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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第1653話:クリームシチューの思惑

「サイナスさん、こんばんはー」

『ああ、こんばんは』


 夕食後に毎晩恒例のヴィル通信だ。


「クリームシチューはなかなかイケるでしょ? どう思った?」

『なかなかウケそうな料理だと思ったよ。もしカラーズで売るんだったら、ユーラシアならどうする?』


 あれ? サイナスさんはクリームシチューを売ることを考えてるのか。

 具として野菜の存在感の多い料理だから、灰の民にとってはいいかも。

 売り物にならないクズ野菜傷物野菜も使えるしな。


「今のままだと立ち食いシチュー屋で、器を持参するならばテイクアウトも受けつけますってのが現実的だよね。白の民か灰の民か、どっちかが行うお店で」

『もう一歩踏み込むと?』

「本格的な食堂のメニューの一つとして出すことだわ」

『やはり大きな食堂が欲しいって考え方になるよなあ』

「サイナスさんが懸念する理由もわかるつもりだけど、いずれ大食堂は必要だと思うよ」


 カラーズJYパークで本格的な食堂が難しい理由。

 それは肉や乳製品は白の民の主要生産品であり、野菜は灰の民が得意ということだ。

 最低白の民と灰の民の協力が必要だが、利益配分などつまんないことで揉めると計画はパーだし、白の民と灰の民の対立にも繋がりかねない。


『解決策はあるか?』

「カラーズ全村に出資させればいいと思う」


 共同事業にして儲けは出資比率に応じて分配する。

 白の民の村や灰の民の村ももちろん出資するが、経営主体ではなく食材を納入する一団体に過ぎない、という形にすればいい。


「少々揉めたって他の出資者が中に入ってくれそう」

『ううん、大事になるな』

「今やるべきじゃないかもね。でも大きな食堂は欲しいことは欲しい」


 例えばレイノスや聖火教礼拝堂地区から来た人も利用しやすいしな。

 評判が良ければ二号店三号店をオープンしてもいい。


『共同出資じゃなくて、完全に外部の資本じゃダメか?』

「揉めないことを重視するなら外部の単一資本がベストだよ? でも従業員はカラーズの住民でしょ?」

『ああ、モチベーションの問題があるのか。各村に発破をかけられるわけじゃないから』

「不正があった時のチェックも利きそうにないね。そんな事業に出資してくれそうな人に心当たりがない」


 イシュトバーンさんやヨハンさんみたいな優れた商人ほど、耳を貸さないと思うわ。


「移民にお金ができて漁獲が安定したら、巻き込んで大食堂作るぞーって持ってけばいいんじゃないの? 魚料理も食べられる方が嬉しいし」

『大食堂開業までに小さな食堂は多くできるかもしれないけどな』

「全然構わないじゃん」


 小さな食堂乱立の方が自然な流れの気はする。

 あんまり余計なことしない方がいいかもな。

 シチューがおいしいことには変わりないし。


『今日はこっちで転移の玉をチェックした後、どうしてたんだい?』

「おっ、積極的にエンターテインメントを渇望する姿勢には好感が持てるね」

『高官はモテなくていいから』

「あっ、サイナスさんが眠くなるようなこと言った!」


 エンターテインメントから離れた気がする。

 まあ場が冷えた時に盛り上げるのもエンターテイナーの腕だから。


「順に行政府、海の王国、ガータンに行ってきたんだ」

『バラエティに富んでると言うか、意図が掴めないと言うか』

「行政府はパラキアスさんに会うのが主目的だね。新しい転移の玉ができたら一セット譲ってくれって言われてたの」

『パラキアス氏はドーラ中を飛び回るから、転移の玉が欲しいだろうな』

「帰る時一瞬だもんね。ドーラの利益になることなので優先する」


 パラキアスさんもあちこちで素材やアイテム手に入れてそうだから、ギルドを通して売ってくれるといいな。

 運営の助けになるよ。


「あと行政府では帝国の情勢の話かな。プリンスの結婚パレードの様子とか」

『次の移民がいつ来るかって話はなかったかい?』

「言うの忘れてたわ。六日後の今月二五日に到着予定だって」


 まだ向こうを出航していないはずだ。

 天候によっては到着日ずれるかもしれないけど。


『海の王国は昼食だな? 今日は雨降ってなかったけど』

「おっと、わかっちゃう?」

『行政府、海の王国、ガータンの並びから言って、昼食ド真ん中じゃないか』

「やるなあ。その優れた洞察力を各方面に発揮すればいいのに」


 アハハと笑い合う。


「いや、海の女王にもクリームシチューを食べさせて、感想聞きたかったんだよ」

『気に入ってたかい?』

「うん。女王から牛乳の代わりに海獣の乳でもいいか、みたいな話が出てさ。海獣の乳ってすごく濃厚なんだって」

『へえ。それはそれでスペシャルなシチューになりそうだが』

「まあねえ。海底のクリームシチューだと海の幸を利用できるしね。濃厚な乳って、スイーツにも応用利きそうじゃない? 今後が楽しみだよ」


 でも生産量は知れてるか。

 交易で手に入るほどにはならないかもしれない。


『最後はガータンか。今日のメインイベントだな?』

「メインではあるんだけどごめん。あんまり面白くならなかった」

『面白くする意思はあったみたいじゃないか。それを聞こう』

「エンタメを追求してくるなあ。実はプリンスルキウスとリリーが同行者だったんだ」

『ふむ?』


 これだけじゃどの辺がエンタメなのかわかるまい。


「プリンスはガータンを視察したいってことで。例の山賊を段階的に領民にしていくって政策あるじゃん? あれを詳しく知りたいんだって」

『ユーラシアの言い方からすると、ルキウス皇子にエンタメ要素はなさそうだな。いや、君がどこからでもエンタメ要素を捻り出せることは知っているが』

「謎の信頼感だなあ。ガータンの領主ヘルムート君は貴公子こてんぱんイベントの犠牲者じゃん? リリーを放り込むと甘酸っぱい空気がどうのこうの」

『つまり君の大好物であるラブい話を期待したが、うまくいかなかったと』

「うん。ただ失敗ってわけじゃないんだ。時間がかかりそうな気配。またたまにリリーをガータンに連れていくことになりそう」


 問題はヴィクトリアさんとの関係とガータンまでの距離だろ。

 何とでもなる。


「サイナスさん、おやすみなさい」

『ああ、御苦労だったね。おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『わかったぬ!』


 明日はルーネのお友達のところへ遊びに行く日だ。

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