第1665話:喋り方どうにかなんない?
フイィィーンシュパパパッ。
「オニオンさん、こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「いらっしゃいませ、ユーラシアさん」
イシュトバーンさんと新聞記者ズを送ったあと、のほほん男を連れ魔境にやって来た。
「そちらはどなたです?」
「元『アトラスの冒険者』のピジョーさんだよ」
「よろしくう」
「初めまして。いつものやつですね?」
「大正解なんだけど、オニオンさんのものわかりが良過ぎるとゆーか話が早過ぎるとゆーか。たまには解説入れたい乙女心なの」
「ハハッ、存分にどうぞ」
「ぼくにも説明がないんだよお」
「その喋り方どうにかなんない? 気が抜けちゃうわ」
まー変に緊張したりパニック起こしたりするよりマシか。
魔境までくれば逃げられないから、オニオンさんに説明しがてらのほほん男にも今からやることを伝えておこう。
「ピジョーさんは『福助』の固有能力を持っているんだ」
「『福助』……聞いたことはありますが、かなり貴重な固有能力ですよね」
「ぼくもそう聞いたよお。周りに福を振り撒く能力だってえ。ぼくはいるだけでいいんだってえ」
「本人がクズだろうがゲスだろうが全然構わんってところがいいよね。あたしの聞いたところによると、『福助』の幸運分配効果はレベルが高くなるほど広範囲になるんだそーな」
「ははあ? ということは?」
「最大限の効果を狙いたい。イコールピジョーさんを可能な限りレベル上げしようかと思って」
「ユーラシアさんが可能な限りと言うならば、カンストするまでってことですよね?」
「そうそう」
「そうだぬよ?」
「えええ?」
間延びした驚き方だなー。
マジで気が抜ける。
心地良い緊張感を寄越せ。
「わからないよお?」
「難しいことないと思うんだけどな。えーと、あたしはドーラを発展させたいので、ピジョーさんの周りの運を上げる効果に期待したい。ユーシー?」
「アイシーい」
「何だその語尾は。腹立ってくるな。レベルを上げるためには経験値が必要でしょ? だからピジョーさんはうちのパーティーに同行してもらう。魔物退治のプロフェッショナルであるあたし達が魔物を倒すと、ピジョーさんにも経験値が入ってレベルが上がる。ユーシー?」
「アイシーい」
「レベルを稼ぐためには経験値の高い魔物を倒すのが早いでしょ? だから魔境に来ました。ユーシー?」
「えっ、魔境?」
あっ、ちょっとキャラが抜けた。
マジになるとのほほんじゃなくなるようだ。
面白いかもしれない。
「ユーラシアさん、魔境だと言ってなかったんですか?」
「転送魔法陣のアナウンスがあるから、わざわざあたしは言わなかったな。オニオンさんこそ、魔境ガイドのペコロスですっていう挨拶がなかったよ」
「いつものやつだと思ってましたから、油断していました」
「慣れって怖いねえ」
「怖くはないぬよ?」
こっちでアハハと笑っているのに、目がマジになるのほほん男。
「魔境って、ドラゴンがいる魔境?」
「イエース、ドラゴンもいる魔境。もっと強い魔物もいるよ」
「ぼ、ぼくは一体の魔物も倒せず、『アトラスの冒険者』をクビになったんだけど……」
「うんうん。だろうなーとは思ってた」
「『福助』は戦闘向きの能力ではありませんからね。やむなしだと思います」
「ぼ、ぼくに何を期待しているんだ!」
「だから固有能力に期待しているんだとゆーのに。今まで何を聞いてたんだ」
あたしが言ったこと理解してる?
ユーシー?
「本当にぼくは何の戦力にもならないぞ? 足手まといだぞ?」
「知ってる。あたしも効率とゆーものを重視しているので、シロートさんに戦ってもらおうなんて思わない」
「ユーラシアさんのパーティーはおそらく世界一の冒険者パーティーで、レベリングのプロフェッショナルですよ。全然心配ありません」
「ウソだっ! こんなに可愛い子が世界一の冒険者だなんて、信じられるわけがない!」
「可愛いだって。正直者にはサービスしてあげたくなるな」
「あはははは!」
どーもこののほほん男はあたしのこと知らん人らしい。
そんなドーラ人には久しぶりに出会ったな。
「あ、ちょうどオーガが一体近くにいるな。ここから見ててよ」
「行ってくるぬ!」
一旦出撃、さらっと倒してすぐ帰還する。
「ただいまー。どうだった? 納得した?」
「今のオーガは、レベル三〇~三五程度の戦士一人とほぼ同じくらいの強さだと思ってください。ユーラシアさんのパーティーにとってはただのザコ魔物に過ぎませんが」
「魔境にいる魔物の中では経験値低いけど、今の戦いにピジョーさんが同行してたら、レベル四か五にはなってたよ。一般的に見ればまあまあの経験値を持つ魔物ではある」
のほほん男が絞り出すような声で言う。
「……ぼくのレベルを上げるって、冗談じゃないんだな?」
「あたしは冗談好きじゃないわ」
「ウソだぬ。御主人は冗談大好きだぬよ?」
おいこらヴィル。
その発言は誤解を生むだろうが。
のほほん男が疑惑の目で見てくるじゃないか。
「ぼくのレベルを上げたところで、君自身に何の得もないじゃないか」
「得もないのにレベル上げを手伝うあたしマジ聖女」
「誤魔化すな!」
誤魔化してるわけじゃないんだが。
腹立つほど余裕ある喋りはどこ行ったんだろ?
語尾全然伸びなくなっちゃったぞ?
精神的に余裕がないと、魔物に出会った時慌てそうで嫌だなあ。
「ドーラの発展はユーラシアさんの悲願なんですよ」
「御主人は皆が金持ちになれば大儲けできると考えてるんだぬ」
「あたしの信頼する占い師がピジョーさんの存在を把握してたんだ。その子にピジョーさんがレイノスにいること教えてもらったんだけどね。現在から未来にわたって長くドーラに幸運をもたらす重要な人って言ってたぞ? 聖女なあたしとしては助力するしかないじゃん」
確認するように何度か頷くのほほん男。
覚悟もできただろうか?
「……冗談じゃなさそうなことはわかった。『アトラスの冒険者』に失格して、ぼくはダメなやつだと思い込んでいたが、力を貸してくれる人がいる。信じてみよう」
「よーし、気が変わらない内に逃げられないところまで連れていこ」
「えっ?」
「行ってくるぬ!」
「行ってらっしゃいませ」
ユーラシア隊およびふよふよいい子、信じてみようと言いながら信じられない怠け者出撃。




