第1668話:何という修羅の道
「ただいまー」
「ただいまぬ!」
クララの飛行魔法でベースキャンプに戻ってきた。
オニオンさんに報告だ。
「お帰りなさいませ。どうでした?」
「ピジョーさんは無事、レベルカンストしました! 目標達成です!」
「おめでとうございます!」
「さて、ピジョーさんの感想を聞こうじゃないか」
あれ? メッチャ微妙な表情なんだけど。
何なの? 顔芸?
のほほん男はだらけ顔だけじゃなくて、変顔まで得意なの?
「本当にぼくは歩いてただけなんだよお。何にもしてないんだけどお?」
「だから最初から言ってるじゃん。あたしはピジョーさんに固有能力以外は何一つ期待してないのだ」
「何一つ期待してないんだぬ!」
魔物一体も倒せず『アトラスの冒険者』諦めた人に何を求めるというのだ。
あたしは少々能力が足りなくても、やる気のある人には協力してやりたい。
ただこののほほん男はニートだ。
一欠片も力になってやろうとは思えない。
今日レベル上げしたのは一〇〇%あたしとドーラの都合だ。
「ダメ男になった気がするよお」
「最初会った時から紛うことなきダメ男だったぞ?」
「この子ひどいよお」
知らんがな。
あたしは少なくともあんたの生活態度ほどひどくないわ。
「最近は冒険者として見込みのある子には、あんまりレベル上げしないことにしてるんだ。自分で覚えた方が経験になるから」
「ぼくはあ?」
「見込みがなくて御利益のある子はレベル上げ一択でしょ」
こら見込みのない子で落ち込むな。
この御利益のある子がまったく。
あんたは冒険者として期待してるんじゃないから、べつに構わんとゆーのに。
「でも爆発食らった時は死ぬかと思ったあ」
「あっ、オニオンさん。ぴょんぴょん跳ねる人形系の自爆攻撃の洗礼、ピジョーさんも受けて大喜びしてたよ」
「大喜びなんてしてない! 決して!」
「アトラクションとしてはよかったと、ユーラシアさんは考えてるのかもしれませんが。そういう貴重な経験は冒険者にこそして欲しかったですね」
「まあねえ。経験値と時間のムダだから食らい損だった」
「食らい損って! 食らい損って!」
ギャアギャア騒ぐなよ。
単なる事実だとゆーのに。
『福助』持ちなのに一〇分の一の確率の自爆食らうなんて、ちょっとは反省しろっていう神様の思し召しなんじゃないの?
「ところでユーラシアさんはいくつまでレベル上がりました?」
「わかんないな。いくつか上がったけど、まだカンストした感覚がない」
もう少しだとは思うんだけど。
ただいくつかレベル上がったって強さを実感できるほどじゃない。
『雑魚は往ね』の効果も今で十分。
カンストしたところで、レベルアップの楽しみがなくなるだけだからな?
さほど嬉しくはないのだ。
「さて、ちょっと早いけど帰ろうかな。オニオンさんさようならー」
「バイバイぬ!」
新しい転移の玉を起動し、一旦帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「こんばんはー、本日二回目」
「いらっしゃい」
イシュトバーンさん家にやって来た。
美少女番警備員のノアもあたしが来ることを聞いていたらしいな。
特に驚いた様子はない。
「そちらが?」
「ピジョーさん。周辺にラッキーを与えまくる『福助』の固有能力持ち」
「できればそれ、秘密にしといて欲しいなあ」
「秘密なんだって。あたしは確実に御利益がある新興宗教の教祖でもいいと思うけど、本人の希望は優先しようか」
「勘弁してくれよお」
アハハと笑い合う。
まあのほほん男の気持ちもわかる。
『福助』持ちであることで、妙な絡まれ方することもあり得る。
まともな神経の持ち主なら、わけのわからん持ち上げられ方するのはムズムズするだろうから。
あれ? でもあたしは崇められるの嫌いじゃないな?
やっぱり思考が悪魔寄りなんだろうか?
あ、イシュトバーンさん飛んできた。
「イシュトバーンさん、こんばんはー。ワイバーンの卵お土産だよ」
「おう、待ってたぜ。無事目論見通りになったみてえじゃねえか。良かったな」
「無事じゃないよお、ひどい爆発に遭ったよお!」
「遭ったけど、特に危険なことなかったよ」
「あの爆発、ノーガードで食らうと死ぬって言ってたじゃないか!」
「おっと、マジ口調になったね。あの時のピジョーさんのレベルじゃ、ノーガードで耐えられないやつではあったよ。けど、ちゃんとガードしろって指示したじゃん」
「それを世間一般では危険って言うんだよ!」
「計算して物事進めてるのにな? あたし世間一般の感覚わかんないみたい」
「何という修羅の道!」
爆笑。
のほほん男顔真っ赤なんだけど。
クールダウンした方が良くない?
まーイシュトバーンさん家の御飯はおいしいから、食べてりゃ幸せな気分になるだろ。
「でも『アトラスの冒険者』を途中リタイヤしちゃったのに、今日は最後まで行けたじゃないか。あたしの段取りがいいから」
「逃げ出すタイミングと手段がなかっただけだっ!」
「きちんと逃げ道を消してことを進めるあたし優秀」
再びの爆笑。
いいじゃないか。
終わり良ければ総て良しだよ。
あ、来たな。魔力が高まるのがわかる。
ヴィルとガルちゃんがシンクロ転移して来た。
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
飛びついてきたヴィルをぎゅっとしてやる。
あんたは可愛いのう。
「あら、御機嫌よう」
「よう、ガルちゃんよく来たな」
「本日はお食事にお招きいただき、ありがとう存じます」
また変な顔になるのほほん男。
段々アイデンティティーが崩壊してない?
「ひょっとして、また悪魔?」
「高位魔族ですのよ。高レベルの方」
「か、可愛いね」
「あら、ありがとう存じます」
「ガルちゃん、この人はピジョーさんね。ピジョーさん、ガルちゃんは帝都メルエルの悪魔だよ。悪魔にしては珍しく食べる子だから、時々御飯に招待してるの」
「よろしくお願いしますわ」
「あ、ああ。よろしく」
やっぱり高レベルの人に理由なく突っかかるほど、悪魔は無分別じゃないなあ。
行動原理がわかってくると面白い。
復讐とかのケースを除いて、悪魔は損なことを基本的にしない。
しかしのほほん男の方が挙動不審じゃないか。
どっちが高レベルだかわからねえ。
あれ? ガルちゃんはのほほん男の戸惑いの感情も好きみたいだな?
イシュトバーンさんが言う。
「上がってくれよ」
「お邪魔しまーす」




