第1654話:今は凪の時期
――――――――――二六二日目。
「今日もいい日だイチゴが大変うまーい!」
「ユーちゃん絶好調じゃねえか」
「あたしは大体いつも絶好調だなー」
今日は凄草株分けの日。
畑番の精霊カカシと大悪魔バアルとお喋りしながらの作業だ。
最近株分けの日はこのパターンが定着している。
「絶好調じゃなかったのって、バアルに呪いかけられて身体が重かった日以来ないんじゃないかな。だからどうってわけじゃないけど」
「主よ、どうしたであるか?」
「え? 何が?」
「笑いに繋がるわけでもない。また必要性もないのに過去の話を持ち出すなど、吾が主らしくないである。また感情にも一片の曇りがあるである」
「鋭いなー。さすが大悪魔」
高位魔族は人の感情たる負力を糧にしているせいか、こっちの思ってることがある程度わかるんだろうなって気がする。
ただバアルがこんなこと言いだすのも違和感があるんだよな?
あんたは悪感情か承認が欲しいんだろうに、どういう風の吹き回しだ。
「心配事でもあるであるか?」
「何だよー、悪魔が人の心配するなんて変なの」
「吾ほどの悪魔になると、主の弱み……心配するのは当然なのである」
「本音が隠せてないぞ?」
アハハと笑い合う。
バアルらしくて安心したわ。
いや、あたしに心配事があるというわけではないんだが。
「あたしが小さな胸を痛めている理由があるんだよ」
「小さな胸である」
「おいこら、そこだけ拾うな」
まったく失礼な。
まあそうツッコむだろうなと思ったからこそのフリではあるが。
ヴィルもバアルもキッチリ拾ってくれる。
悪魔はツッコミ向きなのかなあ?
ボケの悪魔って、天然の魔王くらい?
「ユーちゃんが胸を痛めているって何事だよ?」
「早期に解決しないと、おっぱいがなくなってしまうである」
「なくなりゃしないわ! なくなったら困るわ!」
マジで恐怖だわ。
「クエストがさ。最近待ちの案件ばっかりなんだよね」
「「待ちの案件?」」
「うん。『ガリア・セット』は通えばクリアできるものじゃないじゃん? 行くことは行くんだけどさ。新しいクエストが出ないかなあと、指くわえて見てるだけ」
「指が溶けるぜ」
「溶けないわ。天使国アンヘルモーセンの出方も向こう次第じゃん? あたしからアクションを起こせない」
「ふむ、もっともであるな」
「遺書も皇帝のカウントダウン待ちじゃん?」
「カウントダウンはひどいぜ」
「悪魔的なものの言い方である。さすが吾が主である」
簡潔に物事を表現しただけなのにな。
悪魔的にはさすがらしい。
特に嬉しくはないけれども。
「自分で動いてどーにかするのがあたしのスタンスなんだよね。待ちってのは性に合わないとゆーかイライラするとゆーか」
「よくわかるぜ」
「よくわかるである」
「で、今はささやかな楽しみで心を満たしているんだけどさ」
「ささやかって。ユーちゃん結構あちこち飛び回ってるじゃねえか」
まーカカシの言う通りではあるんだが。
「これから起きる出来事に比べるとささやかなんだよね。しかもこれから重大事件が立て続けに起きちゃう気がする」
「そうなのかよ?」
「いや、フラグを先に立てておく作戦と見たである」
「バアルやるなー」
「ささやかなおっぱいの割に大胆である」
「おいこら、ささやかなおっぱいってゆーな。大胆なおっぱいにしろ」
「吾は大悪魔だからして、ウソは吐かないである」
おそらく今は凪の時期なのだ。
近々物事は急速に動き始める。
あたしがフラグを立てる立てないに関係なくだ。
ただイベントがいっぺんに押し寄せると、お腹一杯になっちゃうじゃないか。
バラけて来てくれることを祈るのみ。
「よーし、作業終わり! 御飯食べてから帝都行ってこよ!」
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「やあ、精霊使い君。いらっしゃい」
皇帝宮殿にやって来た。
いつものサボリ土魔法使い近衛兵が言う。
「ルーネロッテ様が詰め所に来ているよ」
「今日ねえ、ドレッセル子爵家のビアンカって子のところに遊びに行く約束なんだ。どういう子か情報持ってない?」
サボリ君の貴族に関する知識は広い。
ビアンカちゃんはウルピウス殿下のアンテナに引っかかったくらいの子だ。
参考になることを知ってるんじゃないかな?
「ドレッセル子爵家か。地味だが過去の大内乱で功のあった名家だよ。領経営に問題があるとは聞いたことがないな。先代が野心家で娘を陛下の側室に送り込んだ」
「うんうん、基本情報は必要だな。その娘ってのが、プリンスルキウスの母ちゃんだね?」
「ああ。当代子爵は先代と打って変わってもの静かな人だよ。園芸好きで、帝都子爵邸の庭園は素晴らしい」
「ふむふむ」
「ビアンカ嬢についてはほとんど俺が知ってることはないな。大人しい方らしいが」
「あれ、サボリ君が情報持ってないくらいの子なのか。ルーネと同い年って聞いたよ。社交界デビューはすませてるんだよね?」
「もちろん」
デビューを終えているなら、注目されるような子はサボリ君の耳に入ってるはず。
良きにつけ悪しきにつけ、目立つ子ではないらしい。
「ウルピウス殿下が評価してるみたいなんだよねー」
「ビアンカ嬢をか? どの辺を?」
「わかんないの。でもウ殿下って見る目あるじゃん? 会ったその日に妃にならんかって、あたしに言うくらいには」
「精霊使い君を妃にというのは、本当の話だったのか? かなり広まってるけれども」
マジなんだよ。
リモネスさんも驚いたくらい意外な展開だったけどな。
「ビアンカちゃんも隠れ美少女なんじゃないかなあ?」
「ウルピウス様の評価って、可愛さは指標なのか?」
「だってあたしは天下に隠れなき美少女じゃん? 同じ分野を評価されてるとすると、可愛い子なんじゃないかと」
「君が評価されてるのは、行動力とか説得力とか人脈なんじゃないのか?」
「美しさと気品と可憐さでしょ?」
「ええ? 何となく納得いかないんだが」
「おまけにいとしさとせつなさと心強さ」
「サッパリ納得できない」
何故納得できないのだ。
あたしは品行方正で容姿端麗で天真爛漫なミラクルシックスティーンだとゆーのに。
違うわ! 手前味噌でも笑止千万でも唯我独尊でもないわ!
誰だ、阿鼻叫喚とか魑魅魍魎とか言ってるやつは!
さて、近衛兵詰め所にとうちゃーく。




