屈なのかもしれやせん」
「そーなのかな。むーん?」
ガリアが腹を立てて軍事力での争いとなれば、さすがにアンヘルモーセンに分がない。
現に今は紛争のすぐ手前の状況にあった。
アンヘルモーセンが内海で没落することはイコール天崇教の失墜、つまり信仰心を失うから天使にとって不都合だ。
天使が情報を握っているなら、アンヘルモーセンの動きは狂信者的なものじゃない。
現実的な理由があるのだ。
「……やっぱ見えてない理由があると考えるのが、一番事実に符合するな。アリスが知らないとなると、よっぽど厳重な秘密なのか。待てよ?」
アリスが知らないことの一つに不確定の未来がある。
予定にない突発的な出来事だ。
アンヘルモーセンにほこら守りの村のマーシャに似た能力の持ち主がいて、何らかの未来が見えているんじゃないか?
来たるべき未来を根拠に動いている?
アンヘルモーセンがサラセニアに固執するのは、サラセニアでアンヘルモーセンにとって有利な何かが起きるから?
それが本当だとすると、アンヘルモーセンの不可解なアクションに解答が出せそうだが。
あたしもマーシャに占ってもらうべきか?
いや、マーシャは見た人の将来にしか力が及ばないみたいだ。
この件に誰の何が関係しているのか、サッパリわからん。
大体未来が見えているという推論だって突拍子もないしな?
「ユー様、何かわかりますか?」
「全然わからんなー。とゆーか証拠が何一つないなー。でも近い将来サラセニアでとんでもハップンってのが、一番矛盾がないんだよなー」
「姐御、わからないこと考えててもしょうがないでやすぜ」
「目の前のミートが先ね」
「そりゃそーだ。アリスありがとう! 愛してるぞ!」
「愛してるぬ!」
「まっ!」
真っ赤になる金髪人形をあとにコブタマン狩りへ。
◇
「ただいまー。あっ、ごめんね。待たせちゃったかな?」
「大丈夫ですよ。今来たところですので」
帰宅したら既に台車が何台も待っていた。
よいしょよいしょとコブタマンを積み上げる。
「焼き肉パーティーは明日の昼でいいのかな?」
「はい。JYパークと開拓地転移石碑前の二会場ですよ。JYパークで焼き肉を、開拓地で肉たっぷりスープを振舞うそうです」
「えっ、何それ。焼き肉が勝ちかお肉たっぷりスープが勝ちかの真剣勝負?」
今日から骨を煮ておけば、実に濃厚で美味いスープになるだろうなあ。
さりとてデカい鉄板で焼くお肉も捨てがたい。
要するに両方を御賞味あれってことだ。
楽しみだなあ。
「こうしちゃいられない。もっとお肉たくさん狩ってこないと」
「えっ? かなりの量ですよ?」
「これじゃ皆さんの期待に全く応えられないよ。一〇分待っててね。ごそっと持ってくるから」




