第1636話:王道であり、覇道のごとく
「マジで花嫁抱えたまま皇宮まで歩くのかよ?」
「すごい……」
「ルキウス様素敵!」
パレードは続く。
プリンスルキウス格好いい。
パウリーネさんをお姫様抱っこしたまま皇宮まで行くのだということが、群衆の間にも認識されてきたらしい。
戸惑いのノイズは熱を帯び始め、プリンスを賛美、応援する声が飛び交い始める。
あたしが思った以上の効果が出てるな。
アグネスとニライちゃんなんかうっとりしてるじゃん。
「まるで夢みたいな……」
「とてもかっこういいぞなもし」
笑顔を絶やさぬまま堂々と歩みを進めるプリンス。
腕の中のパウリーネさんは、柔らかく手を振って群衆に応えている。
楽団を引き連れ大通りを進む様は、さながら王道を進む天子のようであり、覇道を切り開く猛将のようでもある。
後々まで語り継がれる一場面が、今まさに作られようとしているのだ。
新聞記者ズが言う。
「この演出はユーラシアさんのアイデアなんですよね?」
「わかっちゃう? お姫様抱っこは女の子の憧れだよねえ」
「「そうですねっ!」」
あ、女性記者とアグネスの声がハモった。
キュンキュンするもんなー。
「これは伝説になりますよ」
「うーん、伝説を作るにはシチュエーションも必要なんだな。あたしも勉強になった」
「伝説を作るって」
新聞記者ズが笑う。
いや、ラルフ君は伝説になり損ねたからなあ。
お姫様抱っこと『威厳』持ちは共通で、伝説にしようと意図したのも同じなのに。
難しいもんだ。
「ルキウス様、頑張れ!」
「あと半分です!」
楽団の演奏が勇壮なものに変わる。
まだまだ余裕の表情のプリンス。
「何かこう、目が離せませんね」
「プリンスだけ見てていいのかな? 記者さん達はもうちょっと周りを見て、記事ネタ拾ってくべきなんじゃないの?」
「わかってはいるのですけれども……」
うん、目が離せないというのもよくわかる。
だってこれは見逃しちゃいけない、歴史のワンシーンだから。
皆がそれを肌で理解している。
「おうえんしたくなるぞなもし」
「だよね。あたしのイベンターの才能が発揮されてしまった」
華やかなだけじゃなくて、苦難の道を努力して押し通る様が表現されているのだ。
市民の共感が得やすいとゆーか思わず親身になってしまうとゆーか。
いや、あたしはそこまで考えていたわけじゃなかったけど、プリンスやフリードリヒ公爵はこれ予想して採用したのかなあ?
お姫様抱っこ大正義。
「あっ!」
「おい、あれ……」
突然の強風が群衆を驚かせ、パウリーネさんのヴェールを空に奪い去ろうとする。
ハハッ、ここで軽いハプニングか。
風の神様もお約束をわかってるなあ。
「わっちが取ってくるぬ!」
「いや、いいよ。あたしが行く」
メチャメチャ多くの人が集まっているのだ。
悪魔が大っぴらに姿を見せることに、嫌悪感を覚える人もいるだろうから。
あたしに嫌悪感を覚える人?
いるわけないだろ、そんなもん。
『遊歩』で飛び立ちヴェールをキャッチ、フワリとプリンスとパウリーネさんの傍に舞い降りる。
警備の人達が一瞬慌てたように見えたが、すぐにあたしとわかったようだ。
あ、ライナー君がいる。
騎士団からはライナー君も護衛に選ばれてたんだな。
「プリンス、パウリーネさん、おめでとう!」
ヴェールをパウリーネさんの頭にかけてやる。
「ありがとうございます!」
「ユーラシア君、来てくれていたか」
「まあ来るよ。でも今日のあたしは主人公じゃないから、こんな端役しか振られなくてつまんない」
アハハと笑い合う。
「ドーラの新聞記者も取材に来てるんだ。伝説の生まれる瞬間に立ち合えて嬉しいみたいだよ」
「ハハッ、大袈裟な」
大袈裟でもないんだぞ?
幸せオーラに包まれ過ぎてわからんのかもしれんけどニヤニヤ。
……このパレードは、帝都市民のプリンスに対する期待値を大いに高めることだろう。
次期皇帝レースにどれほど影響があるかはわからんけれども。
「ついでだからサービスだ。大魔道士の祝福!」
ペペさんがあたしに作ってくれた支援魔法だ。
降るような光と大歓声が新婚の二人を包む。
うん、視覚効果が奇麗で、二人を祝福って場面だとピッタリだな。
伝説に花を添えてやった。
「そろそろお邪魔虫は去るよ」
「ああ、またね」
『遊歩』を起動し、馬車に戻る。
唸るような大歓声だ。
「ただいまー」
「お帰りなさい」
「あちしもそらをとんでみたいぞなもし!」
「ライナー君やノルトマンさんくらいのレベルになって、このカードがあれば飛べるんだぞ? ニライちゃんも女性騎士目指せばいいじゃん」
「がんばるぞなもし!」
ニライちゃんの撃ち込みはなかなかだったし、何たって父兄が騎士経験のある伯爵令嬢だ。
希望するなら問題なく採用されるでしょ。
でもニライちゃんまで剣術バカになったら嫌だなあ。
いろんなことに目を向けさせてやらないと。
「もうすぐ皇宮に到着ですね。ルキウス様のパワーも実に非凡じゃないですか」
「プリンスのレベルからすると、あれくらいは普通だわ。まーでもすんごい歓声だねえ」
もう少しだ頑張れルキウス様素敵抱いてなどなど、熱狂の渦なのだ。
メッチャ盛り上がるイベントになったなあ。
皇宮正門で待つのは、若草色のドレスに身を包んだ女性。
主席執政官閣下の娘ルーネロッテ皇女だ。
ルーネのところに到着し、パウリーネさんを降ろすプリンス。
歓声が拍手に変わる。
「おー、耳が痛いくらいだねえ」
パウリーネさんがルーネから花束を受け取る。
プリンスパウリーネさんルーネの三人が、群衆に大きく手を振った。
再び拡声器を用いたプリンスのスピーチだ。
本日のクライマックス。
『ありがとう。皆の声援のおかげで皇宮に辿り着くことができた』
シーンと静まる群衆。
お姫様抱っこパレードの成功はあたしのレベル上げの結果であって、帝都市民関係ないけどな、という野暮な言い草。
『こちらはドミティウス兄上の娘、予の姪に当たるルーネロッテだ。今日が初のお披露目になる』
にこやかにカーテシーを見せるルーネ。
ふむ、これで主席執政官閣下とプリンスの関係が良好だというアピールになるだろう。
実際は知らんけれども。
『予とパウリーネともどもよろしく。今日の善き日が皆の幸せとともにあらんことを!』
今日最高の歓声及び拍手とともにフィナーレを迎えた。




