第1630話:ほっこりクリームシチュー
フイィィーンシュパパパッ。
「ユーちゃん、いらっしゃい」
「いい匂いがするねえ」
午後に魔境ピクニックを楽しんでから、チュートリアルルームにやって来た。
今日の夕御飯はクリームシチューなる料理をごちそーになる予定なのだ。
実に楽しみ。
「あ、来たな」
魔力の高まりを感じる。
ヴィルとガルちゃんだ。
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
「お招きありがとう存じます」
「ガルちゃんもよく来てくれたね」
「もうできてるのよ。早速食べない?」
「ちょっと待った。ワイバーンの卵があるんだ。スクランブルエッグにしよう」
◇
「マイルドでうまいなー。安心できる」
「何なの? 安心って」
「殺伐とした心が癒される」
「ユーちゃん、殺伐となんかしてないじゃないの」
アハハ、クリームシチューを食べての感想だ。
ミルク粥みたいなもんかと思ったら全然別物だった。
ずっしりお腹に溜まるわ。
ニンジンの赤と青菜の緑が白いシチューに映えて食欲をそそる。
カレーとは対照的なホッとする美味さ。
「寒い季節にはバッチリですぜ」
「ほっこりしますわ。美味ですわ」
「そうだねえ。バエちゃん、これどうやって作るの?」
何々? 溶かしたバターに小麦粉を入れて滑らかにする。
さらに冷えた牛乳を加えて、熱しながら均等に伸ばしていくか。
プラス具材と調味料ね。
「具材はお肉と野菜が基本か。魚でもキノコでも、割と何だってイケそーだな。考慮の余地ありだわ」
「今日のは具材を煮ておいてクリームシチューの素を入れるだけだから、もっと簡単なのよ」
「クリームシチューの素もあるのか。バエちゃんとこの世界は料理アシスト材料が充実してるなあ」
いや、クリームシチューの素がなくても作り方自体は難しくないのだが。
「ガルちゃん、帝国に似たような料理あるかな?」
「農村地帯で小麦粉と牛乳のスープは飲まれていますわ。こんなに洗練されたものではないですけれども」
なるほど、小麦粉をバターで炒めたるうが未発達ということだな?
あるいはバター小麦粉のコンビ使用が高級スイーツ方向に偏っていて、一般料理の方向に使われていないのか。
「クララ、どう思う?」
「バターの価格がネックですね」
「バターの代わりに普通の植物油だとどうなるかな?」
「似たようなものは作れると思います。ただ風味とパンチが……」
「コブタマンのオイルを足せばいいね」
「コブタマンのオイル?」
ダンテが変なこと言い出したぞ?
ふむふむ、クララが骨スープを作った時に上に浮かぶ脂を保存してる?
「クララ偉い!」
「えへへー」
「風味は全然別物になっちゃいそーだけど、パンチは何とかなるな」
「そちらの世界にはバターがないの?」
「あるけど高価なの。スイーツに絶対必要だから普及させたいんだけどなあ」
スイーツが高価である大きな原因の一つだ。
砂糖とバターの価格は下げなきゃいかん。
今カラーズでは牛乳が飲まれるようになってるって、サイナスさんが言ってた。
ならば牛乳の生産量は増大するし、安くなると見ていい。
今秋のスイーツフェスが契機になって、バター生産も増えるといいなあ。
そーするとスイーツフェスがケーキになるんだが。
「よし、ドーラ式のクリームシチューは作れる。あたしるうを軽視してたな」
首をかしげるバエちゃん。
「どういうこと?」
「かれえにもるうが入ってるじゃん? でも野菜のペーストを使えばとろみはつくから、るうは必要ないと思ってたんだよ。るうを使わない方が味がシャープになるだろとすら考えてた」
「ユーちゃんの考えてる通りなんだろうけど」
「逆なんじゃないかな。バエちゃんとこの世界はるうを使う文化がまずあって、それにかれえ味をつけたものが普及したような気がする。料理アシスト材料として製品化しやすいということもあるんだろうけど」
基本の一つとしてるうがあるのだ。
るうにはかれえ味はもちろん、トマトを投入してもからしを混ぜてもおそらく合う。
様々な応用が利きそうで、だからこそ料理アシスト材料の進化の一端となったんじゃないかな?
「簡単料理材料の進化なんて、考えたことがなかったわ」
「料理アシスト材料を作ったり売ったりしてる側は、買う側に起源を意識させるようじゃダメなんだと思う」
「バエの姉貴! おかわりいただきやす」
「私も少しいただいていいかしら?」
「あたしももらお」
◇
「ごちそーさまっ! 満足です!」
あれ、クララがやる気だね。
今度クリームシチュー作ってみる?
牛乳買ってこようね。
バエちゃんが言う。
「シスター・テレサが感謝してたわ。水魔法『アクアクリエイト』のスキルスクロール製造販売が契約上完全になったこと。何も言わない内にユーちゃんが迅速に動いてくれたって。これで誰にも文句言われる筋合いがないって」
「シスターもバエちゃんと同じで、負け組事業『アトラスの冒険者』に与した格好になるんでしょ? せめて魔法販売で儲けてよ」
「ええ。シスターは聖職者を辞めて会社を設立する。盾の魔法と二本柱になったことで腹が決まったみたい。私も副社長ポストを用意するからどうかって誘われたけど、踏ん切れなくて」
「まー公務員のままなら、生活が安定はするだろうからなあ」
「私は聖職者のままで、シスターから一部権利料をもらうことにしたの」
「いいんじゃないの? 偉い人になると責任も重いからね。あたしも面倒なことは好きじゃない」
寂しげに笑うバエちゃん。
色々考えることあったんだろうな。
「……聖職者のままだとユーちゃんと関わりがあるかもしれないし」
「あたしのことを考えてたのかー。可愛いやつめ。前にも言ったけど、あたしはバエちゃんとの関わりが切れる気がしないんだよ」
「『アトラスの冒険者』がなくなっても、そちらの世界との会話のルートを一部残しておくのかもしれないわね。私がその窓口のポストに収まるとかかしら?」
あり得る。
異世界もこっちの世界との繋がりを消したい人ばかりではないだろうから。
考えられることは多いな。
ただ異世界の事情はバエちゃんから聞くだけしかわからんから、思考を巡らせるのはムダだろう。
「今度来た時、チャーハン教えてあげる」
「ちゃあはん?」
「米の炒め料理よ」
「わかった。期待してる。今日は帰るよ」
「またね」
転移の玉を起動して帰宅する。




