第1670話:『アトラスの冒険者』リサイクル企画『福助』編まとめ
「サイナスさん、こんばんはー」
『ああ、こんばんは』
『福助』持ちピジョーさんを送ってから、毎晩恒例のヴィル通信だ。
御飯を食べたあとの時間帯は、一日の内で最もまったりしている。
『今日レイノスに行ったんだろう?』
「うん。それは苦難と感動の物語」
『君が苦難に遭うわけないだろう。悪役令嬢の本はどうなっているんだ?』
「明日には完成本が出始めるってことだったんだ。今日ヘリオスさんとこ行ったわけじゃないけど、イシュトバーンさんに教えてもらった」
『ほう、楽しみだね』
「明後日にでもヘリオスさんとこ行ってサンプル本もらって、あちこち配らないとな」
『ユーラシアは商売が好きだなあ』
実際にあたしが儲かるわけじゃないけれども。
商売そのものというより、企画や仕掛けの方が好みなのだ。
あたしの望む世界を実現させるために、皆が働いてくれる状況を作るのが好き。
『レイノスへ行ったのは、本の確認がメインテーマじゃなかったということか?』
「違う違う。前からやんなきゃなとは思ってたけど、時間かかるし急ぎじゃないから後回しにしてた宿題があったんだ」
『宿題とは何だい?』
「脱落した『アトラスの冒険者』を聖女の御手で救済しましょう企画があったじゃん?」
『企画名は初めて知ったけれども』
「名前が気に入らなかった? 拘らなくてもいいんだ。ウルトラチャーミングビューティーのワクワク一本釣り大物は誰だ企画、でも許す」
『そういうのいいから!』
さりげなく掘り下げたいところなんだが。
サイナスさんのいけず。
まー今日はのほほん男ピジョーさんのおかげで、割とエンタメも充実してたから勘弁してやってもいい。
「簡単に言うと、脱落した『アトラスの冒険者』をリサイクルして、ドーラの発展に役立てようってやつね。将来のためには重要な企画だと思うんだ。あたしのエンタメを追求する姿勢で軽く見られると困るから、改めて言っとくけれども」
『エンタメを追求する姿勢の方を改めりゃいいと思うんだが』
あたしの行動原理を改めろ言われても。
『脱落した『アトラスの冒険者』を役立てようという試みについてはよく覚えてる。天気がわかる『日和』と地形を見通せる『マップ』の固有能力持ちをレベル上げしたという話だったな」
「その企画が始まった時、ピックアップしたのが四人いたんだ。『日和』と『マップ』に加えて『外交官』と『福助』持ちの人。『外交官』は亜人等異種族にある程度の親和性がある、『福助』は自分含めた周りの運を上げるっていうの」
感心するサイナスさん。
『ユーラシアの意図がよくわかるセレクトだな』
「でしょ? 『外交官』持ちは塔の村で冒険者やってるやつなんだ。もっと言うとパラキアスさんの手先で、塔の村監視するために送り込まれてるの」
『ああ、前も聞いたな』
「言ったっけ? ピンクのモジャ髪のチャラい男だよ。『外交官』持ちだと知ったのはずっと後だけど」
『確か塔の村の精霊使いエルを巡る、アレクの恋のライバル?』
「そーだ、ラブイベント絡みでチラッと話したんだった」
人間ラブい話は覚えてるもんだ。
『デスさんは知ってるのか?』
「パラキアスさんの手先であることを? アレクの恋敵であることを?」
『両方』
「パラキアスさんの手先ってことはもちろん知ってる。『外交官』持ちは目端の利くやつだから、じっちゃんも便利に使ってるっぽい。アレクの恋敵であることはどうだろうな? ちょっとわからないけれども」
この辺人間関係が面白いところではある。
「エルが冷静だからもう一つ盛り上がりに欠けるというか。対決姿勢を煽りたいところだけど、あたしも塔の村の事情にはあんまり関わってないからなー」
『オレもアレクの恋話には興味あるから、積極的にかき回して欲しいなあ』
「あれ? サイナスさんが少年趣味とは知らなかったな」
『違うよ! 根も葉もないデタラメはやめろ!」
アハハ、冗談だとゆーのに。
『今日のメインディッシュは?』
「メインディッシュと来たか。サイナスさんわかってるね。最後の四人目『福助』持ちに会ってレベリングしてきました」
『ユーラシアのことだからもっとおかしなことやってるかと思ったら、ごく普通だな?』
「普通じゃないんだ。レベルカンストさせたから」
『え?』
「うちのパーティーを除くとシバさん、パラキアスさん、ペペさんに次ぐ、ドーラ四人目のマスタークラス誕生です!」
『ええ? どうして?』
これは説明が必要だろう。
「『福助』の固有能力って、レベルが上がると効果範囲が広がるんだそうな」
『……と、いうことは?』
「いやあ、よくわかんない」
『おいこら!』
運の高低による差って、実感できないんだってば。
「レベルカンストだとかなり広い範囲、ひょっとするとドーラ全体が幸運に包まれるなんてことがあるかもしれない……のかなあ?」
『頼りないな』
「ほとんど例がないほどのレア能力らしくて、わかってることが少ないらしいの。でもあたしの信頼するほこら森の村の占い師が、めちゃんこ『福助』持ちを重要視してるんだよ。長くドーラに幸運をもたらすって」
『例の幼女預言者か。……無視できないな』
「でしょ? 運に頼るなんてのは、あたしのポリシーに反するんだけどさ」
『君はたまに格好いいこと言うよな』
「いやまあそんなことあるよ。聖女の生き様はかっちょいいから」
『聖女というか勇士寄りだけれども』
『福助』の効果については、実はさほど気にしているわけじゃない。
いいことあったらいいね、くらいの軽い気持ち。
ただ『福助』持ちに対して何もしないのは、あたし自身がサボってるみたいで気持ち悪いのだ。
「明日暇だから、エルフの里行ってワイルドボアの飼育がどうなってるか見に行こうと思ってるんだ。アレク達は輸送隊は出なんだっけ?」
『ああ。明日夕方に帰ってくるが』
「いないんじゃしょうがないか。ならブタ繋がりでエメリッヒさん連れていこうかな。呼んどいてよ」
『ハハッ、ブタ繋がりか。わかった』
ブタの家畜化も将来に向けての重要な案件なのだ。
「サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、御苦労だったね。おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『はいだぬ!』
ブタ飼育が復活できるといいなあ。
楽しみなのだ。




