第1687話:進化が止まることを知らない
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「いらっしゃいませ」
紙屋ヘリオスさんの店にとうちゃーく。
天気がわかる『日和』の固有能力持ちバーナード君が挨拶してくれる。
「今新聞にお天気コーナーもあるんでしょ? 評判どうなの?」
「取り立てて反響があるというものではないですけど、他の固定コンテンツ増強と合わせて確実に定期購読者が増えていますよ。ありがたいことです」
「オレも以前に比べて大分マシになったと思うぜ。『ドーラ日報』『レイノスタイムズ』両紙ともな」
「「ありがとうございます!」」
「イシュトバーンさんのお勧め記事は?」
「『ドーラ行政府だより』は必ず読んでる」
イシュトバーンさんは行政府の動向に興味あるだろうな。
猫がどうのゴミがどうのって記事より読み応えあるだろ。
同様に新聞が面白くなったって人が増えてくれるといいな。
何か広めたいものを宣伝する時、新聞の影響力が強いと仕掛けが利きやすいし。
「さらなる部数増加のために、ユーラシアさんとイシュトバーンさんには御協力いただきたいんですよ」
「ええ? 欲張りだなー。まーでも活字媒体を応援したいって気持ちは人一倍あるつもり」
「悪魔一倍あるんだぬよ?」
何それ、メッチャおもろいわ。
ヴィルが意表まで突いてくるようになったぞ?
進化が止まることを知らないな。
「今一日で何部売れてるんだ?」
「両紙合わせて三〇〇〇部くらいですかね」
「あれ? 思ったより売れてるぞ? 割と驚きの部数だな」
「三〇〇〇かよ。じゃあそれ以上売るのはムリだぜ」
「うーん、あたしも厳しいと思う」
「「どうしてですか!」」
イシュトバーンさんが言う。
「考えてみろよ。レイノスの識字人口が約二万人のところ、三〇〇〇部も売れてるんだろ? 御の字だぜ。あと誰が買うんだよ」
「うん。これ以上売ろうと思ったら、母数増やさなきゃ。人口か識字率かどっちか上がんないとどーにもなんない」
「で、でもユーラシアさんやイシュトバーンさんのアイデアなら……」
「今読んでねえやつに読ませろってことか? まったく今までと違う企画を起こさなきゃいけねえってことだぜ?」
「おゼゼがかかる割に大した伸びは期待できないと思う」
「今定期購読してるやつの満足度は上がるだろうけどな」
「経営厳しくなるからやめときなよ」
いや、そんなにガッカリしなくてもいいって。
レイノスの人口も今後徐々に増えてくはずだからね。
新聞の部数も自然に増えていくって。
「誰かと思えば翁とユーラシアさんですか」
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
奥からヘリオスさんが出てきた。
忙しそうだけど。
「フィフィの本が完成したって聞いたから、買いに来たんだよ。一〇冊ちょうだい。ガンガン宣伝してくる」
「ハハハ、毎度。小売価格一冊一二〇ゴールドです。五冊は差し上げますので、代金は五冊分で構いませんよ」
薄利だろうに悪いなあ。
ヘリオスさんにも儲けてほしい。
「帝国で宮廷ラブラブ物語みたいなの書ける子見つけたんだ。輸送コストを考えに入れても、帝国よりドーラで製本する方がうんと安くなるから、いずれお願いすると思う」
「ありがとうございます」
「おい、ヘリオス。スイーツレシピ本の原稿ができたんだ。こっちも頼むぜ」
「わかりました」
ヘリオスさん嬉しそう。
商売がどうこうよりも、世の中に本が多くなることが嬉しいのかもしれない。
ヘリオスさんが業態を拡大したくなるくらい、本の溢れる世の中を目指そう。
「さて、あたしは帰ろうかな」
「塔の村行くんだろ? オレも連れてけ」
「オーケー。皆さんまたねー」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動して帰宅する。
◇
「おーいリリー、フィフィ!」
イシュトバーンさんを連れて塔の村へやってきたら、リリーとフィフィがいた。
従者がいないで二人だけって珍しいな。
リリーはこの時間まだダンジョンに潜ってると思ってたんだけど?
「久しぶりだな。皇女殿下顔色が悪いんじゃねえか?」
「うむ、昨日は眠れなくてだな……」
陛下が亡くなったからか。
それで今日は休養日なんだろう。
あ、二人で気晴らしでもどうぞってことで黒服も執事もいないんだな?
「フィフィの本が完成しました! じゃーん!」
「わあ、ありがとう存じます!」
「もっと悪役令嬢らしい喜び方はないのかよ」
「悪役令嬢ではないのですわっ!」
「素晴らしい表紙絵ではないか」
「でしょ?」
イシュトバーンさん鼻高々。
表紙買いする人もいると思う。
「宣伝しまくってベストセラーにする予定なんだ。『輝かしき勇者の冒険』一強の牙城を崩すのだ!」
「む? ジャンルが違うのではないか?」
「子供でも読めるお値段安めの本っていう括りだと、まともにバッティングすると思うんだよね。『輝かしき勇者の冒険』なんて本が跋扈してると、ドラゴンたくさんいるドーラのイメージが悪くなっちゃうから、この世から抹殺したい」
リリーもフィフィも首捻ってるがな。
何故だ?
「……我はむしろ『輝かしき勇者の冒険』を読んで冒険者を志したのだが」
「読書の入り口としていいと思いますのよ?」
「あれ? 二人とも肯定派か」
とゆーか冷静になってみると、否定派に会ったことないな。
レノアやルーネもあれ読んで冒険者やりたくなったみたいだし。
打倒『輝かしき勇者の冒険』は、考え方を改めた方がいいのかしらん?
「……じゃあ『輝かしき勇者の冒険』の注釈本を出そうかな」
「「「注釈本?」」」
「こーゆーとこリアルじゃないとか現実はこうだとかの。あたし監修で」
「「「読みたい」」」
「いや、帝国が主戦場になるから、リリーが書いた方が売れそーだわ。ドラゴン倒したら書いてよ」
「うむ、任せよ!」
リリーも元気が出たようだ。
よかったよかった。
「次の皇帝は選挙で決めることになったんだ。帝都の市民と貴族皇族が投票できて、市民は一人一票、公爵は一人で一〇〇〇票って感じ。亡き陛下の御要望で決まった。皇位継承権保持者は立候補できるんだけど、リリーはどうする?」
「まっぴらだ。我はしばらくドーラに引っ込んでおる」
「だよね。わかってたけど。そう伝えておくね」
「うむ」
イシュトバーンさんと目を見合わせる。
皇帝選が破綻した場合リリーが皇帝だってことは伏せとくか。
誰かが新聞の情報を伝えちゃうかもしれないが。




