第1650話:もったいないからやめよ!
フイィィーンシュパパパッ。
塔の村にやって来た。
今からリリーを連れてガータンへ行く予定なのだ。
ガータンの領主ヘルムート君とリリーの愛の架け橋となりたい、聖女なあたしニヤニヤ。
「おかしいな? 真昼の灯台こと光り輝く頭部がないね」
「きっと二日酔いで寝てるんだぬ」
ありそうで困る。
お酒をプレゼントすれば働いてくれるのはいいけれども、二日酔いはなあ。
マジなら対策を考えねばならんな。
リリーと合流する前にデス爺の小屋見てくるか。
「こんにちはーって、リリーもここにいたのか」
「おお、ユーラシアか。我も今挨拶に来たところなのだ」
チラッとデス爺見たらほろ酔い程度だな。
酒瓶からすると、あげたお酒の内開封してないのが三分の一くらい。
これくらいなら勘弁してやってもいいか。
しかし釘は刺しておかねば。
「じっちゃん、ひょっとして毎日お酒飲んでる?」
「うむ」
「身体に悪いから、昼まで残るような飲み方はやめなよ」
「わかってはおるのじゃが……」
「『キュア』かけると酔いが醒めるって知ってた?」
「気分がいいところなのじゃ! もったいないからやめよ!」
アハハと笑い合う。
こんなに必死なデス爺は初めて見たわ。
『キュア』かけられたくなかったら、飲むのは程々にしてちょうだい。
「皇女殿下を連れてどこぞへ行くということじゃったか?」
「露骨に話題を変えてきたなあ。帝国本土のほぼ真ん中くらいにあるガータンってところだよ。リリーの将来の旦那ヘルムート男爵が治めてるところ」
「夫ではないのだ」
「そお? リリーにはピッタリだけどな」
ヘルムート君は領主として結構な存在感を示しているんだぞ?
新男爵なのにプリンスルキウスが視察したいと思うくらいには。
ピット君やライナー君よりは、相性も条件も上だしな。
お父ちゃんが隣領の公爵様だってこともプラスポイントだ。
「……そーいや帝国の身分や爵位でわかんないとこあるな。皇室の男児が臣籍降下すると、皆公爵になるの? それにしちゃ公爵家少ない気がするけど?」
以前オニオンさんが、臣籍降下すると公爵みたいなこと言ってた。
でも帝国に公爵家三つしかないみたいだしな?
「現在のカル帝国の実情とは違う。誤解があるな。セバスチャン、説明せよ」
「は。カル帝国では爵位を持つ貴族イコール地方領主です。爵位持ちでありながら領地を持たないということはありません。男爵以上の貴族家当主は、領主として地方を治め納税する義務があります」
「ふむふむ。その辺が領地のない騎士爵持ちは貴族扱いされるけど、正確には貴族じゃないってことに繋がるんだね?」
「はい」
なるほど。
領主として民を安んじることこそ貴族の誇りということか。
農業国の帝国に相応しい考え方だな。
「かつては皇子の臣籍降下に伴い、公爵家が新設されるのが通例でした。ただ帝国本土領の面積は有限ですから……」
「本来身分の高い公爵は多くの民を治め多くの税を納めるべきなのに、気位ばかり高くて領土の狭い量産型公爵が多くなっちゃう。量産型公爵が生まれるたび帝室の直轄領も削られるから、パワーバランスが不安定になる?」
黒服ニッコリ。
「さようです。ですから現在では、有爵家の数の上限が定められているんですよ」
「国の安定のためと考えるともっともなシステムだなあ。じゃあ皇族の人はどうなるの? いつまでも皇族ではいられないんでしょ?」
「皇帝陛下もしくは皇太子殿下の御子は、皇族としての身分と収入が保証されます。御孫までは皇族で皇位継承権はありますが、成人後は国庫から生活費が出ません」
「ははあ、孫ならどこぞの貴族に囲われるか自立して生きていくか、身の振り方を考えろということだね?」
「皇籍から離れると皇位継承権を失います。原則的に復活することはありません。皇位継承権保持者の数が少な過ぎるのも不穏ですけれども」
「今のように皇位継承権保持者が多いことが異例なのだ。ただ皆がどうするか考えていると思うがの。フロリアヌス大兄様は皇室に身を置いたまま騎士を続けるようだし、ウルピウス小兄様は辺境侯爵家を継ぐであろう」
「リリーは?」
俯く太眉皇女。
リリーも色々考えることあるんだろうが。
「我は……このままドーラに骨を埋めるのもいいかと思っている」
「お嬢様……」
「ええ? そんなのつまんない。あたしにラブい話を提供しろ!」
「提供するんだぬ!」
眉を下げたまま苦笑するリリー。
あんまリリーの困り顔は見たくないな。
「まー冒険者もいいけどさ。ヘルムート君じゃ不満なん? 成長著しい今のヘルムート君はかなりいい男だぞ? 今日会えばわかると思うけど」
「……」
「男爵ってのが格が低くて嫌なん? でもガータンはすぐ大きくなるよ。かなり裕福な領地になるし、格上げもあるかもしれない」
「格がどうこうという問題ではないのだ」
「じゃあ何? ハッキリしなよ。問題点があるなら協力してやるから」
「……我はヴィクトリア姉様やセウェルス兄様と確執があるであろ? 先方に皇室のゴタゴタを持ち込むのは申し訳ない」
婚約者候補に迷惑をかける可能性を考えてたのか。
案外細かいことを気にするリリーらしいとも言える。
しかし……。
「セウェルス殿下は退場したも同然、相手はヴィクトリアさんだけじゃん。ヴィクトリアさんは話の通じない人じゃないけどなあ。……待てよ? カレンシーは強欲だから、その娘とは話す気にならぬみたいなこと言ってたわ。リリー何か心当たりある?」
「晩餐会だか立食パーティーだかで、母様が目玉のスイーツを食べ尽くしてしまい、ヴィクトリア姉様を激怒させたことがあると聞いた」
「それだ。多分食い物の恨みが原因だわ。でも大丈夫だぞ? その話してた時、ヴィクトリアさんさほど怒ってる感じなかったもん」
「あんまり怒ってなかったぬよ?」
だってヴィルがずっとヴィクトリアさんの側にいたしな。
ヴィクトリアさん自身の第一皇女たらんとする態度や次期皇帝を巡る思惑も含めて、何となく気まずくなっちゃってるだけなんじゃないか?
「まだ見えてないとこあるから即断は危険か。とにかくガータン行こうよ。じっちゃん。ガータンはヒョウタン酒っていうのを名産にしようとしてるんだ。生産始まったらお土産にあげるね」
デス爺メッチャ嬉しそう。




