第1669話:ブタに食いつかれる
「ごちそーさまっ! もー入んない!」
「大満足だぬ!」
代弁者ヴィルをぎゅっとする。
よしよし、いい子だね。
イシュトバーンさんが言う。
「おい、何か面白え話ねえか?」
「うーん、実はあんまりないんだよね。とゆーか物事が停滞してて動かない」
「だろうとは思ったが」
イシュトバーンさんが特有の丸い目をこちらに向ける。
だから丸一日かけて『福助』持ちのレベル上げなんてしてたんだな? うん、わかっちゃうか。あんたも暇潰しかよ。たまにはね、という会話を目で交わす。
「強いて言えば、ルーネの友達のビアンカちゃんって子に会わせてもらったことが面白いかな。プリンスルキウスの従兄妹でもある子」
「ほう? あんたが面白いと思うくらいの子か?」
「見た目も性格も地味な子だよ。 イシュトバーンさんの好みかどうかはわかんないな」
ただヴィクトリアさんのところへも施政館にも黙ってついて来た。
あたしとは違った意味で巻き込まれ体質なんじゃないかって気がしてる。
ウルピウス殿下が気にしているところといい、貴族の令嬢らしからぬリアクションといい、見たことないタイプの子だ。
あたしは注目に値すると思う。
「おい、それどこが面白れえんだ?」
「レアな固有能力持ちってのが理由の一つだね」
「ほお? どんなやつだ?」
「他人の持ちスキルがわかるってやつ。あたしやヴィルを見てビックリしてた」
「知らねえな。何て固有能力だ?」
「マルーのばっちゃんに聞いたら、『見者』か『セレクトワン』のどちらかだろうって言ってた。ただ本人は鑑定されたことないんだ。おまけに他人のスキルが見えること自体も、妄想かと思ってたくらい」
「何だそりゃ? しかし貴族の令嬢じゃ使いようのない能力だな」
うむ、イシュトバーンさんの言う通り。
役に立ちそうな場面は思い浮かばない。
「ビアンカちゃんは、恋愛もののお話を書けるんだよね。ヴィクトリアさんに紹介してさ。仕上がったらドーラで刷って帝国で売ろうかって話をしてきた」
「おう、そういやヘリオスが明日にも悪役令嬢の完成本が出始めるって言ってたぜ?」
「すごく早いな。明後日にでも行ってみよ」
「明日はやることあるのか?」
「特に決めてないなあ。でもエルフの里を覗いてこようかなと思ってるんだ」
「エルフの里か。何があるんだ?」
「ワイルドボアっていう魔物を家畜化しようとしてるの。イノシシの魔物でさ。昔帝国にいたブタっていう家畜は、同じくイノシシの魔物であるアールファングを飼い馴らしたものなんだそーな」
その目はセクハラだとゆーのに。
ちょっとは遠慮しろ。
「……つまり古の高級肉用の家畜、ブタを復活させられるかもしれねえのか?」
「時間をかければ可能だな」
「すごいですの! 食べたいですの!」
ガルちゃん大興奮。
ブタ知ってるけど、食べたことはないんだな?
「ブタの味自体は、あたしがいつも狩ってくるコブタマンくらいのものらしいぞ?」
「コブタマンの肉はおいしいですの!」
「そうだぜ、あの味の家畜を飼えるなら万歳だろ」
「飼い馴らすことさえできれば、飼うこと自体は難しくなさそうなんだよね。何でも食べるらしいし」
「よく調べてるじゃねえか」
「エメリッヒさんいるじゃん? 元宮廷魔道士の」
「ああ、あの顔色の悪い男か」
「エメリッヒさん、昔豚を飼育していたテルミッツっていう場所を領地にしてる、ギレスベルガー家の出なんだ。で、ブタを復活させることはギレスベルガー家の悲願で、結構ブタ飼育の資料もあるらしいの」
悪い顔になるイシュトバーンさんとガルちゃん。
何なんだ、あんた達は。
「過去のブタ飼育の資料が手に入るなら、ワイルドボアの家畜化は早められるだろうな。アールファングの家畜化にも手をつけられるかもしれない」
「あんたならどうにでもなるじゃねえか」
「そうですわ! 脅しても良し、盗んでも良しですわ!」
「おいこら、盗んでいいわけないだろ。でもまあテルミッツは魔物がいる土地だそうでさ。魔物除けが欠かせないから、今のテルミッツで魔物を家畜化するって至難の業なんだって。こっちである程度ワイルドボアの飼育が可能なところを見せてやれば、間違いなく提携を持ちかけてくるだろうな」
「楽しみだなあ」
「楽しみですの!」
ブタの話題にこんなに食いついてくるとは思わなかったぞ?
何故に?
「商材としても食材としても興味があるんだぜ」
「煮るのにも焼くのにも興味があるんですわ!」
「煮るのにも焼くのにもってのは、実に共感できるな。まあいいけれども」
あと面白そうな話題と言えば……。
「どー考えても今日の出来事だな。ねえピジョーさん、話に参加してよ」
「ぼくの人生で一番刺激的なイベントだったよお」
「あんな間延びした喋り方してるけど、ゆとりがなくなると普通の喋り方になっちゃうじゃん? おかしくて」
「まあいつものレベル上げだったんだろ?」
「うん。でもさすがに他人をカンストするまでのレベリングは初めてだよ」
レベルが高いほど『福助』の効果範囲が広がるとのことだったからだ。
いいことじゃないのはわかっているので、今後二度とやるつもりはない。
「『福助』はどれほどの恩恵があるんだ?」
「全然わかんない。ピジョーさん、ぼくはこれだけすごいんだぞーってのある?」
「ないなあ。ぼくも自分の能力の効果を感じたことはないよお」
目に見えるほどじゃなくても確実な効果があるんだろ。
マーシャがあれほど重要視してたくらいだし。
……わからんくらいの効果なら、ガルちゃんが閣下に報告しても構わん。
「そーいやピジョーさん、周りの人に恵んでもらって生きてるって聞いたけど」
「大体間違っちゃいないよお」
従属関係があるとあんまりよろしくないな。
福の対象がお返しの方に向かって、ドーラに及ばないってことがあるかもしれない。
「もうピジョーさんレベルカンストなんだから、力仕事はできるはずだよ。手伝えることは手伝ってあげな。それからこれあげる」
「パワーカードだねえ?」
「うん。これは回復魔法『ヒール』と治癒魔法『キュア』が使えるようになるやつ。ケガや毒で困ってる人いたら助けてあげてね」
「わかったよお」
これでよし。
「じゃ、今日は帰るね。ヴィル、ピジョーさんの家に飛んでくれる?」
「了解だぬ!」




