第1651話:辺境開拓民の現実
フイィィーンシュパパパッ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「精霊使い君、いらっしゃい。リリー様もお元気で」
「うむ、お勤め御苦労」
リリーと黒服を連れて皇宮にやって来た。
まあこれからガータンに行くつもりなのだが、プリンスルキウスも一緒に行きたいと我が儘を言うから。
どうせならパウリーネさんも連れてくりゃいいのにニヤニヤ。
「ルキウス様が詰め所にいらしているよ」
「うん、プリンスを迎えに来たんだ。あたしは特にプリンスを必要としていないとゆーのに」
「ガータンに行くそうじゃないか」
「そうそう、視察という名の遊びに。何故遊びに行くのにパウリーネさんがいないのか。重大な疑惑だね」
「そういうのいいから。リリー様は?」
「リリーは新男爵のヘルムート君に会いたい。ヘルムート君はリリーに会いたい。これぞウィンウィン」
「えっ、ヘルムート様と? 喜ぶべき話ですか?」
慌てて否定するリリー。
「違う違う! ユーラシアが言っているだけなのだ」
「ハハッ、あたしの目を誤魔化そうったってムダだ」
「ムダだぬ!」
黒妖石供給元であるガータンは、ギルドから転移できた方が便利だな。
あたしがいなくても黒妖石をもらってこられるし、リリーもガータンに行けるようになる。
「まー事実関係から言うと、リリーとヘルムート君の間には何もないんだ。まだ」
「ガータンとドーラじゃ遠過ぎるということはわかる。でも精霊使い君の転移転送があるからなあ」
「サボリ君も真実に近付いてきたね。愛を育むのはこれから」
「ユーラシア!」
アハハ、いいじゃないか。
多分リリーはヘルムート君とくっつくぞ?
あたしのカンはほぼ当たるのだ。
「ところでプリンスルキウスはるんるん?」
「いや、傍からはもう浮かれているようには見えないな。元々公私のけじめをキッチリつける方ではあるが」
「つまらんな。からかってやりたい乙女心を察してくれればいいのに」
「君は実に不敬だよな」
「ドーラには身分制度がないだけだとゆーのに」
「じゃあ不敬を失礼に言い直そう」
言い直せばいいのかな?
プリンスは結婚も急ぎだったし、次席執政官就任ってこともあって、やることが多いのかも。
いつまでも浮かれてはいられないんだろう。
「リリー、陛下の具合はどうなの?」
「痩せ細ってしまって……眠り続けているだけだ」
「そーかー」
「ドーラから万能薬とされる『ユニコーンの角』を入手したが、父様は一度も目を覚まさず使えなかったと、母様が言っていた」
「あたしが納めた『ユニコーンの角』かもしれないな。二ヶ月くらい前に依頼があったんだ」
第一皇子の死去直後に遺書を書き上げ、ほどなくして陛下が意識を失ったとすると、もう二ヶ月以上になる。
意識のない状態のままでも生かしておける帝国の医療技術はすごいな。
ただしもう……。
「ごめんよ、変な話題振って」
「いいのだ。天寿なのであろう。我も覚悟はしているし」
確かに天寿なのだろう。
あたしも父ちゃんが生きている内に、孝行はするべきだろうか?
父ちゃんにもなかなか会えないとゆーか、あたしが父ちゃんの存在を忘れてるしな?
ヴィルに居場所を探してもらって、たまには一緒に御飯食べたりするのもいいかもしれない。
詰め所にとうちゃーく。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「ユーラシア君、今日はよろしく頼むね」
「うん、じゃ行こうか。ヴィルお願い」
「了解だぬ!」
◇
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
プリンスリリー黒服を連れガータンにやって来た。
飛びついてきたヴィルをぎゅっとしてやる。
あ、お頭いるじゃん。
「こんにちはー」
「お嬢さんか。そちらは? お貴族様かい?」
「お皇族様だよ。ルキウス皇子とリリアルカシアえーとホニャララ皇女」
「こら、ユーラシア。もう少し頑張れ」
アハハと笑い合う。
あ、お頭皇族と聞いてビビってるわ。
帝国の人はマジで皇族に対する尊敬度合いが篤いなあ。
「スイープのお頭は元辺境開拓民だって。イザコザに巻き込まれて市民権を剥奪され、こんなところまで流れて来ちゃったって聞いた」
「災難だったね」
「い、いや、領主様が良くしてくださるんで……」
プリンスとお頭が握手。
お頭恐縮してるけど、プリンスは気さくないい人だぞ?
固有能力『威厳』のせいかな?
「この前タルガ行ってきたんだ。トサ様がお頭どうしてるって気にしてた」
「トサのやつが……」
プリンスが聞いてくる。
お頭のことをかなり使える人材と認識したみたいだな。
「辺境開拓民とは、皆かなりのレベル持ちなのかい? スイープ殿はレベル二五はありそうだが」
「いや、タルガにレベル二〇超えてる人はほとんどいなかったな。お頭は三羽ガラスの一人と呼ばれてたくらい、向こうじゃ有名な人なんだ」
「辺境開拓民でレベル上げようなんてのは、一部の物好きだけなんですぜ」
「どうしてなん? 魔物がいるところならレベルは必要だと思うけど」
必要ってゆーか必須だろ。
しかしチラッとタルガを見た限り、ドーラより魔物生息密度は低そうだ。
だからいいやってことなのかな?
「まともな武器が手に入らねえからな」
「あっ、そーか」
「輸入品が流れてくることもあるがバカ高えし、武器屋も砥ぎ師もいねえんじゃロクな手入れもできねえ。結局木か鉄の棒で殴りつけるだけだぜ」
辺境開拓民に武器所持が認められているとはいっても、そもそも武器を手に入れる手段がないのか。
冒険者の多いドーラだって、武器売ってるところなんて限定されてるしな。
「回復薬も高価だ。わざわざ魔物と戦ってケガしたがるやつは滅多にいねえ」
「プリンス、こりゃダメだわ。今のままじゃいつまで経っても辺境は辺境、発展しようがない」
「よく理解できた。辺境開拓民の戸籍と登録を厳格にした上で、魔物退治に必要な装備品やアイテムを入手しやすくする施策が必要だ」
マジで帝国はこれまで辺境に対してほったらかしだったということがよくわかる。
できることからでもやってかないとな。
「お頭だってすげえ使える人なんだよ。こういう人が市民権剥奪されて山賊落ちって間違っとるわ。油断してるとあたしがドーラにもらってくぞ?」
「改革が必要だな」
だからこそ市民権非保持者を領民に組み入れるガータンの政策に、プリンスが関心を寄せるんだろうが。




