第1634話:どう見ても悪いやつら
「……とゆーわけで、ニライちゃんにはドーラで品種改良されたスライムを一匹飼ってもらってるの」
「とてもかわゆいぞなもし!」
ニライちゃんとアグネス、新聞記者ズを連れ、帝都裏町へ行く途中だ。
ニライちゃんはあたしが、ヴィルはアグネスが肩車している。
無論ヴィルにはアグネスに体重をかけないよう言ってあるので、重くはない。
「うん、ラブリースライムはメッチャ可愛い」
「ドーラのどこで品種改良されたものなんですか?」
「スライム牧場だよ。『オーランファーム』のちょっと西から北へ行ったところにあるの」
「ごはんがほしいときは、キュウキュウとたかいこえでせがむのだ。たべてまんぞくすると、キューとややひくいこえでなくようになるぞなもし」
「へー、わかりやすいな。エサは何をあげてるの?」
「いもとむぎがすきぞなもし。にくはしんせんなものならたべる」
「動物質のものを与えるのにコストがかかっちゃうな。あ、伯爵領は漁業も盛んなんでしょ? 魚なら安く食べさせられるんじゃない?」
「けんとうしてみるぞなもし」
うむ、ニライちゃんはまだ五歳くらいだろうに、商業飼育した際のコストの重要性をわかっている。
やっぱライナー君よりニライちゃんを仕込んだ方が早いわ。
新聞記者ズが言う。
「さすがに人通りが多いですね」
「そうだね。やっぱ今日はお祭りみたいなもんだから」
「こんなにたくさんの人を見たのは初めてです」
「でしょ? 人の多さ一つとっても、ドーラにいては知ることができないよ」
アグネスにはぜひ体験してもらいたかった。
いい天気で良かったな。
パレードも盛り上がるだろう。
「パレードは大通りの方ですか?」
「中央広場から皇宮までだと聞いたな。プリンスルキウスが花嫁のパウリーネさんをお姫様抱っこして、楽団引き連れて歩くんだよ」
「ロマンチックですねえ」
「プリンスはレベルが高いから、お姫様抱っこもへっちゃらなんだよねえ。男らしい演出でしょ?」
「素敵です!」
「すてきぞなもし!」
「素敵だぬ!」
ハハッ、賛成意見多数。
ひっじょーに見栄えがすること間違いないわ。
「これには裏話があってさ。普通のパターンだと、中央広場で新郎新婦が挨拶して、馬車で皇宮まで手を振りながらゆっくりパレードするんだそうで」
「ああ、いかにもですね」
「ありがちぞなもし」
「けど結婚が早くなったから、馬車にまで手が回んなかったんだって。馬車の装飾ってすごく時間かかるんだそーな。苦肉の策で採用された、プリンスルキウスお姫様抱っこで往くの巻」
「素晴らしい演出になったじゃないですか」
「面白いですねえ」
新聞記者ズが盛んにメモしてる。
今上陛下の崩御が近いから結婚が早くなったという事情は言わないけど。
「こっちは裏通りですよね?」
「うん。ニライちゃんもこっちは来たことないかと思って」
「みおぼえがないぞなもし」
元騎士のノルトマンさんは、裏町の治安が良くないことについては百も承知だろう。
わざわざニライちゃんを連れてくると思えん。
「雑多で活気があって、メインストリートでは見られないようなニッチな店が出てる面白いところだよ。でもスリやかっぱらいに気をつけて。あんまりガラがよくないのもその辺歩いてるからね」
「えっ? ニライちゃんやアグネスさんを連れてくるには不適当なのでは?」
「あたしとヴィルがいるから平気だぞ?」
「平気だぬよ?」
駆け出しといってもアグネスはレベル一〇以上あるし、ニライちゃんはあたしが肩車している。
一番危ないのは新聞記者ズなんだけどわかってる?
「痛え!」
「あっ、すいません」
新聞記者ズが通行人とぶつかったようだ。
ハハッ、カップルみたいな歩き方してるから変なのに絡まれるんだぞニヤニヤ。
「ケガしちまったぞ。どうしてくれるんだ?」
「リフレッシュ! ケガ治しといたよ。あたしの連れがごめんね」
「お? おう。いや、そうじゃなくてよ」
「慰謝料を寄越せ!」
「帝都のルールは医者料が必要なくても慰謝料はいるのか。勉強になるなあ」
チビ、デブ、ノッポの三人組だ。
実にわかりやすく悪そーな顔してるなあ。
新聞記者ズが震えてるけど、どうってことないとゆーのに。
でも関わり合いになりたくない人が避けて通るじゃん。
あたしに気付いた通行人もいるみたいだ。
エンタメが期待されちゃってるってことだな?
りょーかいでーす。
「慰謝料の代わりに、芸の肥やしにしてあげるね」
「芸だあ?」
「三人並んでくれる? イッツ、ショーターイム!」
ニライちゃんを震えてる新聞記者ズに預け、チビ、デブ、ノッポを人間お手玉!
「ぎえええええええ!」
「どわああああああ!」
「ひやああああああ!」
悲鳴はどこでも似たよーなもんだなあ。
ニライちゃんとアグネス大喜び。
あたしを褒め称えるがよい!
「すごいぞなもし!」
「御主人の得意技だぬ。三人の体格が全然違うから難しいんだぬよ?」
おっ、ヴィルがいっぱしの解説者だね。
観客の皆さんも大喝采だ。
ハッハッハッ、気分がいいなあ。
適当に三人を降ろしてやる。
「お粗末様でした。気に入った? 慰謝料に足りる?」
「「「……」」」
だから化け物を見るような顔を向けんな。
ん? 誰か来たな。
「姐さん、すまねえ!」
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
裏町の顔役、イガ頭の大男チャカだ。
「こいつらうちの新入りなんだ。悪いやつらじゃねえから、俺の顔に免じて許してやってくれ!」
「どう見ても悪いやつらだけどまあいいや。あたしは心が広いから、こんなことくらいで怒ったりはしないぞ?」
「チャカの兄い、このスケ何なんです?」
「ドーラの冒険者ユーラシア姐さんだ。お前らもヤマタノオロチ退治の勇士の話を聞いたことあるだろ?」
「「「ええっ!」」」
「勇士じゃなくて聖女になんないかなあ?」
「なんないぬ!」
あれ、三人組よ。
ここは笑うとこだぞ?
「今日は勘弁しとくけど、あたしは記憶力の悪いやつはあんまり好きじゃないんだ。このプリティーフェイスをよく覚えておくんだよ。にこっ」
聖女のキメ顔を見せたら恐怖の表情のまま固まった。
だから何故だ?
イガ頭に言う。
「いいところに来てくれたね。今日はこの子達連れて観光なんだ。女の子の喜びそうなところに案内してよ。お土産のお肉があるから皆で食べてね」




