第1664話:のほほん男
「ふーん、レイノスもこの辺まで来ると畑があるんだなあ」
『福助』持ちの元『アトラスの冒険者』ピジョーさんに会いに、レイノスの北部に当たる住宅街に来たのだ。
住宅街とは言っても、港から離れるにつれ田舎集落みたいな景色になってきた。
レイノスって街中の賑やかなところと閑静な中町地区しか知らんから、こういう畑の多い長閑なところはホッとするわ。
ちなみにピジョーさんの持つ『福助』の固有能力について、新聞記者にも説明済みだ。
イシュトバーンさんが言う。
「正確にはここはレイノスじゃねえんだ」
「どゆこと?」
「港を囲む最も古い植民地街の色を残す中町、その中町を囲う形で商店街として発展した外町までが本来のレイノスなんです」
「北区は元々、レイノスに農作物を供給する村だったんですよ。人口増加に伴い、レイノスに吸収された地区なんです」
「へー」
レイノスは南が海だ。
東西に城壁があるけど北にはない。
多分北には魔物がいなかったんだろうな。
だから北に広がるのが自然だったんだろう。
「でも今後レイノスは東西に広げなきゃいけないよねえ」
「東西ですか?」
「うん。南北に歪に長いじゃん? だから東西」
「理屈はわかりますが……」
イシュトバーンさんも新聞記者ズも説明が欲しそうな顔だね?
いや、大したことじゃないんだが。
「これからドーラもどんどん人口増えるじゃん?」
「必然でしょうね」
「移民の数を受け入れられるのが、今のドーラだとアルハーン平原しかないじゃん? となると将来はアルハーン平原がドーラの中心になって、レイノスはその外港って位置付けになると思うんだ」
「帝国のメルエルとタムポートのような関係だな?」
「うん。でもドーラはレイノスにしか港がないから、重要性は却って増すんじゃないかな」
割と真面目に聞いてる皆さん。
「首都をアルハーンにするか、それとも人口の中心と政治の中心を分けてレイノスのままにするかって議論はあるだろうけどな」
「分けた方がいい気はするね」
政府の統治力があればね。
でないとアルハーンとレイノスで対立しそうだわ。
「首都がどこになろうとも、港はレイノスにしかないんだから、政府機関のいくつかはレイノスに置かざるを得ないわ。今のままのレイノスじゃ、政治や外交に使う施設や国際機関の事務局、海外観光客を呼ぶのに必要な施設を作る場所がないじゃん」
「場所を確保するためにレイノスの拡張が必要ということですか?」
「そーなるのが当然じゃないかな。西門からクジラ港の間くらいまでに、レイノスの中心施設を置けるといいなあ」
「国際機関の事務局とは何です?」
いい質問だね。
「二つ注目すべき点があるんだ。ドーラの通貨単位は帝国ゴールドでしょ?」
「ええ」
「悪い言い方をすると、帝国が勝手に作ったおゼゼでドーラの産物が買われちゃう状態なわけだ。帝国ゴールドの価値が貴金属含有量で担保されている内はいいよ? でも帝国の財政状況が悪くなって貴金属含有量を下げたりすると、ドーラがすげえ迷惑する。しかもそれに対してドーラは文句言える立場にない。勝手に帝国の通貨を使ってるんだから」
「「……」」
「もう一つの注意点ね。ゴールドを使ってない国があるでしょ?」
「ガリアや北の小国群がそうだぜ」
「通貨単位が違ってると交易するのに障害になるんだよ。だからそれを統一したい」
「すいません。ユーラシアさんが何を言いたいのかわかりません」
「国際機関の事務局の話なんですよね? 繋がりが全く……」
焦んない焦んない。
ゆっくり説明するからね。
「今の二点を解決するために、超国家で統一通貨の国際組織を作りたいんだよ。どこかの国で勝手に通貨を発行するんじゃなくて、国際組織で管理して各国に割り当てる通貨量を決める。とゆー仕組みを作れれば、各国が我が儘できないでしょ? イコールどこぞの国が困ってもドーラへの影響は小さくなる」
「素晴らしいですねえ」
「商売はフェアにやりたいんだよね」
さらに聞いてくる記者。
「ドーラに事務局を置くのは何故です?」
「もしこれが実現できるとすると、参加国で大きいのは帝国とガリアなんだ。この両国のどっちかに事務局置くと、力関係が見え透いちゃってつまんない」
「帝国に事務局を置くとガリアが、ガリアに事務局置くと帝国が納得しないということですか?」
「そゆこと。だったらドーラでいいじゃん。首都レイノスを拡張しさえすれば大きな建物建てられるし、転移術を利用すれば各国の首脳と連絡取りやすいし」
あたしが帝国やガリアの首脳とツーカーだから、二大国の意思疎通を図りやすいしな。
国際機関事務局を置いて、ドーラの存在感を高めたいという思惑ももちろんある。
「統一通貨に関する考え、ガリアの王様には話してあるんだよ」
「実現できるといいですねえ」
うむ。
もうちょっと帝国とガリアの両国に食い込めれば、実現できそーな気はするんだが。
「あ、ここですよ」
「着いたか。こんにちはー」
「どうぞー。カギは開いてますよおー」
いや、こんなボロっちい家にカギかけてあるとは思わんけど。
中には……。
「誰ですかあ?」
「あたしは美少女精霊使いユーラシアだよ。あんたがピジョー・ジブリさんで合ってるかな?」
緩んでるというかたるんでるというか、一言で言うとのほほんとした男が寝ている。
「うん、ぼくがピジョーだよお」
「『福助』の固有能力持ちだと聞いたけど、合ってる?」
緩んだままで固まる表情。
「……誰にも言った覚えがないんだ。どこで聞いた?」
「『アトラスの冒険者』のチュートリアルルームでもらった名簿で」
「名簿?」
「脱落した『アトラスの冒険者』の名簿だよ。有用な固有能力の所持者に協力してもらおうと思って」
大きく手と首を振るピジョーさん。
最初の口調に戻る。
「ムリだよお。ぼくには何もできなかったのさあ」
「知ってる。特にピジョーさんに何かして欲しいってわけじゃないんだ」
「ふうん?」
ちょっと興味深そうになるのほほん男。
「『福助』の福を振り撒く効果って、レベルが上がると範囲が広がるらしいんだよ」
「そうなのかい? ぼくも知らなかったよお」
「何も言わずに今日一日、あたしに付き合ってちょうだい」
説明が面倒だわ。
あ、ヴィル呼んでこの場所覚えさせとこ。




