第1696話:ジェロン伯爵
「こんにちはー。美少女精霊使いユーラシアと五人の愉快な仲間達がやって来ましたよ」
「はい、執政官室へどうぞ」
施政館の受付のお姉さん、誰を連れているかも詮索しないのな?
うっかり元公爵も新聞記者トリオも意外そうだ。
「身元確認をしないのか? どうなっておるんだ?」
「さあ? 施政館の事情は知らんけど、可愛い女の子につまんないツッコミ入れるのは野暮だって気付いたんじゃないかな?」
「待たされるよりいいですよね」
「まあね。考えたら負けだよ」
施政館であたしがどういう扱いになってるのかはわかんない。
新聞記者の言う通り、待たされてイライラするよりよっぽどいいわ。
ヴィルを肩車したまま執政官室へ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「やあ、ユーラシア君いらっしゃい」
主席執政官閣下と、やっぱりプリンスルキウスもいる。
それともう一人、初めて見る人だ。
閣下が聞いてくる。
「ユーラシア君、この男どう思う?」
「え? またクイズ?」
閣下はクイズが好きだなー。
とゆーかあたしがどう評価するかってことを、人を見る上での判断材料の一つにしてるんじゃないか?
穿ち過ぎだろうか?
さて、クイズの対象となっているのは、整えられたグレーのやや長めの髪と向けられた鋭い目が印象的な、やや恰幅のいい中年の男だ。
帝国風スーツだが、シャツはひらひらした素材で洒落っ気がある。
「典型的なお貴族様だね。でも地方領主というより政府の役人として働いてるっぽい。パッと見武官だか文官だかわかんないな。騎士か軍の経験があるけど、デスクワークもバリバリこなしてそう」
「ほう、すごいな。そこまでわかってしまうとは」
「ジェロン伯爵だ。ホルガーの次のラグランド総督になる」
「よろしく」
軽く握手。
ジェロンさんって聞いたことあるな。
確かアデラちゃんの前の植民地大臣だ。
見ただけでやるやつってわかるけど、あたしが名前を覚えてるってことは結構な人材なんだなあ。
帝国は有能な人がどんどん出てきてマジで羨ましい。
「こら、ユーラシア君!」
「ん? じっちゃん何?」
うっかり元公爵がプンスコしてる。
「もっと愛情を込めて握手せんか!」
「ちょっとビックリのクレームだったよ。あたしだってエンタメの対象は選んでるわ。できる男がひゃああ言ってるところは見たくないもん」
「ほう、私も軍で鍛えた男だ。愛情込めてもらっても構わんぞ」
「そお? じゃあお言葉に甘えて」
握った手にちょっと力を込める。
どーだろ?
「ひやあああああ!」
「ほら見ろ、愉快に鳴いちゃった」
手をふーふーしてる。
目付きが鋭い割にユーモアのある人だなあ。
ジェロンさんはお約束のわかる男だった。
「ジェロンは軍に在籍していたんだ」
「貴族なのに騎士団じゃなくて軍に入る人もいるんだねえ」
「軍歴を持つ者も少なくはないよ。名誉士官として名前だけの者が多いが、ジェロンは一般兵に近い経験を積んでるんだ。実戦経験もある」
「うん、わかる」
中級冒険者並みのレベルあるもん。
身のこなしに隙も小さいから、かなり入れ込んでたと思う。
「文官に転身したのは、左膝のせい? あんまりよくない状態だけど」
「ふうむ、恐れ入った。その通りだ」
「ジェロン、左膝がどうした。ケガでもしているのか?」
「はい。日常生活くらいでは支障ありませんが、全力は出せませんな」
「せっかくだから治しとくよ」
「魔法治療か? 魔法医にも診せたことはあるんだが、あまり変わらなかったな」
「そお? この治療は難しくないと思うんだけどな?」
膝が悪いってわかってるし、症状あまり重くなさそうだし。
今日は魔法医療に縁がある日みたいだな。
うっかり元公爵のぎっくり腰の治療よりよほど簡単だ。
『ヒール』×二と。
「どーだろ?」
「おお、素晴らしい! 感謝するぞユーラシア嬢!」
「左が悪いせいで長い間右膝に負担がかかってたかな? 治った左膝と比べると右も良くないね。右にも『ヒール』かけとくね。ヒール!」
「完璧だ! 若返ったようだ!」
ジェロンさん大喜びでスクワットしとる。
プリンスルキウスが疑問に思ったようだ。
「ユーラシア君は魔法医以上のことができるのかい?」
「うーん、魔法医に本物が少ないとゆーか、理屈と実力を伴っている人がほとんどいないんじゃないかと思うんだ」
「どういうことだい?」
「欠損以外の身体の物理的なダメージに回復魔法は効くんだよ。でも結構難しいの」
「難しい?」
「うん。悪いところにピンポイントに撃たなきゃいけないの。ジェロンさんの場合だと、多分魔法医は膝の上から『ヒール』したんじゃないかな。でも実際に悪かったのは膝の下」
「まさに」
「厳密なものなのだな……」
頷くジェロンさん。
顰めっ面の閣下とプリンス。
「普通の魔法医って白魔法が使えるだけで、正確に患者さんの悪いところがわかるわけじゃないじゃん? アバウトに回復魔法かけたって効かないこと多いと思うよ」
「「「……」」」
「一方で腕のいいお医者さんは悪いところが正確にわかると思うんだけど、魔法医療自体を信頼してないじゃん? これじゃいつまで経っても魔法医療は進歩しない。もういっぺん言うけど、身体の物理的なダメージに白魔法は効く」
「どうすればいい?」
「身体の悪いところがわかる人の指示の下で、回復魔法使える人が働く体制を作ればいい」
「待て、ユーラシア君はどうして悪い部分がわかる?」
「カンで」
本当だってば。
胡散臭くないとゆーのに。
「『閃き』の固有能力持ちのおかげだと思うけど、レベル五〇くらいまで上がったら魔力の流れが見えるようになったんだ。身体の調子の悪い部分って、魔力の流れが滞ってるの。ちなみに魔力の流れは、『魔力操作』の固有能力持ちならレベル二〇あれば見えるみたいだよ」
「なるほど、魔法医改革が必要か」
「いい加減な魔法医が蔓延ってるとよろしくないねえ。可能性も有効性もあるものなのに、発展が阻害されてるってのが実につまらん」
白魔法だけ使えるエセ魔道士に医学を叩き込む方向性と、ふつーのお医者さんを白魔法使えるようにする方向性があるけど。
「白魔法を付与したパワーカード、あるいはスキルスクロールの生産はドーラにお申しつけください」
「すかさず商売を挟んでくるなあ」
「挟むんだぬ!」
アハハと笑い合う。




