第1685話:皇帝選の実施が決定
レプティスさんに、陛下の遺書の読み上げが続く。
『選挙で最も票を集めた者が当選となる。我こそは次代の帝たらんとする皇位継承権保持者は、この遺書の公表された当日から三日後までに立候補を表明せよ』
なるほど、わかりやすい。
帝都市民が皇帝選に参加できるという意味が浸透するに連れ、唸りにも似たどよめきが広場を覆っていく。
『静まれ! まだ最後の条項が残っている』
静けさを取り戻す。
最後の条項ったって、もう大したことないと思うが。
『この遺書の公表された当日から三〇日後までに選挙による選出がなされない場合、新皇帝は予の末子、第七皇女リリアルカシアロクサーヌとする』
「えっ?」
最後に爆弾キター!
何それ?
事実上の期限を設けることで皇帝選自体の是非を問うことを封殺し、なし崩しに選挙に突入してしまえということか。
陛下やるっ!
『予レプティスは陛下の御深慮に賛同し、皇帝選への立候補を表明する!』
「「「「「「「「うおおおおおお!」」」」」」」」
完璧だ。
遺書の内容を知っていたレプティスさんは、これ狙ってたんだな。
陛下の意思を尊重するために。
自分が当選するとは思ってないんだろうけど、現役閣僚の皇族が乗り気なことで正当性が高まる。
あれ、あの大柄の人は……。
「アーベントロート公爵家フリードリヒです。僕も陛下の遺書の内容を支持する!」
「男爵ゴットリープである! 我もまた陛下の御意思を承認することが臣の道と信ずる!」
おーおー、貴族でも結構遺書に注目してた人いるんだな。
どんどん賛同してくれるやないけ。
こうなればあとは任せろ。
あたしの出番だ。
じゅうろくさいびしょうじょのただしきことばよ。
ひとびとをふるいたたせ、やくそくのちへつれてゆけ!
『誠実なる帝都市民諸君! 君達は陛下のお考えの正義を信じるかっ!』
「「「「「「「「うおおおおおお!」」」」」」」」
『ともに皇帝選を導く覚悟はあるかっ!』
「「「「「「「「うおおおおおお!」」」」」」」」
『ならばあたしに続け! 施政館に行くぞお!』
「「「「「「「「うおおおおおお!」」」」」」」」
アハハ、楽しくなってきたぞ。
群衆を引き連れ施政館へ。
「レプティスさん、ありがとう。すげえ面白いことになった」
「兄陛下の心情を察しただけだ。礼を言われるようなことはしておらん。ドミティウスが認めるかどうかはまだわからんのだぞ?」
「うむ、ドミティウス殿がどう出るかが不明だ。陛下の志を支持した貴族はいても、結局皇帝を決めるのは皇族だというのが原則であるから」
「いやー、もう選挙やることは決まったようなもんだよ。施政館に知らせは届いているだろうからね」
「そうかね?」
レプティスさんとうっかり元公爵は疑問みたいだけど。
「ここで渋るようなら、民意に反するとか陛下の遺書に逆らうのかとか逃げるやつは皇帝に相応しくないとか煽ってやりゃいいんだし」
あたしの得意分野だ。
ま、しかし断るなんて展開にはならないけどな。
主席執政官閣下もできるやつなので、こういう流れになっちゃった以上、皇帝選に反対して男を下げるようなことはしない。
大体民意が選挙に向かってるのに反対したら、求心力を失うわ。
「ふうむ、これがドーラの冒険者ユーラシアか。グレゴール殿リモネス殿が遺書を預けた理由もわかる。戦場の勇士というだけではないんだな」
「戦場の勇士言われても。あたしは戦争嫌いだとゆーのに」
「ユーラシア君は武勲を誇らぬのだな。飛空艇を墜落させ、寡兵で六度も歩兵隊を撃退したと聞いたぞ?」
「六度だったかな……あ、罠に引っかかって帰っちゃったやつと口先で追い返したやつも入ってるのか。まーでも戦争はやんない方がいいよ。ムダ極まりない」
「うむ、まさに」
レプティスさんも道理の分かる人だ。
さっきの皇帝選出馬宣言を見ても、判断が適切で自分の意思を通す気概が感じられる。
本当に帝国は有能な人が多いと感じるわ。
「レプティスさんみたいな人もいるんだなあ。帝国は人材が豊富で羨ましい」
「ハハッ、今を時めくユーラシア君に褒めていただけるとは光栄だな」
「誰が皇帝になっても支えてあげてよ」
「……気付いていたか」
「まあね」
レプティスさんは能力があっても地味だ。
年齢から未来に期待されることもないだろう。
つまり選挙になった時、票が取れる人だとはとても思えん。
自分に皇帝の目がないことを理解できない人でもない。
皇帝選の敗戦を理由に政界を引退するつもりだったに違いない。
「皇帝家の重鎮が政権にいるといないとでは、安定度が段違いだよ」
「……うむ。予ももう一働きすべきか」
新皇帝が立つのだ。
離陸はどうしても不安定になりがちだからね。
「実に鋭い。ユーラシア君は、非常勤の施政館参与兼臨時連絡員になるという話だったか?」
「そうそう。でも政権が変わっちゃうからどーかな?」
「いや、新皇帝がドミティウスでもルキウスでも、すでに発表されている閣僚人事を弄るとは思えん」
「じゃあ施政館でタダ飯食べられる高貴な身分になっちゃう」
アハハと笑い合う。
「もったいないな。本格的に政治家をやってみる気はないのか?」
「ないなあ。あたしは好き勝手やってるのが性に合ってるの」
頷くレプティスさん。
さて、施政館に着いたぞ。
あれ、主席執政官閣下とプリンスルキウスが玄関におるやん。
拡声器?
『主席執政官ドミティウスだ。報告は届いている。施政館の方針としては、完全に陛下の意向に沿うものとする。さらにレプティス叔父上が賛成ならば、皇室会議に諮るまでもない。皇帝選を行う!』
「「「「「「「「うおおおおおお!」」」」」」」」
『そして予ドミティウスとルキウスも立候補する!』
「「「「「「「「うおおおおおお!」」」」」」」」
あっ、ナチュラルにプリンスルキウスが出馬宣言する出番消した。
閣下はやるなあ。
『直ちに皇帝選のあり方と実施について議論を詰め、アウトラインが決まったところで発表する。以上だ』
「「「「「「「「うおおおおおお!」」」」」」」」
熱狂が徐々に収まり、人々が散っていく。
さて、あたしも帰ろうかな。
「ユーラシア君」
「閣下。えらいことになったねえ」
「他人事みたいに。昼食を食べていかないかい?」
「食べる食べる! 閣下ありがとう!」




