第1676話:うっかり元公爵覚醒?
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「これは精霊使い殿、ルキウス殿」
プリンスルキウスとパウリーネさんを連れ、ラグランドの中央府にやって来た。
「どうされました?」
「ちょっと重要な話があるんだ。オードリーとセグさんにはあとで話すから、それ以外のラグランド首脳陣を総督府に集めてくれる?」
「はっ!」
◇
「今朝、予の父上が亡くなった」
ホルガー総督と衛兵長、その他文官が三人と魔道士が一人、ラグランド側からはジャブラニ衛士長、魔法連の頭ヒャクダラ、内政担当リリウオの三人。
プリンスの言葉の意味を理解できない者はこの総督執務室内にいない。
ピリピリする空気にパウリーネさんとヴィルが居心地悪そう。
今更ながらに思うが、新婚旅行向きではなかったか?
でもまあお披露目も兼ねてるから。
ヴィルはぎゅっとしてやろうね。
プリンスの言葉も十分浸透した頃だ。
ただ理解度には深い浅いがあり、各自の思惑も異なるだろう。
意思は統一させておくべきだ。
ならば……。
「任せたから頑張れ」
「それだけかよ!」
ヒャクダラのツッコミは間がいいなあ。
こいつをターゲットにしたろ。
「いや、だって方針は決まってるじゃん?」
「決まっちゃいねえだろ。いくつかは考えられるんじゃねえか?」
「おいこら、ちょっと待て! 今以上の譲歩を帝国から引き出せると思ってるなら、どえらい勘違いだぞ?」
「で、でもよ。帝国は多少なりとも混乱するだろ? 交渉の余地はあるんじゃねえのか?」
「ないわ! 信義に反するようなことしたら、即輸出止めるわ! ラグランドなんか干乾しになっちゃうわ!」
頷く帝国側の面々。
ヒャクダラの言い出したことは、要するにラグランドの待遇をもう少しよくしろってことだ。
予想通りなので実にやりやすい。
「この前の停戦交渉の内容が適切だったかそうでないかの評価は、まだ帝国でも出てないんだぞ?」
「……だから?」
「適切な措置だったと思わせないといけないんだよ。ラグランドに甘くしたからつけ上がるなんて思われると次がないぞ? あんたはラグランドを独立させたいんでしょ?」
「ど、独立の可能性があるのか?」
おお、独立のワードは効くね。
ヒャクダラの八重歯がよりチャーミングに見えるわ。
「完全独立はまだムリだけど、帝国保護下のラグランド王国成立はさほど難しくないと思うがな?」
「そ、そうなのか?」
「そーだとゆーのに。リキニウス王&オードリー女王統治下でラグランドが従順になりましただったら、帝国だって得で楽だもん。プリンスどう思う?」
「予はまだ次席執政官の職責にない。であるから帝国政府の見解ではなく、あくまで個人の意見として聞いてもらいたい。帝国保護国としてのラグランド王国の復活は、十分可能性のあることだ」
ハハッ、次期皇帝候補プリンスの言葉には力があるだろ。
ヒャクダラだけじゃなくて、ジャブラニさんもリリウオもソワソワしてるじゃん。
「とゆーことで、この件でラグランドの対応は重要」
「どうしたらいいんだよ!」
「帝国に恩を着せればいいじゃん」
「恩?」
「帝国にウィークポイントが出現してる今、ラグランドの首脳陣が住民の慰撫に奔走してくれたんですよーとなれば、ウケがいいでしょ?」
「ええ? もっともな話かもしれねえが……俺達の働きが帝国に伝わるとは限らねえ」
「ホルガーさんに報告してもらえばいい。ホルガーさん、それくらいサービスしてやってもいいよねえ?」
「もちろんですぞ」
「……これがミラクルフィフティーンユーラシア……」
リリウオが何か呟いてるけど、あたしは一六歳だとゆーのに。
ラグランド首脳ももうちょっと頭柔らかくして、総督府に食い込んだ方がいいよ。
「ユーラシア君の言う通りだ。特に変わったことをしろというわけでなく、何もしないことでラグランドの評価は高まる」
「プリンスが言うと説得力があるなあ。ラグランドの方針は以上でよろしく」
全員が首を縦に振る。
よし、これでオーケー。
「じゃ、あたし達はうっかり元公爵とオードリーの様子見てくるわ」
◇
「ユーラシア!」
「御主人!」
「何だ何だ、あんた達は可愛いんだからもー」
オードリーとヴィルが飛びついてきた。
「ルキウス殿もしばらくだったのじゃ!」
「ハハハ、オードリー王女もお元気そうで」
「いい報告と悪い報告がありまーす! いい報告から。プリンスルキウスとアーベントロート公爵家の御息女パウリーネさんが結婚しました! 拍手!」
「「「「パチパチパチパチ!」」」」
「ルキウス殿、おめでとう」
「ありがとうございます」
「パウリーネさん、初志を貫いたのねえ」
「はい、私、嬉しくて……」
あれ? アルヴィリアさんったら、パウリーネさんがプリンスを好きだったこと知ってるじゃん。
割と有名な話だったのかな?
リキニウスちゃんが聞いてくる。
「悪い報告とは何ですか?」
プリンスが言う。
「我が父、コンスタンティヌス陛下が今朝亡くなられた」
「「「!」」」
重い空気になるが、うっかり元公爵が大した動揺も見せずに言う。
「葬儀の日取りは決まっておらんのだろう?」
「はい、まだ何も」
「ユーラシア君、わしを帝都に連れていってくれんか?」
「うん、こっちから頼もうと思ってたんだよ」
遺書の内容の公表の際には、陛下から受け取った本人であるうっかりさんとリモネスさんが必要だ。
理解してくれてたんだな。
とゆーか今日のうっかりさんは別人みたいに理性的でシャキッとしているんだが?
きっと陛下の死に臨んだらこうしようって考えてたんだろうな。
「葬儀には皆で参加することになるが、今日は必要ない。しかしわしは帝都へ赴かねばならぬ。リキニウスちゃん、留守を頼んだぞ」
「はい、お爺様」
「旦那様、私達は……」
「よい、リキニウスちゃんを補佐せよ」
「「はっ!」」
お付きの人の随行も断った。
覚醒したみたいで頼もしいな。
プリンスもメッチャ意外そうな顔してるわ。
でもうっかり元公爵は今までのことがあるから、不安が拭えないんだが?
「では施政館に案内してもらおうではないか」
「りょーかーいでーす」
いや、陛下の遺書の説明にはリモネスさんも必要なんだった。
施政館に直接飛ぶより、皇宮でリモネスさんと合流した方がいいな。
転移の玉を起動して、一旦ホームへ。




