第1695話:悪魔のお話
「あたしが肩車してるのが悪魔だって、帝都の人達はどの程度知ってるのかな?」
うっかり元公爵及び新聞記者さん達と施政館に行く途中、ふと聞いてみた。
「ユーラシアさん自身の知名度は高くなってますが、ヴィルちゃんについてはほとんど知られていないと思いますよ」
「ユーラシア教会関係の人は御存じなんでしょうけど」
「うちの新聞でも、悪魔にスポットを当てた記事は載せたことないですね」
「やっぱそーか。ま、いいや。悪魔嫌いな人も多いだろうから。変な目で見られるとヴィルが可哀そう」
「こんなに可愛いですのにねえ」
「可愛いぬよ?」
あたしといつも一緒にいる子、くらいの一般認識なのだろう。
愛想のいい害のない子と思われてから、徐々に悪魔だと知られた方がいいかもな。
当面あえて何もしないのがよさそう。
うっかり元公爵が聞いてくる。
「ユーラシア君とその悪魔はどこで知り合ったのだ?」
「御主人達がわっちの家に迷い込んできたんだぬ」
「正確には『アトラスの冒険者』で『悪魔をめぐる戦い』ってクエストが出たんだ。転送先がヴィルの家だったの」
ヴィルの家も不思議な空間だった。
青く光る箱みたいな石が印象的だったな。
「『悪魔をめぐる戦い』か。恐ろしげだな」
「名前だけ聞くとおっかないよねえ。あたしもレベルの高い高位魔族との戦いになる難しいクエストなのかなと思ってたんだ。実際にはヴィルと戦ったんじゃなくて、悪魔を嫌う聖火教徒との戦いだったんだよ。摩訶不思議な展開」
首をかしげる記者トリオ。
「ユーラシアさん、聖火教徒との関係はよろしいじゃありませんか」
「ちょっとややこしいんだけど、ヴィルん家行ってヴィルを仲間にして。その後転移事故があって、ヴィルが聖火教の礼拝堂で捕まっちゃったんだよ。で、ヴィルを返してちょうだい、いやいやまかりならんで諍いになっただけ」
「御主人が助けてくれたんだぬ!」
「その事件以来ヴィルはうちの子なんだ。聖火教もすぐにものわかりよく引いてくれたから、あたしも贔屓にしてるんだよ」
「いい人が多いぬよ?」
「ヴィルも悪魔だけど、聖火教徒にウケがいいから可愛がってもらってるの」
考えてみりゃおかしな関係だ。
聖火教の教義は詳しく知らんけど、絶対に悪魔を排除するってものじゃないみたいなんだよな?
締めつけの厳しい宗教ではないというイメージがある。
「ちなみにその頃のユーラシアさんは既に今みたいな高レベルだったんですか?」
「いや、ちょうどレベル三〇くらいだった。冒険者になって一ヶ月ちょっとの時」
「一ヶ月ちょっとでレベル三〇って変ですよね?」
「元々ドーラには帝国と比べれば魔物が身近で、狩る文化が発達してるってことはあるね。中級冒険者以上のレベルの人も結構いるよ」
「でもユーラシアさんは元々素人だったって伺ってますけど」
「いや、それがね……」
西アルハーン平原掃討戦の話をする。
初めてデカダンスを倒した戦いだ。
思い出深い。
「……ってわけで、あとから思うと美味いお肉じゃなかったけど、身体をたくさん動かしてから皆で食べるとおいしいね」
「肉の話じゃなかったですよね?」
「そうだったかな? 肉は正義、肉は愛だよ」
うっかり公爵が聞いてくる。
「仲間にした時、ヴィルのレベルはいくつだったのだ?」
「五〇弱くらいだった」
「レベル三〇の人間にレベル五〇の悪魔が従うのか?」
「……あれ? 考えてみりゃおかしいな? ヴィル、どうしてなん?」
「御主人は初めて会った時、わっちを高位魔族と知っていながら、何の恐れも気負いもなかったんだぬ。そんな経験は初めてだったぬ。すごい人と思ったんだぬよ?」
ヴィルは初っ端からあたしを認めてくれていたのか。
何だか嬉しいな。
「『御主人』呼びは最初から?」
「最初からだぬ!」
「ヴィルちゃんはすごいですねえ」
「マジですごいな。先見の明があるわ」
人間の下についたりしたら、使い魔同然だ。
他の悪魔に見下されるのがわかってただろうに。
ヴィルにとっては人間と仲良くすることの方が大事だったのか。
ヴィルのことでも知らないことってあるんだなあ。
「御主人のおかげで、たくさんの人が可愛がってくれるんだぬ。わっちは幸せだぬ」
「嬉しいこと言ってくれるなあ」
「悪魔が皆ヴィルちゃんみたいな子だったら、付き合いやすいですけどねえ」
「そうだね。ただ悪魔は各自で個性が強いから面白いってこともあるんだよなー」
「悪魔が面白いと言ってるのも御主人だけなんだぬ」
ヴィルの言う通りかも。
ウソが嫌いとか決まりは守るとか、妙に真面目なところがあるんで悪魔は憎めない。
「付き合いやすい悪魔ならレダって子がいるよ。白いロングヘアのすげー美少女っていうか美幼女悪魔。見た目天使そっくりって言われてる」
「どんな性格なんです」
「ビックリするくらいまともな子。レダも悪感情を欲しがらないんで、普通の悪魔みたいに嫌がらせしてこないんだ。魔王に忠誠を尽くしてるから帝都で会う機会はないと思うけど、もし何かの偶然で会ったらよくしてやってよ」
「わかりました。本当の天使みたいな子ですね」
「天使は天使で性格悪いらしいぞ?」
「天使は意地悪だぬ!」
信仰心をエネルギーとして摂取するから、人間より上に立ってなきゃいけないんだろうが。
天使にも一度会ってみたいもんだ。
「うちのバアルなんか、天使は高慢で横柄で驕傲で無礼で不遜で権高であるって言ってたわ」
「列挙しますねえ。バアルさんはどういう方です?」
「戦争を唆したりする大胆で悪い子だぞ? あたしにも色々やってきたな。呪いかけたりブラックデモンズドラゴンけしかけてきたり」
「にも拘らず、うちの子扱いなんですよね?」
「バアルはある意味悪魔らしい悪魔なんだよね。プライドが高くて潔くてウソ吐かないの。信用できる子ではあるよ」
「御主人に逆らうと痛い目に遭うからだぬ!」
そーかも。
上下関係をよく理解している。
「バアルさんが籠の中にいるのは?」
「あれ、特殊な魔法の効果なんだ。人間にさほど悪いことしないって約束させたし、あたしとしてはもうバアル逃がしてやってもいいと思ってるんだけど、まだ許さんって人がいるかもしれないから様子見てるの」
悪魔談義をしている間に施政館にとうちゃーく。




