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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第1646話:あたしは歪まないのだ

「サイナスさん、こんばんはー」

『ああ、こんばんは』


 魔境の侘び寂びを楽しみ、夕食を食べたあとに毎晩恒例のヴィル通信だ。

 今日も一日働いたという充実感と満腹感、眠気と布団の心地よさが押し寄せる時間帯でもある。


「今朝話してたクリームシチューね。クララが試作品作ってくれたんだ」

『どうだった?』

「オリジナルのレシピに比べるとバターを使わない、牛乳も半分なんだけどさ。十分おいしく仕上がった。ドーラ式はこれでいいかなって感じ」

『ユーラシアが十分おいしいって言うくらいか。今度食べさせてくれよ』

「うん。まだ牛乳は残ってるから、明日の午前中に作って持っていくよ」


 具にはまだかなり考慮の余地があるのだ。

 サイナスさんの意見も聞きたい。

 あたしとしてはトウモロコシやカブは入れても全然邪魔にならないし、おいしいと思うよ。


「アレク達いるよね?」

『今は村にいるけど、予定がどうなってるかは知らないな』

「ドワーフに頼んでた転移の玉が、まず一〇個完成してきたんだ。チェックしてもらいたいんで、どっか行きそーになったら引き止めておいてくれないかな? うまーいシチューを食わせてやるからって」

『わざわざアレクじゃなくとも、デスさんにチェックしてもらえばいいじゃないか』

「この前じっちゃんにあげたお酒が、まだかなり残ってると思うんだよね。うーいゴキゲンでチェックされても困っちゃう。信頼性がないじゃん」

『ハハッ、考えてるんだな。ならばエメリッヒ氏と緑の民ペーターもいる方がいいな?』

「うん、よろしくね」


 ペーターは『晴眼』の固有能力持ちで、転移先が見えるのだ。

 ケイオスワード文様だけ見るんじゃなくて、転移先がどうかも直接調べて欲しいしな。


『明日朝一にアレクに伝えておくよ』

「お願いしまーす」


 チェックが終わったら、パラキアスさんだけには早めに転移の玉を渡しておきたい。

 パラキアスさんにはとにかく機動力が必要だからな。

 あたしの目指す豊かなドーラ実現のために、キリキリ働いてください。


『君、施政館に呼ばれてたんだろう?』

「うん。非常勤の施政館参与兼臨時連絡員っていう肩書きがつくことになった。正式には来月の頭から」

『長い役職名だけど、よく覚えられたね?』

「今晩寝たら忘れそう」


 アハハと笑い合う。

 重要なのは役職名じゃない。

 おいしい施政館の食事をタダで食べられることだ。


『やることは今までと変わらないんだろう?』

「変わらないにも拘らず給料をもらえちゃう。おまけに施政館食堂の御飯をタダで食べられる。いいことばっかり」

『帝国の政権にとっては、君の名前があるだけでイメージがいいんだろう?』

「何しろあたしの名前は女神様の名前でもあるから」


 とりあえず崇め奉るといいよ。


「も一つ言うと、アデラちゃんに対する配慮もあるんだと思う」

『アデラ? 誰だったかな?』

「今の植民地大臣だよ」

『ああ、平民の若い女性だという?』

「そうそう。アデラちゃん優秀だからかなり期待されてるんだけどさ。平民の女性というだけで風当たりが相当きっついらしくて」

『ははあ、その風を半分君が引き受けろと?』

「ってことなんじゃないかなと思ってる」


 主席執政官閣下は陰謀家なだけあって、細かい配慮もできるやつなのだ。

 あたしもアデラちゃんの手助けはしてやりたいから、べつに構わんけれども。


『ユーラシアは風当たりなんて関係ないんだな? どうせゴリ押すんだろうから』

「当たってるけれども、サイナスさんも細かい配慮をしてくれないかなあ」

『ウルトラチャーミングビューティーには全ての者がひれ伏すから?』

「サイナスさんはわかってるなー。でも疑問形の必要はないってばよ」


 あたしも役職付きになると、今後は大臣クラスの有力者とも気軽にコンタクト取れそう。

 帝国の役人は優秀な人ばっかりだからなあ。

 色々教えてもらいたいわ。

 やれることが増えるとワクワクする。


「あたしが陛下の遺書持ってることに、主席執政官閣下が気付いたよ」

『ほう?』

「閣下はやっぱりやるやつだわ。とゆーか、だから今日施政館に来いってことだったみたい」

『どこから話が漏れたんだ? 関係者が危なくないか?』

「関係者ってあたしのこと? 乙女の貞操の危機?」

『違うって! そういうのいいから!』


 アハハ。

 定期的に冗談を挟みたくなる乙女のエンタメ至上主義。


「陛下がうっかり元公爵に遺書を渡すところを、今閣下の側付きになってる悪魔ガルちゃんが見てたみたいなんだ。ところがうっかり元公爵はラグランドで隠居じゃん? じゃあうっかり公爵はその遺書をどうするかって考えて、あたしが受け取ってるんじゃないかという可能性に思い当たったみたい」

『では、リモネス氏の方は安泰?』

「リモネスのおっちゃんが二通目の遺書を受け取ってることを、閣下は知らないね。あたしがおっちゃんに相談したことは言ったけど」


 サイナスさん考えてますね?


『……これどう収拾つけるつもりなんだ?』

「どうったってべつに。あたしも遺書の内容は見てないから知らないよ、陛下が亡くなったら内容を公表するよ、とは閣下に伝えた」

『主席執政官閣下の反応は?』

「特には。あたしから力ずくで遺書取り上げようなんてムリな話じゃん? 美少女に嫌われるだけ損だよ。だから内容の公表までは静観だと思う。内容が自分に有利なら乗っかりゃいいし、面白くなければ難癖つけて正当な帝国のあり方を謳えばいいんだし。閣下はそーゆー腹積もりなんじゃないかな」

『ユーラシアは主席執政官閣下の腹まで読めていて、普通に公表するだけなんだな? ルキウス皇子が有利になるよう使うのではなく』


 うん、サイナスさんは疑問に思うのかもしれないけど。


「あたしがプリンスを皇帝にしたいのと今上陛下の意思とは違う話じゃん? 陛下の意思は通してやった方が気持ちがいいからね」

『格好いいなあ』

「お天道様の照らす正道を真っ直ぐ進むあたしは歪まないのだ」

『ムダに格好いいなあ』


 ムダじゃないわ。

 あたしを構成する重要なエッセンスの一つだわ。


「以上でーす。サイナスさん、おやすみなさい」

『ああ、御苦労だったね。おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『はいだぬ!』


 明日はガータンだ。

 その前にクリームシチューか。

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