第1635話:さながら物語の中の勇者
「おいしいです!」
「おいしいにくぞなもし!」
「しまった、買い食いし過ぎた。お肉があんまり入らない」
お昼御飯を食べに皇宮の近衛兵詰め所に戻ってきた。
イガ頭のチャカがすげえうまそーな匂いのする屋台に連れてくもんだから、ついあれもこれもと買ってしまった。
帝都裏町の屋台はバラエティに富んでてなかなかだね。
やっぱこれも人口が多いからこそだよなあ。
「カルメ焼きとかいう膨らむ砂糖菓子、不思議だったなあ」
帰ってきた近衛兵長さんが教えてくれる。
「あれは岩塩の副産物を利用して膨らませるという話ですぞ」
「帝国には面白いものがあるねえ」
人口が多いと変なことを考えつく人がいるなあ。
メッチャ羨ましい。
ドーラも移民を大事にして人口を増やさねばならんな。
人こそが発展の礎であり源だから。
「アグネス、ニライちゃん、楽しかった?」
「楽しかったです!」
「たのしかったぞなもし!」
「楽しいぬ!」
満足いただいたようで何よりだ。
「ユーラシア殿、そろそろまいりませんか?」
「満足しちゃってたけど、メインイベントはこれからだったわ。でもまだ早くない?」
つーか何で近衛兵長さんが急かすんだ?
「パレードを御覧になるのでしょう? 見物人が大勢いますので、生半可な方法では見られませんぞ」
「そーなんだ?」
「警備兵用の馬車を四台出すのですよ。内一台をお貸しますので、特等席で御観覧なさるがよろしいでしょう」
「えっ、いいの? ありがとう! 喜んで使わせてもらう」
「ハハッ、代わりに不測の事態が起きた時は御助力くだされ。正直、ユーラシア殿がおられる方が安心ですからな」
「あれ、うまく働かされちゃうみたいだぞ?」
アハハと笑い合う。
皆喜んでるからいいや。
「じゃ、行こうか」
◇
「すごい馬車だなー」
黒塗りの四頭立ての四輪馬車だ。
もう見るからにゴツいんだけど。
まるで飾りっけないとこ見ると、式典のみに使う馬車ではないのかも。
アグネスがほうと、ため息を吐く。
「私、馬車を見るの初めてなんです」
「アグネスはそうだろうなー」
西域の自由開拓民集落出身だもんな。
西域街道は馬車なんか走れん。
せいぜい荷馬が人の歩くくらいのスピードで行き来するくらい。
「あちしもこんなにおおきなばしゃははじめてぞなもし」
「大貴族の娘のニライちゃんが初めてって言うくらいの馬車か。これだけで記事書けそうだねえ」
「「はい」」
新聞記者ズが圧倒されてるけど、とりあえず乗り込もうじゃないの。
「うわ、広っ!」
「ハハッ、本日馬車を引くウマは大人しいですが、軍馬が引けば戦車ともなるんですよ」
「へー」
御者さんの説明からすると、いざという時には軍事にも使えるくらいのスペックがあるってことだな。
戦車って何だか知らんけど、窓枠下より上が取り外せるようになってるところからすると、機動性を生かした馬車の中から長柄武器や飛び道具で攻撃するってことなんだろう。
「クッションの利いた座席ですね。これはいい」
新聞記者が感心している。
「馬車にガタガタ揺られるとキツいよねえ。お尻が四角くなりそうで苦手なの。フカフカだと楽だなあ」
「あ、花嫁さんが出てきましたよ」
「一人だけですか? 花婿は?」
薄いピンクのふわふわドレスでパウリーネさんが登場した。
花婿はどこだというざわめきの中、『遊歩』を起動した黒スーツのプリンスが空から現れる。
拍手喝采だ!
「とんでるぞなもし!」
「すごい演出だ……」
「ビックリした? あれはドーラの飛べるようになる『遊歩』というアイテムを使ってるんだ。レベル二〇を超えないと使えないけどね」
「そのアイテムはいくらなんですか?」
「二〇〇〇ゴールドだよ。ギルドで取り寄せできる。あ、お兄も持ってるはずだぞ?」
群衆が落ち着きを取り戻すと、プリンスのスピーチが始まった。
魔道のアイテム拡声器を使用している。
『本日は予ルキウスとアーベントロート公爵家息女パウリーネの結婚を祝っていただき、誠にありがとうございます』
「「「「「「「「パチパチパチパチパチパチパチパチ!」」」」」」」」
盛大な拍手を制し、スピーチを続けるプリンスルキウス。
群衆の注目加減といいピタッと拍手が止むところといい、明らかに固有能力『威厳』の効果が出てるよなあ。
帝都市民の皆さんも、プリンスの貫録をわかってもらえたんじゃないかな?
『まだ至らぬところもあると思う。これからはお互いに支えあい、そして賢き者力ある者の助けも借りながら、皆とともに歩んで生きたいと考えております』
あれ、何だか皇帝即位の挨拶みたいなことも言ってる。
プリンスの決意なのか、あるいはフリードリヒさんにけしかけられてるのかな?
いずれにしても今の言葉は、市民の心の深い部分に刻まれるんじゃないか。
『忙しい中、本当にありがとうございます。今日の善き日よ、カル帝国の永遠の繁栄とともにあれ!』
「「「「「「「「パチパチパチパチパチパチパチパチ!」」」」」」」」
割れんばかりの拍手に片手を上げて応えるプリンスルキウス。
格好いいなあ。
そしてパウリーネさんと見つめ合う。
「おい、あれ見ろよ」
「わあ、素敵!」
パウリーネさんをお姫様抱っこするプリンス。
やんややんやの大歓声鳴り止まぬ中、楽団の演奏が始まる。
パウリーネさんを抱えたまま歩き出すプリンスに戸惑う群衆。
ハハッ、市民の皆さんの戸惑いまで含めて予定通り。
「え? どこへ行くんだ?」
「奇麗な装飾の馬車がないわね。どういうことかしら?」
「まさかと思いますが……。ルキウス様は、パウリーネ嬢を抱えて皇宮まで歩かれるおつもりなのでは?」
「冗談だろ? どれだけ距離あると思ってるんだよ。ムリに決まってる」
パウリーネさんも女性としては大きい方だしな。
皇宮までの三〇分の道のりをお姫様抱っこウォークするのは不可能と考えるのも、ムリからぬことではある。
しかしレベル五〇プリンスの腕力を見よ!
「ど、どうやらパレードは続行のようだな?」
「ルキウス殿下……」
「ええ? マジで皇宮までお姫様抱っこなのかよ?」
楽団を先導して颯爽と歩くプリンスは、さながら物語の中の勇者のようだ。
ヒルデちゃんを抱っこしたまま魔境を闊歩したラルフ君より絵になるなあ。
伝説になるためには、場の雰囲気も大事と知った。




