第1698話:あたし用の『地図の石板』?
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
施政館で昼御飯を食べたあと、うっかり元公爵をラグランドに送り届け、塔の村コルム兄のパワーカード屋で『ウォームプレート』『クールプレート』を受け取り、行政府にやって来たのだ。
勤労の義務万歳。
たくさん働くあたしには神様の恩恵があるはず。
たまには笑いの神様以外からの恩恵もあっていいかなあと思うけど、まあ我が儘は言わない。
エンターテインメントウェルカム。
「報告がありまーす。亡き陛下の遺言にて、皇帝を決める選挙を行うことになりました!」
パラキアスさんが笑う。
「聞いたし新聞でも読んだ。それ以上の情報があるんだろう?」
「今のところ立候補してるのがレプティス宮内大臣、ドミティウス主席執政官、プリンスルキウスの三人。マルクス殿下とガイウス殿下が出馬の意向あり。ウルピウス殿下は出なくて、フロリアヌス殿下も多分出ないだろうって」
「リリー皇女も出馬するつもりなしとデス殿に聞いた」
「出りゃ面白いのにねえ」
もしリリーが皇帝になったら、帝国のあり方が劇的に変わるだろう。
皇帝は政治から離れ、カリスマをもって君臨するだけの存在になるのではないか?
有能な平民が世に出やすい国になるかもしれない。
「セウェルス第三皇子殿下は?」
「参加できないって。これは第一皇女ヴィクトリアさんが言ってた。まーあたしも実際会った感じから、セウェルス殿下の出番はないと思う」
「完全にドミティウス皇子とルキウス皇子の一騎打ちだな?」
「そうそう。どっち勝つか全然わかんない」
オルムスさんが心配そうに言う。
「しかし……貴族票は圧倒的にドミティウス殿下が取るんだろう?」
「何せ現職の主席執政官だから、存在感半端ないわ。貴族に対しては強いと思う。でも誰に皇帝になって欲しいっていう新聞の購読者アンケートでは、プリンス四〇%主席執政官閣下三一%なんだ」
「購読者限定か。鵜呑みにはできないが……」
「うん、十分戦える。見込みある」
「ユーラシアは何か仕掛けているのか?」
「あたしは派手に動けないんだってば」
「遺書を持ってたことから、中立に見られているということだな?」
「プリンスに推薦文を頼んでるフィフィの本の輸出があるから、その話題性がすこーしプリンスの後押しになるかなってくらい」
ヴィクトリアさんが立候補しないことによる主席執政官閣下のプラス要因と、トントンくらいなんじゃないの?
あたしはプリンスルキウス推しではあるが、派手に動くと皇帝選自体が胡散臭くなっちゃう。
遺書持ってたことで、あたしの行動自体が縛られちゃってるんだよな。
もっとも皇帝は帝国人が決めるべきだと思うから全然構わん。
あたしにできるのは、事態が混乱しないように力を貸すくらいだ。
パラキアスさんはまだ何かするつもりかもしれないけど。
「市民による投票日は来月一四日だって」
「決定か? 投票日は一日だけか?」
「うん。そーゆー連絡が来たところだって閣下が言ってた。市民の投票どうするかは、帝都の市長に一任してるんだって」
「やや、厳しいか……」
パラキアスさんの眉間のしわが深くなる。
市民の投票率が低くなるとプリンス不利と見ているからだろう。
「皇帝選挙については今のところ以上でーす。次のラグランド総督がジェロン伯爵って人で、今日投票すませて明日ラグランドへ発つって言ってた。皇帝陛下が亡くなったせいで予定よりちょい遅れてるから、ホルガーさんがドーラに着任するのも後ろにずれ込むかも。ホルガーさんには多分文官三人ついて来る。武官はわかんない」
「そうか」
「最後に『ウォームプレート』と『クールプレート』持ってきたけど、納品していいかな?」
「ありがとう。受け取るよ」
毎度あり。
さて帰ろっと。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「オニオンさん、こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「ユーラシアさん、いらっしゃいませ」
夕食まで時間があるので魔境にやって来た。
オニオンさんが言う。
「カル帝国の皇帝陛下が亡くなったんでしょう?」
「お亡くなりになった。お大事に、じゃなかった御愁傷様です。新しい皇帝を選ぶ選挙をやることになって、帝国市民大盛り上がり」
「新聞で知りました。帝都の様子はどうです? 混乱したり不穏な情勢になったりというということはないですか?」
「今のところないね。一ヶ月っていう短期の決戦になるから、バタバタしてる内に終わっちゃいそう」
モタモタして三〇日超えるとリリーが皇帝ということに関して、誰も文句を言わない。
遅延することは間違ってもないんだろう。
「ユーラシアさんもあちこち行ってたんですか」
「連絡係を仰せつかったからね。遠隔地の領主を連れてくるとかで、もう一働きしなきゃいけないかも。貴族や騎士の票は施政館に徐々に集まっていくでしょ? 一方市民の投票は来月一四日に行われて開票、皇帝が決まるって感じになりそう」
「ドーラとしてはルキウス皇子推しなんですよね?」
「うん。でもドミティウス主席執政官閣下も大分あたしの存在に慣らしたから、どっちが皇帝でもそう困んないとは思う」
とゆーか閣下にくっついてるガルちゃんを懐柔して、もう大して悪いことしそうにないからというのが大きい。
ただし閣下が『魔魅』持ち、プリンスが『威厳』持ちという資質の差がある。
プリンス皇帝が望ましいがなあ。
「ユーラシアさんは既に投票されたんですか?」
「あたし? あ、そーか、あたしも五〇票分の投票権があるんだったな。立候補者が出揃ったら投票してこよっと」
どーもドーラ人っていう意識があるから、帝国の騎士爵持ちだってこと忘れてしまう。
ん? オニオンさんがらしくない悪戯っぽい顔してるけど?
「ユーラシアさん、最近ギルド行ってないでしょう?」
「えーと、六、七日行ってないな。処分しなきゃいけないものもあるから、明日行かないと」
「サクラさんがユーラシアさん用の『地図の石板』を用意していますよ。受け取ってください」
「ほんと? 楽しみだなあ」
『アトラスの冒険者』が廃止されるので、あたし向きのクエストを回してくれるという話だった。
『ガリア・セット』が動かないから助かるなあ。
「行ってくる!」
「行ってくるぬ!」
「行ってらっしゃいませ」




