第1682話:陛下が演出担当か
「サイナスさん、こんばんはー」
『ああ、こんばんは』
塔の村から帰って来た後、毎晩恒例のヴィル通信だ。
『どうだった?』
「うん、塔の村の新メニュー、ローストダイカーはなかなかおいしかった。ワイルドさを残しつつサッパリと食べられる。一〇点満点で九点あげてもいいね」
『おいこら』
「一点の減点は味付けだな。塩では単純過ぎるわ。これは今後の改良の余地として期待したいところだね。料理人の一層の精進を望む」
『おいこら』
「お酒のつまみとしてもかなりいいと思うんだ。デス爺もお酒ばかりだと身体を壊すから、勧めてみようかな」
『どこまでも進んでしまうなあ。デスさんは食のバランスは考えてるだろ。いや、そうじゃなくて!』
どうだったろ?
『皇帝陛下の死の影響の方だよ!』
「そっちか」
『どう考えても今日のメインのイベントだろ!』
イベント言っちゃってるぞ?
死ぬか亡くなるかの問題なのに、サイナスさんも不謹慎だなあ。
「ドーラにはあんまり関係ないことだぞ? もーサイナスさんったら、他所ん家の事情に首突っ込みたがるんだから」
『何にでも乱入したがるのは、君のごまんとある長所の一つだろ!』
長所だったか。
あたしは他所ん家の事情に首突っ込みたいわけではなくて、他所ん家の事情が目の前に転げ落ちてくるだけのような気がするんだが。
ヒロインの宿命として楽しませてもらってるけれども。
「今日はあちこちへ情報を回してたんだ」
『当然か。転移で飛べるのが君しかいないものな』
「プリンスルキウスとパウリーネさんの新婚旅行を兼ねて」
『えっ? ああ、ルキウス皇子がいれば話を通しやすいということか。で、君好みのラブい要素が足りないから、嫁さんも連れていこうという魂胆だな?』
「大体合ってる」
ここのところサイナスさんの感覚が鋭いなあ。
『具体的にはどこへ行ったんだい?』
「ガリア、タルガ、ゼムリヤ、ラグランド、ドーラ行政府。最後に塔の村のリリーに報告だよ」
『皇帝崩御はもう公表されているんだな?』
「うん。変に隠すとかじゃなくてよかった」
『信頼性を失うからだろうな。しかしガリア?』
意外ですか?
『帝国としては、隠しておくことはできないまでも、時間稼ぎしたい案件じゃないのかい?』
「そーゆー考え方もあるね。でもテテュス内海で、帝国とガリアは共闘する立場じゃん? 仮想敵が天使国アンヘルモーセンで」
『ははあ、アンヘルモーセン諜報機関の情報収集力が高いと、後手を踏むかもしれないから』
「互いの信用を高めるってこともあるねえ」
帝国は寝込んでいた陛下が亡くなったからといって、特に実務に支障をきたすわけじゃないのだ。
次期皇帝が決まってないから混乱するかもってだけ。
他国からすると本当に揉めるかもわからないだろうしな。
情報をオープンにしたった方が、余裕見せられるわ。
「商売の関係でガリアと直接の関係のある、タルガ植民地とゼムリヤ辺境侯爵領にも連絡を入れて」
『ガリアに伝えるなら当然だろうね』
「せっかく落ち着いたラグランドがまた蜂起するなんてことになると大変だから、そっちにも報告して」
『ラグランドは難しいんじゃないか? どう説得した?』
「ごく真っ当に。意訳するとこの前の対帝国交渉はでき過ぎだ。今はバタバタしないことで帝国に恩を着せとけ。そうすりゃいずれ独立の目があるけど、帝国に不信感持たれると滅びるぞって」
『極端な二択を迫るのが相変わらずえぐい』
事実だとゆーのに。
ラグランドが可哀そうな目に遭うのは、あたしの聖女趣味に合わないのだ。
「他の海外情勢はわかんない。あたし関わってないから」
『面倒な関係ばかりじゃないんだろう?』
「と、思うけど」
何だかんだで帝国はデカい国なので、内部から切り崩されない限りは問題ないんじゃないの?
『面倒な案件は全部君のところに来てるのかい?』
「何かそんな気がしないでもないな。美少女主人公補正にも困ったもんだ。困りゃしないけど」
『本音が漏れてるぞ』
「正直なのも困ったもんだ」
困りゃしないけど。
『遺書はどうなった』
「陛下の死が公表されたあと、すぐに号外が出たんだ。亡き陛下の遺書が存在してあたしが持ってるっていう記事が載った」
『予定通りだな』
「うん。新聞記者が施政館に呼び出されて涙目になってんの。ウケる」
『えっ……』
「予定通り」
言い切ったった。
「エンタメの一要素ではあったね」
『大事になってるんじゃないか? 帝都の状況は?』
「蜂の巣をつついたような大騒ぎだったよ」
『施政館の思惑と違ったんじゃないか? 遺書があることは知ってたとしても、さほど重要じゃないように偽装してたんだろう?』
「偽装ってのは言い方が悪いな。あたしは何一つウソ吐いてない」
『君の撹乱話法は、慣れてない人に大きな衝撃を与えるからな?』
「聞き手がどう思おうと知ったこっちゃないねえ。読解力ない方が悪い」
『唯我独尊がとにかくえぐい』
ここまではあたしの計算通りなのだ。
「聖女ユーラシアとしては、陛下の意思を公にしてやりたいという崇高な思いがあるんだよね。明日の午前中に人一杯集めて遺書開封して、内容を公表するんだ」
『殊勝な言い方には誤魔化されないぞ。完全に君好みのイベント仕立てじゃないか』
「だってエンターテイナーユーラシアの思惑が絡むから」
『人生楽しそうだなあ』
満喫しているとゆーのに。
「ただ、あたしの思い通りになるのはここまでじゃん? 以降は遺書の内容次第になるから。あれ、陛下が演出担当か。羨ましいなあ」
『逝去された方を羨ましがるとは。これ以上はあまり関わるなよ?』
「何で? つってももう、あたしの関わる余地なんかないんじゃないかな」
残念ながらあたしは陛下と面識がなかったしな。
ケンカしないように次期皇帝を決めてねってだけだ。
『君が関係するとエンターテインメントに流されるだろ。平穏に経過しないとどこに影響が出るかわからない案件だからな? たまには大人しくしてなさい』
「りょーかーい。明日の報告を楽しみにしててよ」
あたしだって混乱させたいわけではないからね。
「サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、御苦労だったね。おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
明日も帝都。
遺書の公開だ。




