第1683話:静観?
――――――――――二六五日目。
「ユー様、朝ですよって、えっ?」
「不思議がるクララも可愛いな」
「えへへー」
翌朝の何でもない一時だ。
「ちょっとぎゅーさせなさい。最近クララ成分が足りない気がする」
「何ですか、それ?」
人生を走り抜けるための活力の一種だよ。
クララをぎゅー。
はあ、堪能しました。
「で、どうしたんです? ユー様がもう目を覚ましているなんて」
「いや、今起きたところなんだけどさ。昨日ヴィルに朝早く起こされたから睡眠のリズム狂ったのか。それとも昨日の夕食ローストダイカーが印象的だったからか、どっちだろ?」
「ヴィルに早く起こされたって、三分じゃないですか」
「じゃ、ローストダイカーの方かな? 調理法がかなり難しいよねえ」
頷くクララ。
「あれだけ大きな肉を中まで加熱するには、長時間のローストが必要です。かといって火加減を間違えると炭になってしまいますよね」
「うん。塔の村の食堂の料理人もなかなかやると思った」
「名人芸ですね。専用のオーブンがなければ困難でしょう」
「その火加減の調節こそ、魔道コンロの出番かと思ってさ」
「あっ?」
今のままじゃどこでも食べられる料理にはならないだろう。
名人の技なしで大量にロースト肉を製造できる装置ができたら名物になるかもな。
レイノスみたいに人口の多いところで専門店があったら、メッチャ売れそう。
「うーん、でも調味料がちょっと物足りなかったな」
「焼き肉のタレでどうかと思いました」
「いいねえ。醤油ベースにして……」
あれこれ考えていると楽しいな。
特にうまーい料理のことは。
「そろそろ朝御飯だよね。凄草摘んでくるよ」
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「やあ、精霊使い君いらっしゃい」
皇宮にやって来た。
今日は遺書の内容の公開の日だ。
一大イベントだなあ。
しかしマジでこのサボリ土魔法使い近衛兵はいつ来てもいるな?
「サボリ君は仕事熱心だよねえ」
「ようやく俺の勤勉さを理解したかい? 『サボリ』と『仕事熱心』が矛盾してることに、いい加減気付いてもいい頃だと思うが」
「んー? でも何が仕事なのかよくわからんのだよなー」
アハハと笑い合う。
いや、騎士が三勤一休なのに比べて、近衛兵の休み少なくない?
サボリ君が言う。
「基本的に近衛兵はいつでも休みを取れるんだ」
「そーなの? いい職場だね」
「ああ。緊急時以外休みは事前に申請すること。その日勤務する人員が最低一五名以上いなければいけない、というルールはあるけどね。もちろん行事などで駆り出されることがあるのは騎士と同じだ」
「ははーん、つまり近衛兵は日雇いみたいなもんで、出勤日数が多いほどお給料が多くなるんだね?」
「正解。仕事がきついわけではないから、喜んで休むやつはいないな。特に最近は君が肉を土産に持ってくるだろう? 食べ損ねると大損になってしまう」
「あたしが近衛兵の勤労精神を鼓舞しているとは知らなかった。勤労の女神を崇めろ」
「崇めるぬよ?」
アハハと笑い合う。
「話は聞いてる。君が亡くなられた陛下の遺書を持っていて、今日内容を帝都市民の集まる中で公表するんだって?」
「うっかり公爵とリモネスさんが陛下から託されたものなんだ。内容と手にした人の事情によっては、破棄されたり握り潰されたりしそうじゃん? それでどういうわけかあたしんとこへ回ってきちゃった」
「ドーラ人の君の元へか。数奇な巡り合わせだなあ」
マジでサボリ君の言う通り。
数奇というか不可思議というかヒロイン補正というか。
まったく未来ってどう転がるかわからねえ。
「次期皇帝について陛下の考えが記されている?」
「というもっぱらの噂だよ。リモネスのおっちゃんが言ってたから、間違いないんだろうね」
「大変な役割を受け持ってるじゃないか」
「まあね。でも遺書自体の保全を考えりゃ、あたしが持ってるのが一番安全だろっていうのは、わからなくもないな。あたしも自分の信頼性を評価されたり影響力が増したりするのは嬉しいから、都合がいいんだ」
「大物だなあ」
「よく言われる」
おっぱいも大物だといいのに。
近衛兵詰め所にとうちゃーく。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「「「「ユーラシアさん!」」」」
飛びついてくるルーネとヴィル、それを羨ましそうに眺めるウルピウス殿下。
あとうっかり元公爵とリモネスさんと近衛兵長さん、新聞記者トリオか。
てんこ盛りで詰め所からこぼれ落ちそうです。
来客を待たせることもあるんだから、近衛兵詰め所はもっと大きくてもいいと思うわ。
ウ殿下が言う。
「ユーラシア、父上の遺書などを預かっていたのか。言ってくれればよかったのに」
「あたしにも言えないことがあるんだってば。あーんど女は少々秘密があった方がミステリアスとゆーこともある」
「ミステリアスだぬ!」
アハハと笑い合う。
「帝都はどんな感じかな? 騒動なんか起きてない?」
「街は大変な盛り上がりだ。既に多くの市民が中央広場だけでなくメインストリートに押し寄せているという報告が入っておりますぞ」
「しかし施政館と皇室は静観のようだ」
「静観?」
「『遺書』と呼ばれているものの内容がどうであれ、施政館と皇室の方針は左右されないというスタンスだな」
「ふーん。まあしょうがないな」
うっかりさんとリモネスさんが残念そうだけど、信頼性がなー。
遺書が本物と認められたとしても、支持してくれる皇族なり有力者なりがいないとまるで効力を持たないだろう。
必ずしも遺書に書いてある通りになるってわけでもないようだし。
全て何が書いてあるか、内容いかんだ。
「とにかくやるだけやろうか。お祭り好きの帝国市民の皆さんが楽しみにしてるから」
「ユーラシアは遺書が軽視されてもいいのか? 本物なら父上の考えなのだが。予は支持したい」
「ウ殿下の考えはわかったけど、新皇帝決めるのはあたしじゃないんだもん。帝国の皆さんがしっかりしてくれないと」
「理解はできるのだが……」
ウ殿下は陛下の意思を重んじて遺書に賛成したいという立場みたいだな。
同じ考えの有力者も多いとは思うけど。
いや、遺書の内容によるか。
とにかく発表が先だわ。
あたしも内容を知りたいわ。
「じゃ、出発しまーす!」
帝都中央広場へ。




