第1689話:本日のMVP
「サイナスさん、こんばんはー」
『ああ、こんばんは』
夕食後、毎晩恒例のヴィル通信だ。
「眠い」
『うん、知ってる。ユーラシアが食事と同じくらい睡眠を大事にしてることは』
「あれ? 否定できないな。でも今日は違うんだ。クララがビックリするくらい、今日朝早く起きちゃってさ」
『どれくらい早起きしたんだ?』
「三分くらい」
『三分でクララがビックリするってことに関して驚きなんだが』
「あたしは規則正しい生活を心がけてるから」
微妙な空気だ。
本当だぞ?
『今日は遺書の内容の公開だったんだろう?』
「公開だったねえ」
『何だそれ? 眠いんだろう? 時間稼ぎしないでくれ』
いや、時間稼ぎではないけれども。
「次期皇帝は選挙で決めることになったんだ」
『選挙?』
「皇帝になりたい皇位継承権持ちは立候補しろ。皇族貴族騎士市民の投票で決めるってやつ」
『ほう、面白いじゃないか。皇帝陛下の遺書の内容に準じているんだな?」
「うん。あたしはむしろ、何十万人も選挙権持ちがいるのに公正な選挙が行うことができると、陛下が信じてたってことがすげえと思ったね」
『君はたまに視点が鋭いなあ』
いつも鋭いんだよ。
『市民にも投票する権利があるのか。帝国は皇帝の権力が強いから、市民の意見を取り入れることは考えないと思っていたんだけどなあ』
皇帝はそーかもしれんけど、施政館は割と国民感情を気にしてる気がするがな?
でなきゃ主席執政官は新聞をチェックしたりしないと思う。
「選挙権があるのは帝都の市民だけね。投票を速やかに行うためじゃないかな。市民は一人一票で、騎士は一人で五〇票分、公爵は一〇〇〇票分って感じに重要度は違うけど」
『それでも市民の方が圧倒的に票が多いだろう?』
「騎士以上の票の何倍かにはなるね。でも投票率はどーだろ?」
騎士以上はほぼ全員投票するだろうけど、一般市民は興味ない人も多いのかも?
いや、帝都市民お祭好きだしな?
『君の見込みでは誰が勝つんだ?』
「誰が立候補するか知らんけど、主席執政官閣下とプリンスルキウスの勝負になるね。貴族票は主席執政官が持ってくだろうけど、市民票はプリンスが多分取るんじゃないかと思うんだ」
『ふむ、根拠は?』
「帝都の新聞が次期皇帝に相応しいと思うのは誰かっていう、購読者アンケートやったことがあるの。僅差だけどプリンスがトップだったんだ。その後にラグランド蜂起の処理で手腕を見せ付けたり結婚パレード大盛り上がりだったりしたから、差は開いてるはず」
『市民票を取れるならルキウス皇子の勝ちじゃないか』
ところが言うほど簡単じゃないのだ。
「新聞の購読者アンケートってのが誤解を生じさせるんだよなー。同じ帝都市民でも新聞読まない保守系の人達は、現政権を担ってる主席執政官閣下を支持すると思うんだ。てか今の生活に不満持ってない人は、あえてプリンスに票入れるかな?」
『ああ、なるほど』
「例えばリリーみたいな一般人気のある候補者が立候補したりすると、プリンスに流れるべき市民票が食われるから、やっぱり当選できない。まあリリーは立候補しないけど」
『ルキウス皇子の当選は難しいか』
「うーん、でも結婚パレードを見た市民は、プリンスの『威厳』の効果に当てられて票入れてくれると思いたいね。結論、次の皇帝は主席執政官閣下かプリンスルキウスだけど、どっちになるかはサッパリわかんない」
パラキアスさんも何かやってるみたいだしな。
どの程度の効果があるかはこれまたわからん。
『選挙はいつになるんだい?』
「まだ決まってないけど三〇日以内だよ。とゆーか三〇日以内に皇帝が選ばれない場合、リリーが次の皇帝だっていう条項が遺書に書いてあったの」
『えっ?』
「変わってるよねえ」
『……つまりタイムリミットを設けて急がせることによって、妄動の余地をなくしてしまう?』
「そゆことみたい。陛下は賢いねえ。メッチャやる人だと思ったわ」
陛下の望み通り選挙やるって言っといて、リリー皇帝は認められないなんてダブルスタンダードはあり得ない。
何が何でも選挙執行部は結果を出してくる。
だから残念ながらリリー皇帝のセンはないのだが。
『実際のところ、リリー皇女が皇帝になったらどうなんだ?』
「治まると思うよ。リリーは政治の勉強なんかしたことないだろうから、執政官置いてお任せになるだろうけど、国民に絶大な人気のある女帝を蔑ろになんかできないじゃん? リリーもバカじゃないんで締めるところは締めると思うし」
『で、君は皇帝選にどう干渉するつもりなんだ?』
「干渉なんかしないとゆーのに。あたしは遺書を持ってたことで、管理者ポジションみたいなことになっちゃったもん」
『君が動くと遺書そのものが胡散臭くなるということか?』
「遺書は写しを持ってる人がいて、本物だって証明してくれたからいいんだ」
『写し? どういう人だ?』
「陛下の弟、レプティス殿下。陛下の印璽とか管理してる宮内大臣だって」
『なるほど。宮内大臣で陛下の弟ならば、遺書の存在を知っていてもおかしくないな』
「レプティスさんが陛下の御深慮に賛同するの、皇帝選への立候補を表明するのって大活躍だったんだ。信頼性の面でありがたかったわ」
遺書が軽視されると、帝都におけるあたしの存在感も軽くなっちゃう可能性もあったのだ。
「陛下の遺書の内容に拘らず、政権や皇族がガン無視ってこともなくはなかったじゃん? レプティスさんのおかげでひっじょーに面白くなった。本日のMVPを進呈する」
『現在立候補を表明しているのは誰だ?』
「レプティスさん以外は主席執政官閣下とプリンスルキウスだね」
リリーとウルピウス殿下が立候補しないなら、ある程度票を取りそうな皇族は限られる。
多分皇位継承権二位実質一位のフロリアヌス殿下だけだ。
残りは泡沫候補と言っていい。
「明日も帝都行くから、もうちょっと話聞いてくるね」
『ああ、楽しみにしているよ』
「あれ、困ったな。眠気がどっか行ってしまった」
『問題ない。布団に入ってウシの糞の数を数えなさい』
笑い。
久しぶりのネタだなあ。
「サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、御苦労だったね。おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『了解だぬ!』
明日も帝都。




