第1652話:ガータンの発展
「お嬢さんは石を回収しに来たんだろう? お偉方は?」
「プリンスルキウスは、ガータンの空の民に対する扱いに興味があるみたいだよ」
「皇女様は?」
「リリーは、ヘルムート君のリリーに対する扱いに興味があるみたい」
「おいこら、ユーラシア!」
「もー素直になりなよ」
「素直になるんだぬ!」
顔赤くしちゃって。
鏡見てみろ。
恋が始まる直前の乙女の表情だぞ?
「ヘルムート君とベンジャミンさんはどこかな?」
「領主屋敷だぜ。俺もついさっきまでいたんだ」
「ありがとう。行ってみよ」
「おう、じゃあな。皇子殿下、皇女殿下、失礼します」
お頭は自分の集落に帰るとこだったのか。
機嫌良さそうだったし、開拓も順調なんだろう。
ガータン仮住民による開拓が進むということはすなわち、ガータン全体が発展するとゆーことだ。
めでたい!
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「ウルトラチャーミングスとお供二人が遊びに来ましたよ」
領主屋敷を覗くと、あ、二人出てきた。
「ようこそユーラシア殿。と、ルキウス様リリー様?」
「えっ?」
ベンジャミンさん相当驚いたみたいだな。
プリンスとリリーに、ベンジャミンさんがガータンの領政を預かる存在であることを説明する。
「ルキウス様、御結婚おめでとうございます」
「ありがとう。帝都に来た際は、ぜひ皇宮へ遊びにおいでよ」
「は」
プリンスとパウリーネさんの結婚式は、伯爵以上の大貴族に招待状を送ったらしい。
ヘルムート君は男爵だが、花嫁方親族として結婚式に出席する資格はあった。
でも親族よりもガータンの男爵としての自負があるんだろうな、式には出席しなかった。
農繁期ということ、新政策がスタートしたばかりでトラブルが起こり得るということもあるだろう。
領主としてメッチャ気合いが入ってることが見て取れる。
どーだリリー。
ヘルムート君はいい男になったろうニヤニヤ。
「プリンスはガータンの政策を視察したいんだって」
「市民権非保持者を領民にというのは画期的だ。帝都でも話題になっているんだよ」
「ユーラシア殿のアイデアなのです」
「あたしはちょろっと思いつきを話しただけだわ。実際にやろうと思ったらすげー大変だわ」
リリーが言うな言うなって顔してるからあたしは煽らないけど、リリーこそヘルムート君と話さなくていいんかい。
せっかくガータンまで来たのに、このままじゃあたしとプリンスのお供で、存在感がないぞ?
ヘルムート君がちょっと見ない間に一人前の領主っぽくなってるでしょ?
素直に話しかけりゃいいのに。
ちょっとリリーに話を振ってやるか。
あたしはとっても親切だからニヤニヤ。
「転移の玉に使われてる石あるじゃん?」
「黒くて硬い石だな?」
「そうそう黒妖石。あれドーラだと大きいやつがあんまり出なくてさ。逆にガータンみたいな帝国本土の中ほどだと邪魔物扱いされてんの」
「何、そうなのか?」
「ユーラシア殿に出資いただきましてな。黒妖石を掘り出す器具を作って農民や空の民に貸し出すことにしたのです。今後五年で格段に農地が増え、収量も飛躍的に伸びます」
「逆にあたしは黒妖石を確保できて万々歳。やったね!」
当面黒妖石には困らんわ。
「空の民を領民として吸収する政策と合わせて、最終的に伯爵領以上の人口になるよ。これはあたしが言ってるだけじゃなくて、フリードリヒ公爵もそう思ってるんだ。ガータンの未来は明るい」
地図を見せてくれるベンジャミンさん。
「去年まで農地として利用できていた土地はここまでですな」
「現在黒妖石除去作業が進んでいるのは赤で囲まれたエリアです。来年には畑にできるでしょう」
「何? 一年で二割以上耕地が増えるじゃないか。これは素晴らしい!」
プリンス興奮気味だけど。
「まーでも帝国は穀物余ってるじゃん? ガータンは今後人口増加が見込めるから、農作物の収量も必要なんだけどさ。どこにどんだけ売り込むか、売れるもの作るためにはどうするかってのは重要な課題なんだよね」
家畜と果樹とヒョウタン酒は有望だ。
でもまだまだいろんなものが欲しい。
考えるのって楽しいな。
ガータンにはドーラに似た発展の余地があるのだ。
「リリー様はこのガータンの耕地をどう思われますかな?」
「うむ、広い。帝都周辺の耕地も広いと思ったが、全然負けておらぬではないか」
ヘルムート君もベンジャミンさんもいい笑顔だ。
「今年の収量増はさほど見込んでおりませぬ」
「うむ、黒妖石の掘り出しと緑肥植物の栽培で土地を肥やす一年になる」
「緑肥?」
土に鋤き込むための植物をわざわざ作っとくんだそーな。
ドーラでも雑草を鋤き込むことはやるけど、鋤き込み用の植物をあらかじめ育てておくというのは面白い。
肥料になりやすい植物もあるだろうしな。
……おそらく早期に家畜を増やし、堆肥を確保することに手をつけられなかったからこその措置だろう。
来年は家畜の飼育も増やすつもりじゃないかな。
「ベンジャミン殿、市民権非保持者を領民にする政策の細かいところを伺いたいのだが」
「『ガータン仮住民登録証』というものを発行しましてな……」
プリンスが気を利かせて、ヘルムート君とリリーが話す機会を作ってくれたらしい。
チャンスだぞ。
「リリー様、お久しぶりです」
「今更かい」
「ハハッ、ヘルムート殿は短い間で大層立派になられたな」
「リリー様に相応しい男になれるよう、日々精進しております」
「おお、ヘルムート君格好いい!」
「格好いいぬ!」
リリーからキュンです。
でもリリーは帝室のゴタゴタを持ち込むのは申し訳ないって言ってたっけ。
先妃様系の皇族であるヴィクトリアさんとセウェルス殿下、特にヴィクトリアさんとの和解が必要だな。
今日のところは、ヘルムート君とのこれ以上の進展は難しい。
いい雰囲気だからしばらく放っとこう。
ヴィルがリリーにくっついて離れないやんけニヤニヤ。
あたしは今の内に黒妖石もらってってきとこ。
「ベンジャミン殿、ありがとう。参考になったよ」
「何の。ガータンもこれからですので」
プリンスとベンジャミンさんの話も終わったようだ。
「リリー、名残惜しいけど帰るぞー」
「うむ、ヘルムート殿。我はまた来る」
「お待ちしております」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動して一旦帰宅する。




