第1645話:クリームシチューとブタと転移の玉
「どうですか?」
「……かなり美味い。やるなクララ」
「えへへー」
家へ帰ってきたら、クリームシチューの試作品ができていたのだ。
バエちゃんとこで食べたやつとはかなり印象が違って、風味がワイルドだが?
「夜食べる前に何か青菜を入れ、もう一度火を入れて完成ですね」
「これどうやって作ったの?」
「熱した植物油とコブタマンの脂に小麦粉を混ぜ、牛乳で伸ばしたものが半分。骨スープにみじん切りタマネギを煮溶かしたものがもう半分です。具材として炒めた肉、ニンジン、ジャガイモをあとから入れてます」
「味付けは塩とコショウだけだよね?」
「はい」
「完成度が高くて大変結構でーす。よし、これがドーラ式クリームシチューの基本レシピだ!」
喜ぶクララ。
高価なバターを使わなくていいし、オリジナルより牛乳の量を少なくしてるからさらに安くできる。
骨スープはニワトリでもウサギでも何でも美味いしな。
タマネギが隠れたキーだ。
包み込むような優しい甘みは煮込み料理に合うからな。
多めに入ってりゃ大変うまーい。
「これ油の種類を変えるとかなり違った印象の料理になるね。魚油とかゴマ油みたいなクセのあるやつだと特に」
「ええ。ハーブとも合うと思います」
「なるほど、ハーブか。考えるべきだな」
油を変更すると価格にダイレクトに響きそう。
具材やハーブを工夫するのが先だな。
一度ヴィクトリアさんに食べさせて、どんなハーブが向いてるか聞いた方がいいかも。
楽しみが増えた。
「あんた達はもうお昼は食べた?」
「食べました」「食べやした」「イートしたね」
「あたしまだなんだ。塔の村でリリーと食べてくる。その後本の世界でお肉の調達ね」
「「「了解!」」」
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「アリスー、こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「あら、いらっしゃい」
昼食後、本の世界にやって来た。
この世界のマスター金髪人形アリスは表情を変えることはないが、それでも喜んでいるのはわかる。
「今日もお肉ね?」
「そうそう、お肉イズナンバーワン」
食べて幸せ、お土産にして幸せ。
お肉こそ幸せの使者なのだ。
異論は認めない。
お肉と言えば……。
「アリスはブタについて何か知ってる? 昔飼われてたけど、絶滅しちゃった家畜と聞いた」
「イノシシの魔物アールファングを家畜化したものよ。カル帝国本土では高級肉として著名でしたけど、産地のテルミッツが戦乱に巻き込まれた際に失われてしまったのですわ」
「テルミッツって聞いたことあるな。どこでだったっけ? 唸れあたしの灰色の脳細胞!」
思い出した。
エメリッヒさんの実家、ギレスベルガー家領だ。
そーいや魔物がいるって話だった。
一度行ってみたいな。
「ブタが滅びちゃった時もテルミッツって、ギレスベルガー家が治めてたのかな?」
「いいえ。ギレスベルガー家がテルミッツを領したのは、戦乱の直後からですわ」
「ふむふむ。じゃ、エメリッヒさんに聞いても、何も知らない可能性が濃厚か。ま、仕方ない」
アリスも知らない口伝みたいなものがあると助けになるんだが。
しかしイノシシの魔物アールファングを家畜化したものという知識は得られた。
エルフの行っているワイルドボアの飼育実績も必ず役に立つ。
ブタの復活は遠くない!
「エサは穀物でいいのかな?」
「そうね。かつてのテルミッツの飼育環境下では、穀物と油粕、イモがメインで、成長を早めるために魚も与えられていたわ」
「なるほど、了解」
やはり魚粉も使えそうだ。
アールファングとワイルドボアで食性の違いがあるかもしれんけど、実際に試してみないとわからんことだな。
「ありがとうアリス。愛してるぞ」
「愛してるぬ!」
「まっ!」
真っ赤になるアリス。
可愛いなあ。
さてお肉を確保せねば。
◇
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
飛びついてきたヴィルをぎゅっとしてやる。
ドワーフの集落の石造りの門の前だ。
いつも思うけど、すげえ立派だなあ。
門番が言う。
「おう、またあんた達か」
「美少女精霊使い参上! そろそろ前に出した注文の一部が完成してる頃合いだから、様子見がてら受け取りに来たんだよ」
「完成してるのもあるようだぜ。で、これは?」
「今狩ってきたコブタマンっていう魔物。いつも持ってくるのはこいつのお肉なんだ」
「肉の山じゃねえか」
「肉の山、何という甘美な表現なんだ。ドワーフのセンスは詩的だなー」
「お、おう」
照れ笑いする門番。
お肉を称える甘美な表現は置いといて。
「まーあたしがお肉とともにやって来るのは恒例行事として、捌き方はわかるよね?」
「もちろんだぜ」
「一頭当たり一〇秒でお肉にする捌き方ってのがあるんだ。見る?」
「へえ、一〇秒とはすげえじゃねえか。ぜひ見せてくれ」
「クララ先生お願いします」
クララの神技炸裂!
瞬く間にお肉になるコブタマンの亡骸。
目が点になる門番ドワーフ。
「……何だ。ただの天賦の才か」
「ドワーフのワードセンスは詩的だなー」
「ハハッ、おーい! 客人が肉の山を連れて現れたぞ!」
わらわらと集まってくるドワーフ。
歓喜の声とともにあちこちで解体が始まる。
「これから宴になるぜ。あんたらも食べていくかい?」
「いや、今日はもう昼御飯食べちゃってさ。ものを受け取ったら帰るつもりなんだ。ドワーフのドワーフによるドワーフのためのお肉で腹鼓を打つといいよ」
「そうかい? 悪いな」
全然悪くはないってばよ。
あ、長老達来た。
「これは精霊使い殿。注文の完成品一〇セットですじゃ」
「ありがとう! 残りもよろしく頼むね。ところでお肉はこの前みたいにすぐに食べられるちゃんとしたお肉になってる方がいいのかな? それとも今日みたいに、お肉になる前だけど量があった方がいいのかな?」
「言うまでもなく量重視ですな」
「言うまでもないことだったかー」
まああたし達でも当然量だな。
聞くまでもなかったわ。
「じゃ、また一〇日後くらいにお肉ごっそり持ってくるからね。転移の玉製作はお願いしまーす」
「こちらこそ肉をよろしくお願いしますぞ」
「バイバイぬ!」
お願いするのはこっちと思いきや、何故か頼りにされてるお肉ハンターの腕前。
存分に実力を発揮してやろうじゃないか。
転移の玉を起動して帰宅する。
夕飯まで時間があるから、魔境へ行くことにしよう。




