第1612話:アケハ商会
王宮玄関には警備兵の他、ぽにょと三人の壮年男性がいた。
わざわざ出迎えてくれるのは申し訳ないなあと思ったけど、王様がプニル君に跨っていったからか。
「こちらから予の妃となるべアトリーチェ、コージモ外務大臣、ガストーネ森林大臣、ルイージ農業大臣だ」
「札取りゲームを担当してるアレクケスハヤテだよ」
「「よろしくお願いします」」
ルイージ農業大臣は初めてだな。
どうやらこの前遊び……視察に行ったダイオネアの北限農業について話があるみたい。
「うむ、こちらへ」
王様自ら案内してくれる。
広い応接間へ。
◇
「おいしい。これは何なの?」
「オレガノのハーブティーに砂糖を加えたものですよ。ガリアではよく飲まれているんです」
ぽにょが教えてくれる。
へー、オレガノってのも知らんハーブだ。
すうっとする感じがミントに似て非なるもの。
ハーブってすごくたくさん種類があるんだなあ。
クララ、何?
オレガノもミントやタイムに近い植物だって?
なるほど、じゃあドーラで栽培することもさほど難しくなさそーだね。
うちの子達も気に入ってるみたいだし、これもドーラに導入することを検討せねばならん。
「ユーラシア殿も陛下とともにダイオネアの北限の農地を見聞されたそうで」
ルイージと呼ばれたちょびヒゲの農業大臣が話しかけてくる。
向こうでは王様、ガストーネ森林大臣、アレクケスハヤテが交渉し、こっちではぽにょとコージモ外務大臣、ルイージ農業大臣、あたしとうちの子達という形になっているのだ。
もちろん互いの話は聞こえるが、アレクケスハヤテには頑張ってもらいたい。
「北限の農業には驚いたなー。寒い地方で農業やってることは、他所でざっと聞いてたんだよ。でも実るか実らないかわかんないとこなんて、単位面積当たりどんだけじゃなくて、とにかく広い土地面積を生かして大雑把に全体の収量を稼いでるのかと思ってたんだ。あんな凝った輪作してるとは、完全に予想外だった」
農業とは条件との戦いだ。
中でも温度が足りないってのは、最も克服しづらい条件の一つだと思う。
ダイオネアの北限農業は、人間の叡智が限界を凌駕した素晴らしい成果だ。
「コージモ殿はダイオネアもラージャも往訪したことがおありかと思いますが……」
「恥ずかしながら、全く気付きませんでした」
「わしもです。農業大臣の職にありながら不甲斐ない」
「気にすることないって。農業行政の専門家と実際の耕作は違うと思うよ。でもこれからガリアの農業をどうしていくかの構想を練るのは、ルイージさんのお仕事」
「確かにそうですな」
ちょっと笑いが出る。
ルイージさんの目に決意が見える。
確固としたお手本があるのだ。
ガリアの農業も今後数年で劇的に生産量が上がるだろう。
「他にユーラシア殿が気付いたことはありましたかな?」
「あたしが気付いたってわけじゃないんだけど。北限農業の話をある人にしたら、耐寒品種の収穫分を国内向け需要に回して、輸出してるのはより暖かい地域で収穫された普通の品種なのかもしれないって言われたんだ。耐寒品種があることを知らせないためにはあり得ることだなーと思った」
「ふむ、本当ならば周到ですな」
「現地の小作農の小屋で変わったツールを見たんだ。あとで気になってさ。あれ何だろってうちの子達と相談したんだけど、温度を測る装置なんじゃないかって結論だよ」
「温度?」
「例えば数日間の最低気温がこの線以上になったら種蒔きに適するとか。そんな使い方をしてるんじゃないかと思う」
「何と! 驚くべき手法です。指導が行き届いていますな」
「多分だよ?」
日付けでスケジュール決めるより正確は正確だろうなと、想像はできる。
ちょびヒゲ農業大臣が愕然としているわ。
けどタネが明かされちゃえば大したことではないと思うよ。
最初に思いついた人はすごいけど。
「いやー、でもあんな先進的なことしてるなら、北国なのに農業国って威張れる理由わかるわ。ドーラから見ると、政府主導の大規模農業ってだけですごい」
「わが国でも同様です。国から指導を行うことはあっても、国有事業として農業を行うことはありませんでした」
国が何でもかんでもやっちゃうことがいいとは思えん。
民が儲ける機会がなくなるとやる気なくなるのではないか。
新しい発想も出なくなりそう。
でも大きな組織が豊富な資金をもって主導しないとできないことも、また確実にあるのだ。
バランス大事。
「ぽにょはダイオネアで何か気になったことなかった?」
「住んでいる方達のお買い物はどうしてるのかなと、気になりましたね。生活必需品には困ってないようでしたが」
「そーいやそうだ。あんな遠隔地の人間ほとんど住んでないところまで行商人が来るわけないしな?」
「おそらく小作人の生活環境にまで国のケアがあるんでしょうな」
「きめ細かいなあ」
まーその辺の計画はおいおい決めていけばいいよ。
どっちにしても耐寒品種の種とイモを増やしていくまでに何年かかかるからね。
コージモさんが言う。
「我が国で食料を増産できるとなると、影響は非常に大きいです」
「一番大きいのは人口増やせることだね」
「ほう、ユーラシア殿は人口を重視しますか」
「重視するねえ。ドーラは人口が少ないせいでできないことも多いんだよ。今はどんどん帝国からの移民受け入れてんの」
コージモさんは各国をよく知る外務大臣だ。
天使国アンヘルモーセンのように、食料を戦略的支配材料として使うことを考えてるのかもしれないな。
でも食べ物を盾にするなんてことはしなくていいと思うよ。
意地悪された方は覚えてるもんだ。
親切を押し売りしてやった方が、後々動きやすいだろ。
「ん、そっちも話終わった?」
皆晴れやかな顔じゃん。
ウィンウィンの交渉ができたみたいでよかったね。
「製造販売全てガリアサイドにお任せで、一個につきアイデア料四ギルもらえることになった」
「内海諸国に輸出することはあり? なし?」
「もちろん構わない」
「ギルはアケハ商会名義の口座に貯めておいてくれることになったんだ。将来ガリアへ進出した時の資金だね」
「おお、将来のこと考えてるのか。アケハ商会って何?」
『ア』レク『ケ』ス『ハ』ヤテの頭文字を取ってということらしい。
なるほどね。




