第1666話:計算に遊びがない
「これがレベルアップか。気持ちがいいものだね」
「さっきも言ったけど、もうレベルがいくつか上がってるんだよ。少し身体が軽くなった気がするんじゃないかな?」
「そうだね」
『福助』の能力持ちピジョーことのほほん男を連れて、魔境ベースキャンプを出撃。
初めての魔物であるケルベロスを倒しての感想だ。
まだちょっと緊張してるのかなあ?
のほほん男の語尾が伸びない。
「こんな感じで、まずより魔力濃度の高い魔境ドラゴン帯を目指すよ」
「魔境は地域によって住んでる魔物の種類が違うんだね?」
「うん。この辺みたいな魔力濃度の低い外周部にいるのは、一番弱い魔物だよ」
「その一番弱い魔物でもレベル三〇以上の戦士と互角なんだろう? 一番強い魔物になると?」
「中央部のイビルドラゴンとかかなあ? 結構なスキルを持ってないと、レベル八〇あっても一人じゃ倒せないと思う」
「レベル八〇」
目を丸くするのほほん男。
「イビルドラゴンに代表される最強魔物群とは別に、すぐ逃げちゃうから倒しにくい魔物ってのもいるの。今のところうちのパーティー以外じゃ倒せないんだ。経験値がメッチャ高いから、ピジョーさんがそいつの攻撃に耐えられるくらいになったら倒しに行くね」
ヴィルを入れて六人だ。
『デスマッチ』を使って逃げられないようにすれば、安全にウィッカーマンを倒せるとは思う。
でも何らかのトラブルあるかもしれないから一応ね。
「カンストするまでレベル上げって、どこまで本気なんだ?」
「大マジだけど、どの辺に疑問が?」
「ぼくは一日付き合えって言われただけだ。何年も冒険者に付き合うつもりはないぞ」
「あたしだって長年連れ添う夫婦みたいな関係になる気はないわ!」
「あれっ、君みたいな可愛い子と何年もか。悪くない気がしてきた」
こののほほん男、割とツボを突いてくるなあ。
只者じゃないことは理解した。
「あたし達のパワーレベリングは世界最高と自負しているよ。何時間かあればレベルカンストさせてあげられる」
「何時間て」
「大丈夫だぞ? お弁当持ってきたからね」
「そういう心配じゃないんだが」
どういう心配だったろ?
とにかく魔力濃度の高い方へ歩を進める。
◇
「やたっ! 卵ドロップした! 夕御飯にこれ食べよう!」
ワイバーン倒したら卵を落とした。
イシュトバーンさんに招待されたから、のほほん男にも食べさせてやる予定だ。
楽しみだなー。
大分余裕の出てきたのほほん男が言う。
「美味しいのかあい?」
「黄身は多いし旨みは濃厚だし、最高だよ。高級食材だって聞いた。売ったことないからいくらだか知らんけど」
ザコを何体か倒して、のほほん男のレベルも一〇は超えたな。
リラックスしてきたのか、イラつく長い語尾が戻ってきた。
こののほほん男、ヒットポイントは高いから、もうクレイジーパペットの『フレイム』食らっても耐えられるだろ。
「そろそろ経験値の高い魔物も倒していくよ」
「これまでのも高かっただろお。いっぺんにいくつかレベルが上がるから、今いくつかわからないよお」
「まーそー思うかもしれないけど、今までクラスのしょぼい魔物ばかり倒してたんじゃ、マジで何年かかるかわからないんだ。経験値のバカ高い人形系の魔物というやつがいるんで、こいつらを積極的に倒しまーす。先制で魔法撃ってくるから、しっかりガードしないと焦がされるぞ。これ装備しといてね」
「何だい? カード?」
「あたし達の使ってる装備品だよ。これは魔法攻撃を軽減する効果のあるやつ」
「なるほどねえ」
「あっ、クレイジーパペットいたっ!」
フレイム食らったけど、ダンテの実りある経験からあたしの通常攻撃! ウィーウィン!
「リフレッシュ! どう? 攻撃食らった感想は?」
「思ったよりキツくてビックリした」
「あれ、また余裕なくなっちゃったね。でもあたしは計算のできる子だから、無茶な魔物とは戦わないぞ?」
「その計算には遊びがない気がする」
うちの子達がコクコク頷いてるけどそんなことないわ!
ちゃんと死なないように答え出しとるわ!
「でも確かにレベル上がったな」
「うん、もう中級冒険者クラスだよ。おめでとう!」
「ぼくは何にもしてないんだが……今のドロップは、ひょっとして魔宝玉かい?」
「おっ、いいところに目をつけたね。人形系の魔物は経験値が高いだけじゃなくて、魔宝玉を落としてくれる素敵なやつらなんだよ。クレイジーパペットは透輝珠と藍珠を確定でドロップするの」
「へえ。神様が冒険者のためにこさえてくれた魔物みたいだねえ」
「同感だな。人形系を倒さないと冒険者とは言えない」
こののほほん男わかってるじゃないか。
「透輝珠あげるね。お土産にして」
「いいのかい? 結構するんだろう?」
「売ると一五〇〇ゴールドくらいかな。手頃なお値段」
「大金だよお」
あっ、また余裕出てきたみたいだな。
面白い。
「さて、もう少し中のドラゴン帯に行くよ」
「ドラゴンと戦うのか?」
また口調変わった。
動揺し過ぎだとゆーのに。
「ドラゴンは倒したってあんまりメリットないんだ。『逆鱗』というレア素材が手に入るくらい。今日はピジョーさんのレベル上げが目的だから、用があるのは経験値の高いやつ。ドラゴン帯に生息しているデカダンスという魔物を標的にするよ」
「やはり人形系の魔物なのか?」
「理解が早いね。デカダンスは人形系なのに敏捷性がなくてとろいから、先制で魔法撃ってくることをしない。つまりクレイジーパペットより安全に倒せる上、経験値もずっと高いというお得な魔物だよ」
「先生、最初からその魔物を倒していればよかったんじゃないですか?」
「いい質問だね、ピジョー君。理屈は正しいのだが、デカダンスはドラゴン帯まで行かないといないんだ」
「ということは?」
「ドラゴン帯は魔物密度が高いのに加えて、好戦的な魔物もいる。戦いたくなくても、向かってきて戦闘になっちゃうことがあるのだ。例えばドラゴンに急襲食らったりすると、ピジョー君の命が死んでしまうという危険が危なかった。わかるね?」
「わかる」
「もうガードしてればドラゴンの攻撃にも一回は耐えられるから、ドラゴン帯を目指すんだよ。しっかり防御してね」
「やっぱり計算に遊びがない」
アハハと笑いながらドラゴン帯へ。




