第1662話:あたしに歴史あり
――――――――――二六三日目。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「あっ、ユーラシアさん!」
「おや、アンタかい。いらっしゃい」
カトマスのマルーさん家にやって来た。
「お土産のお肉と骨だよ」
「まあ、ありがとうございます!」
「今日はどうしたんだい? また時間潰しかい?」
「たまにはばっちゃんとニルエの顔も見たくなるんだよ」
「なるんだぬ!」
「そうかいそうかい」
「時間潰しとゆーのも、必ずしも間違いじゃないけど」
「やっぱりかい!」
アハハ、朝から楽しいな。
昨日会ったビアンカちゃんの固有能力は何かなと、気になったってこともある。
満足げなマルーさん。
美少女の顔を見ると心が潤うから。
「最近ニルエはどうかな?」
「よく声をかけられます」
「モテているようだよ。ここのところ『オーランファーム』の息子がよく出入りしているだろう?」
「ははーん。ニルエを取られると思って、焦ってる人が多いんだな?」
「おそらくねい」
他人のものになっちゃうと考えると欲しくなっちゃう心理か。
ニルエいい子だもんな。
ダンとニルエは相性が良過ぎる問題があるけど……。
「言い寄ってくる男の中で気になる人いる?」
「ダンさん以上に素敵な男性は……」
「いないねい」
ダンはボンボンである上に、今やドーラを代表する冒険者の一人だしな。
レベルも高い。
ダン以上の条件となるとなかなかいないだろ。
相性がピッタリ過ぎるという珍妙な悲劇がなければ、すぐにニルエとくっついてもおかしくはなかった。
「ダナリウスとニルエが一緒になってくれると、アタシも安心なんだがねい。何か手はあるかい? アンタどう思う?」
「今のままじゃ息苦しい感じがするな。どうしても時間が必要。何年かこのまま付き合って、その後結婚すりゃいいと思うんだけど……」
「何年か経てば大丈夫なんですか?」
「うん、馴染む。でも四、五年はかかるよ」
あれ、ニルエもマルーさんも嬉しそうだな?
四、五年かかるって言ってるのに。
まったく気の長いことだ。
「……アンタと初めて会った時は、こまっしゃくれた子だと思ったもんだが……」
「あたしはいつもこんなもんだけどな」
「みたいだねい。ギルドで再会した時も、変わってないと思ったもんだ」
ん? ギルドで再会?
「あれ? あたしとばっちゃんって、ギルドで会ったのが最初じゃないんだ? どっかで会ったことがあるんだっけ?」
「アタシゃ灰の民の村に行ったことがあるんだよ。ハゲ爺に連れられてね。今から一〇年以上昔になるかねい」
「マジか。全然覚えてなかったわ」
「面白い子がいるから見てくれと言われてね」
「あれ? まさかあたしの固有能力を見るためだけにカラーズまで?」
「そうだねい。アンタは昔からハゲ爺にかなり期待されていたんだよ」
デス爺はアレクの固有能力については知らないようだった。
本当にあたしの固有能力を調べるためだけに、マルーさんを灰の民の村に呼んだんだな。
もっともマルーさんの鑑定料は法外だって言うから、二人分払うのがバカバカしかったのかもしれないけど。
「アタシもカラーズは久しぶりだったからねい。物見遊山がてら行ってみたらどうだい。三つの固有能力持ちの幼女ときたもんだ。そりゃ驚いたよ」
「じっちゃんはあたしに何を感じて、ばっちゃんに鑑定してもらおうと思ったんだろ?」
「明らかに他の村人と比べ、精霊との距離感が違うと言っていたねい。アンタが『精霊使い』の固有能力持ちであることを確信していたんだと思う。当たっていたけどねい」
塔の村を中心として精霊と共生する集落を作るというデス爺の構想は、一〇年以上前からあったものだったのか。
いや、あたしが『精霊使い』の固有能力持ちだとわかったから、思いついた計画なのかもしれないな。
結局あたしはその計画から外されたわけだが。
「灰の民の村であたしって、ちっちゃい頃から精霊使いって皆に呼ばれてたんだよ」
「『精霊使い』の固有能力持ちと判明したからだろうねい。もっとも固有能力持ちとまで知っていた村人がどれほどいたかはわからんが」
デス爺あんまり思ってることを他人に言わないしな。
事実あたし自身も知らなかった。
知っていたからといってどうなるものでもなかったからかもしれない。
「ふーん、驚きの事実だった。あたしに歴史ありだな」
「アンタの歴史は面白いだろうねい」
「『精霊使いユーラシアのサーガ』って本を出したいんだよね。誰か書いてくれないかなあ?」
「出版されたらアタシにも読ませな」
「んー? 出版される頃にはばっちゃん多分天国だぞ?」
「失礼だねい!」
「地獄のが好みだった?」
「そうじゃないねい!」
「そうじゃないぬ!」
大笑い。
楽しいなあ。
「昨日変わった固有能力持ってる子に会ったんだよ。ばっちゃんに教えてもらおうかと思って」
「どんな能力だい?」
「他人の持ちスキルがわかるってやつ。レア能力だと思う。四、五ヒロ離れてても見極められるみたいだよ」
「ふん、『見者』か『セレクトワン』のどちらかだね。低レベルで離れたところからわかるなら、『セレクトワン』の可能性が高いねい」
「『見者』と『セレクトワン』はどこが違うの?」
「相手のスキルを把握できるのは同じだが、『見者』は今まさに使おうとしているスキルが何かまでわかるんだ」
「へー、冒険者にとってはかなり便利だな」
盾の魔法『ファストシールド』とベストマッチだわ。
大技が来ると感知したらかけりゃいいんだから。
「『セレクトワン』は?」
「自分の適性に関係なく、スキルを一つ教えてもらって覚えることができるよ」
「『スキルハッカー』みたいに?」
「『スキルハッカー』は持ちスキル習得上限が一二と決まっているだろう? 『セレクトワン』は能力によるスキル取得は一つだが、その他の理由による習得には影響がないんだよ」
「結構ヤバい能力だな」
いや、『見者』も相当ヤバいが。
「アタシが見てやろうか?」
「ありがとう。でも貴族のお嬢さんなんだ。自分の能力を詳しく把握することに興味がないかもしれないの」
「ははあ、冒険者じゃないのかい。なら微妙な能力だねい」
「本人が知りたがるようなら、よろしくお願いするね」
さてと、ボチボチ行くかな。
「じゃ、また来るね」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動して帰宅する。




