第1649話:『アトラスの冒険者』は海底にも
フイィィーンシュパパパッ。
昼御飯を食べに海の王国にやって来た。
「今日は晴れてるから、女王も油断してると思うんだ」
「ハハッ、油断でやすか」
「急な事態に即応できない態勢のことを、人は油断と呼ぶのだ」
精霊は何と呼ぶのか知らんけれども。
「ヴィル、ダンテ、用意はいいかな?」
「いいぬよ?」「イイね」
「よし、いっちゃってください!」
「ファストシールドぬ!」
「グオングオングオングオングオングオーン!」
『破魔の銅鑼』の悪魔に対する悪影響は、盾の魔法『ファストシールド』で遮断できるかの実験だ。
音自体を『ファストシールド』で通さなくするわけではない。
しかしおそらく銅鑼の音が聖属性を帯びているためなので、ダメージはシャットアウトできるのではないかとの考えだが?
「ヴィル、どうかな?」
「何ともないぬよ?」
「よーし、成功だ! 信頼できる防御魔法だなあ。これからもし危ない攻撃食らいそうになったら、すぐ『ファストシールド』使うんだよ?」
「はいだぬ!」
盾の魔法の応用力は広いなあ。
さすがにメイドインペペさんだけのことはある。
あ、女王転げ出てきた。
「誰ぞ出合えっ!」
「女王ごめん。あたし達だよ」
「何じゃ、おんし達かの。今日地上は雨ではないじゃろ?」
「晴れてるけど、最近来られなかったから来ちゃった。新しい料理教えてもらったから、女王にも食べてもらいたくてさ」
「ほう、楽しみじゃの。肉は?」
「もちろん紹介したい新しい料理にも入ってるし、それとは別にたっぷり持ってきたよ」
「おうおう、大変に結構なことじゃの! こちらへ」
アハハ、女王もお肉が好きだなあ。
肉は夢、肉はときめき、肉は愛。
「席についてたもれ」
衛兵がえっちらおっちらお肉と鍋を運んでる間に、席に案内される。
◇
「これは優しい味であるの」
「でしょ?」
「うむ、大層美味いものじゃ」
クリームシチューを食べてみての女王の感想だ。
既にお肉を食べて床をテカテカにしているけれども。
「小麦粉とバター、牛乳で作るのがオリジナルのレシピなんだけどさ。バターがなかなか手に入れづらいから、クララが植物油とコブタマンの脂を使って再現したんだ。オリジナルはもーちょっと何というか、さらにまろやかな味なの。お肉感が強くないとゆーか」
「小麦粉とは何であろうか?」
「地上で主食のパンを作る時の材料だな。地上式魚フライの衣にもなってるもので、どこにでもあるから、交易で手に入るはずだよ」
「ふむ、海底で油というと魚油じゃな」
「魚油でもおいしいと思うぞ? 味の傾向は変わるだろうけど」
小麦粉と魚油のるうを牛乳と魚のあら汁で割っても美味そう。
具は魚の身と海藻になるかな。
イケそーやん。
女王が言う。
「乳もウシのものでなくてもよいのじゃろ?」
「そりゃまあ、手に入るもんであれば。地上では牛乳が一番買いやすいってだけだな」
「例えばクジラの乳であるとか」
「えっ?」
えらく予想外のものを考えてるじゃないか。
いやまあクジラ飼い馴らして船代わりに使ってるくらいだから、クジラの乳を入手することもできるんだろうけど。
海底だと当たり前の発想なのかな?
「クジラの乳っておいしいの?」
「好みはあるじゃろうが、海獣の乳は濃厚であるぞよ」
「へー。海底バージョンのクリームシチューも食べてみたいな」
とゆーか濃厚ってことは脂の成分が多いんじゃないかな?
じゃあ海獣バターもありってことか。
海底でもクリームシチューが流行って欲しい。
「ヒバリさんが使った魔物除けのさ。碧長石をどこで手に入れたかわかったんだ。ありがたいことに、ヒバリさんがヒント残してくれてたの」
「ほう? ヒバリは必要なことだと考えていたんじゃろうの」
「やっぱ加工にはドワーフの技術が必要でさ。今ドワーフに仕事頼んじゃってるから、すぐには計画を進められないんだけどね」
「何の仕事を頼んでいるのじゃ?」
「『アトラスの冒険者』がなくなっちゃうんだよ。あと三ヶ月ちょっとくらいで」
「何と!」
女王の細い目が見開かれる。
相当驚いたみたいだな。
「これまだ地上でも基本的には内緒なんだ。女王も言わないでね」
「もうおんしはここに来られなくなってしまうのかの?」
「いや、遊びに来るよ」
「御主人はわっちの行くところならどこへでも転移できるんだぬ」
「またお肉持って押しかけるから、心配いらないって」
「そ、そうじゃったか」
あたしが来なくなるって考えると寂しいのかなあ。
変化のない海底の生活は退屈だったみたいだし。
あたしは『アトラスの冒険者』となってから退屈とは無縁だ。
トラブルばっかり飛び込んでくるからな、主人公補正で。
「新しい『アトラスの冒険者』の組織を作るんだ。その転移装置の作成でドワーフの石工の技術力を借りてるの。だからドワーフも手一杯」
「おんしはまことにいろんなことをしているのじゃのう」
「『アトラスの冒険者』になれたおかげなんだよね。ところで女王は何で『アトラスの冒険者』を知ったの?」
あんまり海底とは関わりがなさそうな気がするけど。
ヒバリさんの時代からあたしが海底に来るようになるまで、魚人は地上に干渉しなかったみたいだし。
「『アトラスの冒険者』が設立された時に、関係者が挨拶に来たのじゃ」
「マジかよ」
こりゃビックリ。
設立時に来た関係者となれば、こっちの世界の人間ではない。
異世界の本部の人間だろう。
じゃ向こうの世界は海の王国の存在も認知してるんだな。
……『アトラスの冒険者』本部の人間が海底に来ることができるということは覚えておこう。
追いかけっこになった時、逃げるのはあんまり得策じゃないということも。
「ヒバリさんも『アトラスの冒険者』だったのかな?」
「ヒバリの口からそう聞いたことはないの。海の王国へ転移で来たこともないぞよ」
ヒバリさんの行動力からすると、『アトラスの冒険者』だったと考えてもおかしくはない。
まだ設立前だったのかな?
まあ詮索はいいか。
「今エルフが新しい家畜を生み出そうとしてるんだよ。魚粉がエサとして使えるかもしれないの。お肉満ちる世の中のために協力してもらうかも」
「魚粉か。覚えておくぞよ」
「ごちそーさま。今日は帰るね」
「うむ、またの」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動して帰宅する。




